川名 光弘 の物語>出会い 3
野崎は臆病で狡猾な人間だ。
人に見られることのないよう、毎日下校時間になると、俺を学校裏の落ち葉置き場へと連れていく。
そこで國本たちと合流し、俺を蹴り飛ばして痛めつける。
そして、下校時刻が大分経過し誰もいなくなったことを確認してから、今度は俺を教室へ移動させ、そこでさらにじっくりといたぶるのだ。
だが、今日はいつもと様子が違った。
リコという女の子が、休み時間にこっそり俺にチョコレートを渡そうとしたことが、彼らには許せなかったのだ。
激高している野崎たちは、いつものように落ち葉置き場へ連れていくことはせず、人気がなくなると同時に、そのまま教室で激しく俺をいたぶり始めた。
いままで以上の執拗なまでの暴力に、苦しさで視界が歪む。
みぞおちを蹴り上げられ、こみあげてきた吐き気を、身体を丸めこらえていると、俺の髪を國本と野崎がつかんで無理矢理起き上がらせてきた。
「こいつ、こんだけやられても泣きもしねーなぁ。」
「喜んじゃってんじゃねーの?」
「マジ?マゾってやつ?」
彼らの笑い声が響くたび、頭が割れるように痛む。
ロッカーの中に蹴り入れられ、色を失くした世界で寒さと痛みに身体を震わせる俺の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
聞き間違いだ。
そう思った。
こんな時間に、ここにいるはずがない。
だが、どんなにそう思い込もうとしても、心臓の鼓動がはやるのを抑えることができなかった。
次の瞬間、目の前の扉が開かれ光が差し込んできた。
聞き間違いなんかじゃなかった。
驚きに見開いた俺の目に、確かに真也たちの姿が映っていた。
かぶせられた上着に残る真也の熱が、心の奥まで伝わってきて、俺は思わず目を伏せた。
この気持ちは決して許してはいけないものだ。
俺にかかわれば真也たちまで母さんと同じ目に合わせてしまうかもしれない。
それなのに・・・・・。
俺は自分の気持ちに気づいてしまった。
いや。
気づかないふりをして、本当は心のどこかでいつも願っていたんだ。
3人の姿を目で追いながら、俺はその中に自分の居場所を夢見ていた。
冷たい悪夢にうなされる毎日の中で、どうしようもないくらいに焦がれて、祈り続けていたんだ。
それが、望んではいけない願いであっても・・・・・どこにも届かない祈りだったとしても。
だが、焦がれていた扉が開かれた今、その扉の向こうにあったのは優しさだけじゃなかった・・・・・・。




