6 土居四葉の憂鬱
6 土居四葉の憂鬱
「男性声優が合コンしたかしてないかくらいでニュースになる日本って平和だよな」
「どうしたの?四葉ちゃん」
「いいや。別に」
私はポケットの中にある護符を握りしめる。これはすでに効果のなくなってしまっているものだ。
「そう。それが問題なんだ」
「なにか悩み事でもあるの?相談に乗るよ」
「大丈夫だ。ココア。心配してくれてありがとう」
ココアはいい子だから、心配してくれると本当に和む。
「ココアたん。マジ天使」
「ひゃうっ!」
私がココアに突然抱きついたので、ココアはおかしな声を上げる。
私は辺りを睨む。ココアのことを嫌らしい目で見ていた男どもを震え上がらせる。
私はココアとデパートに来ていた。
事の始まりは、昨日帰宅してからだった。さっさと護符に引っ付いていたヤバ気なものを追っ払って、ゲームに勤しんでいた時のことである。そこそこ強い敵と戦うにあたって、かつてのトップランカーの姿がいないことに私は不安を覚えた。だが、なんとかなるだろう。卒業生のことなど気にしていても仕方がない、とゲームを始める。
実際、トップランカー不在でも何とかなったのだ。あるアクシデントさえなければ。
「なに?キーボードが反応しないだと!?」
攻撃用のキーボードのキーが反応しないことに気がついた。何とか戦いを続行していたものの、アクションゲームにおける通常攻撃コマンドが封印されたに等しい。そして、今回のイベントは高ランク向けであったので――
全滅した。
私たちの失ったものは多かった。中には最高クラスの武器を全て使用し、使い果たしたものもおり、グループ全体の損失も激しかった。
どうしてあの人はやってこないの?
昼夜問わず常にゲーム内に存在していて、AIかなにかだったんじゃないかと噂さえされていた彼は、どうして最近現れないのか。
「どいつもこいつも、あのバカのせいだ」
どうしてここでバカのせいになるのかは分からないが、きっとあのバカのせいなのだから、仕方がない。
「ユルスマヂ、ゆるすまぢ、ゆーるーすーまーぢいぃいぃいぃいぃいぃい!」
だが、あのバカを恨んでいても仕方がない。私はなすべきことを成さないと。
今から店に駆け込んでも仕方がない。明日の休日に良いキーボードを買いに行こう。
私はココアに電話する。
「もしもし。どうしたの?四葉ちゃん」
「ココアか」
私はココアの声を聞いた瞬間ポロリと涙を流す。だって、なんだか色々理不尽じゃんか。
「どうしたの?泣いてるの?」
「大丈夫。ただ、感動しただけだから」
これほどまでに泣くのは追加プリキュアの登場以来である。つまりは、毎年泣いているわけだが。
「明日暇か?暇だったら、一緒に買い物に行きたいんだけど」
「え?明日?」
ココアがひどく困った声を上げる。
「どうかしたのか?用事があるのなら別に……」
「休みの日に明くんとお勉強するって……」
「あんな奴と関わるな。ココアが不幸になる」
「ひゃっ」
ココアは驚いて可愛い声を上げた。
「いいか、ココア。あんな奴と関わってはいけない。どうせあいつのことだから、ココアとの約束なんか覚えていないし、簡単に忘れてしまう。だから、明日は私とともに買い物に行こう」
「あ、うん……」
ココアはあまり乗り気ではない返事をしていたが、一緒にデパートに行くことになった。デパートはココアの買い物のためである。
「どうしたの?四葉ちゃん」
「まあ、誘ったのは私なのだが」
私たちは下着売り場に来ていた。何故だか目の行き場に困る。女性でもあまり好んで近づきはしないだろう。
「最近サイズが――」
「その先は言わないでくれ。ココア。私が首を吊りたくなる」
小さい方がどうとかいうマニアもいるようだが、現代の風潮として、大きければ大きいほどよく、そのくせスタイルが崩れていない方が好ましいという。結局はどちらかを取らなければならず、かといって、ケダモノどもを喜ばせるためだけに努力するつもりもないのだが。
「店員さんにサイズ図ってもらおうかな」
「ぬぬ!?ココアのおっぱいは私だけのものだ。誰にも渡しはしない」
あの柔らかく色白な双丘、いや、あれはもう山だ。あの山いっぱいの財宝を店員などに渡しはしない。
私はさっとカーテンを閉める。
「どうしたの?四葉ちゃん。まだ何も選んでないけど」
「じゃあ、これを着ておけ」
私は適当に服を放り込む。そして、近づいてくる人影に対し、不審感のない程度で顔を隠す。
例のバカが何故か婦人服ゾーンに入り込んでいる。傍に居るのは妹と、あとは誰だ?金髪の美少女がいる。目は宝石みたいに青い。三人は仲がよさそうに話している。
何故だか苛立つ。
どうしてあんな薄ノロのことを皆は心配するのか。ココアも、赤嶺の家のものも。
「ねえ、四葉ちゃん。どうしたの?」
「あ、ああ。すっかり忘れていた」
私はバカどもがどこかに消えたのを見計らって、ココアを開放する。
カーテンが開かれた瞬間、絶句する。
「その格好は――」
我ながらに天才だった。普段から鍛えている成果が出たのだろう。
ココアはネコミミメイドになっていた。
この際どうしてここにメイド服やネコミミ、可愛いしっぽと肉球てぶくろがあるかは論議にならない。あるべくしてあったのだ。
「ココア。結婚しよう」
「え?ええ!?四葉ちゃん、どうしたの!?」
きっとココアと二人ならどんな壁も乗り越えられると思った。
あのバカのいるところにいたくはない。なので、私はココアを連れてさっさと電気街に向かうことにする。普通のキーボードならデパートでも買えるだろう。だが、ゲーム用に特化した操作性や叩き心地を極めるなら、専門店に行くべきだ。キーボードの形や高さだけでも感触は大きく変わるのだ。
「でも、休憩しようよ」
確かに、ここまで来るのに大分歩いた。
「なら、あそこで休みましょう」
こんなド田舎でも電車を使って通いに来る人がいるほどの有名店である執事喫茶に私たちは足を踏み入れる。時間帯が微妙だったせいか、それほど並ぶことなく私たちは喫茶店に入ることができた。
「こういうお店、初めてだから、緊張するね」
「ココアはもっと他の男を知るべきよ」
「へ、へうぇえ!?ここってそういうお店なの?」
「普通の執事喫茶なんだけど……」
ココアが何を勘違いしているのかはよく分からなかった。
「本日のご注文はいかがいたしますか?」
スポーティな感じの男の子、浅くんが注文を取りに来る。
「そうね。ティラミスと紅茶を一つずつ」
紅茶。うん。いい響き。うちでは緑茶しか飲めない。
「わたしも同じのを……」
「わかりました。ティラミスと紅茶お二つずつですね」
突然別の子が割り込んで注文を取りに来る。
「万寿!テメェ、邪魔しやがって」
浅くんは万寿くんを追いかける。
「一体何が?」
「気にしないで。あの二人はいつもああだから」
こうやって大人な目線で眺めるというのもここの楽しみだ。確かここの店員さんはみんな私たちより年上だった気がするけど。
「やっぱり」
不動のクールガイ、蓮さんに二人は怒られている。巻き込まれた浅くんはちょっとかわいそうだが、挑発に乗った浅くんもまた、悪いところがある。
しばらくして、謝るついでに支配人さんが注文したケーキたちを運んでくる。
「すいません。今日はみんな勢ぞろいなので騒がしくて」
「いえ。苦労しますね」
支配人さんはこの店の唯一の女性である。背が高く体格がいい。何かスポーツをしていたのだということはよく分かる。
「おや。男性のお客様とは珍しいですね」
不意にそんな声が聞こえる。この優し気な癒し系ボイスは和蘭さんだ。
確かに男性は珍しいな、と私は興味本位に和蘭さんのいるテーブルを見やる。
「あ!あかり――」
私はティラミスをココアの口に放り込む。
どうしてアイツがこんな店にいるんだ。
「彼女さんたちですか?」
私は和蘭さんのその言葉に吹く。
このボケようはわらんさんに違いない。時々和蘭さんはどうしようもなくボケてしまって、こういう風にちょっとデリカシーのないことを言うことがある。
支配人さんは急いでアイツらに謝りに行ったようだった。
「ココア。早く出るわよ」
「でも、明くんが――」
「あんな奴、ほっときなさい!」
どうして今日はアイツにこれほどまでに遭遇するのか。訳が分からない。
店を出て電気屋さんを回ろうと思っていた矢先だった。
突如としてスマホが着信する。ポケットから取り出してみると、よく知らない番号だった。間違い電話なら間違いだと正すべきだし、誰かが訳あってかけてきたのかもしれない(普通訳もないが、父の関係かもしれないし)ので出ることにした。
「コノデンキガイニバクダンヲカクシタ」
変声機で声を変えていたのでこんな風な反吐の出るように気味の悪い声が聞こえた。
「あんたなんなの?いたずらならいい加減にしなさい」
「サンバンガイノデンキヤニカクシタ」
「何言ってるの?ねえ!」
「どうしたの?四葉ちゃん」
「いえ。何でもない、わ」
ココアを巻き込むわけにはいかなかった。やばいものは感じなかったけれど、これは私の家族関係の問題だ。ココアがケガをしてしまってはいけない。私一人でなんとかしないと。
「ちょっとごめん。急用ができた。ここで待ってて。変な奴に声をかけられても絶対について行っちゃダメだから」
電気街とはそういうところなのでちょっと不安ではあったが、爆弾よりはマシだろう。
電話はココアと話しているうちに切れてしまった。
私は三番街へと向かった。
三番街には唯一、電器屋がある。電器屋というよりも売っているものはジャンクに近い。ジャンクといってもしっかりとしたもので、中古品というか、すでに市場に出回らなくなったものを中心に置いている。私もまずここに買い物に向かおうと思っていた。
「しかし、一体なにがどうなっているのだか」
私は電話での内容について走りながら考える。
どうして爆弾魔は私の電話番号を知っていたのか。どうして私に爆弾のありかを教えたのか。
警察に通報することが頭に過る。だが、一度本当に爆弾があるのかどうかを確認してからでも遅くはない。ただの悪戯だとは思えないが、私自身、未だ爆弾がどうのということが信じられていない。
ただ一つ、確信を持って言えるのは、私の家か私自身に恨みを持つ人間が存在することだろう。そして、そいつは他の人間までも巻き込もうとしている。
「すいません!」
私は電器屋の中で大声を張り上げる。
「どうかしましたか?」
神経質そうな老人が出てくる。
「この店に――」
そういいかけて、私は素直に爆弾があると言っていいのか迷った。無駄な混乱を招くだけでもあるし、第一、そんな突拍子もないことを誰が信じるというのか。
「この店に危険なものが設置されてるの。だから、探させて!」
もう、やけくそになるしかなかった。私は店の中を探し回り、どこかに不審なものがないかを探し回る。だが、パーツばかりだとどれもが爆弾に見えてしまう。
「嬢ちゃん。止めてくれ」
私はきっとおかしな人間に思われているだろう。でも、早くしないと――
「たのもー!」
その時、無駄に元気のいい声が響いた。
「おっちゃん、たのもー!」
「おい、ガキ。ここは道場じゃないぞ、って、赤嶺んところの坊主か。ありゃ。家からでとるぞ。ワシはとうとうあの世に片足を――」
「ひどい言われようだな。それより、おっちゃん。この店に爆弾が仕掛けられている」
なにを馬鹿正直に言っている!
他の買い物客が動揺しているのが分かる。
「なにをバカなことを――」
「爆弾魔から電話があったんだよ。ちょっと店を見させてくれ!」
「待ちなさい!」
私は我慢しきれずにバカに怒鳴る。
「アンタ、このバカ!バカ正直に爆弾とか言ってんじゃないわよ、バカ!」
「バカバカうるせえな。さっさと爆弾をなんとかしないといけねえだろうが……って、土居?というか、どうして爆弾のことを?」
「それはこっちが聞きたいけど、もう時間がないわ。時限式かどうかも聞き忘れているけど、もうどうだっていい。私も電話でここに爆弾があるって言われたのよ」
「なんじゃと!?じゃあ、本当に……」
「おっちゃん。なんか最近変わったもんとか……」
そんなとき、どこからともなくおもちゃのラジコンが走ってくる。猿の道化の恰好をしたおもちゃだった。
「まさか――」
これが爆弾なのか、と私はおもちゃに向かっていく。
その瞬間、おもちゃの頭がパンと弾けた。
『はずれ』
そんな紙が宙を舞っていた。
「おい、土居。これはどういうことなんだよ」
「私が聞きたいくらいよ」
頭が混乱してもうよく分からなくなっている。
そんな時、電話が鳴る。またも、よく分からない電話番号。
「もしかして爆弾魔か」
「あんたにはなんでかかってこないの?」
「うん?俺はスマホどっかやってるし」
「それが高校生のセリフかしら」
「とにかく出ろよ」
「あんたが仕切るんじゃないわよ」
まったく苛立たされる。
『やあ。はずれで残念だね』
「あん?」
ついつい喧嘩口調になる。
『おや。演出がそんなにもお気に召さなかったか』
「あんたは何者なの?どうして私たちにこんなことを?」
男はボイスチェンジャーを使うことをやめていた。少し粘っこい、嫌らしい言葉遣い。
『まあ、そんなことはいいじゃないか。それよりも、次は二か所。近くのデパートを一番街だ。制限時間は30分。今回は範囲が広いからな。後でヒントでもやろう』
「待ちなさい!」
爆弾魔は電話を切った。私はかけ直そうとしたけれど、『おかけになった電話は――』となり、どうしようもない。
「どうなったんだ。土居」
「30分以内にデパートと一番街」
「それぞれ逆方向じゃないか」
三番街から一番街へは東に。デパートへは西にそれぞれ10分程度。探す暇などを考えると、両方探すのは難しい。片方はまたも偽物ということが考えられるが、確証がない今はどちらも本物と考えるしかない――
「よし。俺はデパートに行く。土居は一番街を頼む」
「待ちなさいよ。勝手に仕切らないで」
でも言いたかったのはそういうことではない。デパートを隅々まで一人で探すのは無理がある。一番街はそれほど広い範囲ではないのだ。
「頼むぜ!」
「待て!バカ!」
バカは何も言わずに去っていった。
「チクショウ。なに考えてんだ。あのバカは」
考えていても始まらない。私は一番街へと向かうことにした。
一番街に来て、爆弾がすぐにどこにあるのか分かった。
細い路地の奥に四角い正方形の箱がある。そして、その箱から醸し出される魔の匂い。
再び電話が鳴る。
『たどりついたようだな。箱に取り憑いている怨霊を倒せば爆弾は解除される』
「どこからか見ているのかしら」
『グーグルマップだよ』
「そんなにあれは万能じゃない」
ただ気がかかりなのは、向こうにもその仕掛けがあれば、バカは確実に死んでしまうということだった。
『気にするな。向こうはきちんとしたクイズ問題だ』
私の方にこの箱をあてがったということは、相手はバカのこともよく知る人物なのか。それとも――
『さあ。実験を始めよう』
その言葉とともに怨霊が襲いかかってくる。
「レベル2か。大したことない」
私は符を取り出し、怨霊からの攻撃から身を守る。怨霊は人を呪い殺すものだが、レベル2ではそんな力もない。ただ、物理的に殺しにかかってくる。
怨霊は自分の手が届かない存在だと知ると、あたりのゴミ箱を私に向かって投げてくる。私は少し移動するだけでゴミ箱を避ける。
「低級な怨霊しか扱えないとなると、素人か。少なくとも専門家ではない。そのくせ霊能に関わっている」
相手の正体と目的がまったく分からなかった。曲がりなりにも怨霊を扱えるのなら、怨霊で悪さをすればよく、爆弾など必要ない。
「実験か」
爆弾魔の言葉を鵜呑みにするならそういうことらしかった。
「俺のこの手が真っ赤に燃える!」
以上、割愛。
怨霊は私の拳で消え去った。
私は爆弾の入っている箱を蹴り飛ばす。そして、苛立つ。
爆薬の入った箱がこれほど軽いわけがない。爆薬の原料は金属だ。重いに決まっている。
『残念だったな。次は六番街の公衆便所だ』
私は握っていたスマホを握りつぶさんばかりにその手に力を入れる。
六番街は電気街の南にある。三番街の真南だった。
ふと、私はあのバカについて考える。スマホを持たないバカはこれ以上爆弾魔の実験に付き合わされることはないだろう。
何故か安心する。
あのバカがどんな危険な目に合おうと私には関係がない。爆弾に吹き飛ばされてしまえばいい。あんなヒキコモリの、無産な、とんでもないできそこないなど。ココアがどれだけ苦しんだのか、今日の振る舞いを見れば、あのバカはそんなことなんて考えてもいない。
安心する。
それはきっと普通なことだ。誰かが危険な目に遭うというのはあまりいいことじゃない。あまり見たくない。
そう。逆にあのバカを目の敵にしている方がおかしいのだ。
どうして私はあのバカを目の敵にしているのか。
六番街までは一度執事喫茶のあった通りまででなければならない。少しココアのことも気になっていたので、様子を見ることにするのだが……
「これはどういう?」
そう真顔で質問せざるを得なかった。
「えっと、四葉ちゃん。こっちはアリサちゃんで、明くんと大地ちゃんのお友達」
「あの蛆虫とは友達でも何でもないデス」
「で、こちらが爆弾魔さん」
「だから、あっしは電話をかけるよう命令されただけで――」
「どういうことなのか説明してくれないか」
すると、何故か爆弾魔と呼ばれていた女性が話し始める。
「ちょいと誰に雇われたのかは言えませんが、あっしは電話をかけるように言われたんです。で、電話をかけていると、ちょうど目の前に電話をかけている張本人たちがいらっしゃるじゃありませんか。あっしはそのうちの活発な女の子にありとあらゆるプロレス技を実験のようにかけられ、ついにはこうやってお嬢さんたちに捕縛されているんでやす」
「……すまない。時間をくれ」
私の混乱は絶頂に達する。もう、訳が分からない。
「ともかく、お前らの目的はなんだ。実験とは一体?」
「それはあっしもしりやせん」
女はいやらしい笑みを浮かべる。これは知っているが言う気はないという表明だった。
「あとでしっかりと話してもらおう」
今は爆弾が先だった。
「四葉ちゃん」
去りゆく私にココアが声をかける。
「危ないことはしないでね」
「ああ」
私はココアの笑顔が守れれば、自分の命などどうでもいいと感じた。
だから、駆けて行く。
「ここか」
誰も使いたくはないだろう公衆便所がそこにはあった。私は便所に入ろうとした。
「間に合った」
遅れてバカとその妹が現れる。
「どうしてここが……」
「もともと大地の電話にかかってきてたんだよ」
大地とはバカの妹の名前である。
「とにかく、早く爆弾をなんとかしないと」
爆弾は女子トイレの中にぽつんと置かれてあった。それだけだとシュールにしかならない。
「女子トイレに入ってくるなよ」
「まるで俺が変態みたいじゃないか」
「十分変態だと思うよ。おにいちゃん」
なんだか、こいつらといると調子が狂う。
「さて。こんどもどうせデマなのだろうが」
そういって蓋を取った瞬間、絶句した。
カウントは残り10秒だった。
「なんだって!?」
私はそんな言葉しか吐くことはできなかったのに、バカは違った。
「何をしているんだ」
バカは便所の床にうずくまり、爆弾を体に抱える。
まるで自分の体で爆発の被害を抑えようとしているような――
「俺、金色のバカだからさ。こんなことしかできなくって」
「本当にバカだ!」
バカにも程がある。命を懸けてでも守ると言ったのに、そんなことすらできず、情けない虫けらだと思っていたバカがその代りをするなど、バカげているにもほどがある。
「おにいちゃん。死ぬときは一緒だよ」
大地はバカの上からさらに体を載せる。
「大地。俺は死ぬつもりはないぜ。それと、死ぬときにお前と一緒なのは嫌だなぁ」
「なにそれ!せっかく可愛い妹が一緒に死んであげようっていうのに」
「自分で言うなよ」
「どうしてお前らは――」
そこまで気楽なのか。
そう問おうとした瞬間、目の前が白い光に包まれる。
HandG2 完
「となればよかったんだろうけど」
そんな呑気な声が聞こえて、私は目を開ける。そこには無事な二人の姿がある。
「どうしてだ。爆発したはずなのに」
だが、爆発したのならば、私も無事ではいられないだろう。
「なんでだろう?」
「なんでだろうなぁ」
二人のバカ兄妹は訳が分からないというふうに互いを見合っている。
「とにかくみんなのところに戻ろうか」
「うん」
「なんだろうな。この、感動の場面を踏みにじられた感は」
私は始終腑に落ちなかった。
「あれ?爆弾魔さんは?」
「それが……」
「アリサがトイレに行っている間、逃げてしまったデス」
「ごめんなさい。わたしが逃がしちゃって」
「ココアに危険がなくて、本当によかった」
私はココアを抱きしめる。
これで一件落着ではないだろうか。
「なんだかんだで高橋李依さんが多忙なイヤホンズがオープニングでも歌ってくれるだろうさ」
「おにいちゃん。夢は寝てから見るものだよ」
「夢は叶えるものだろ?チャンスにつなげないと」
「誰も分かりっこないネタを出すのはなんとも言えないデス」
なんだかんだで疲れて、それでも一番重要だったキーボードを買って、私は帰路についた。
帰って早速、ゲームをする。休日の貴重な時間をあんな茶番に費やしたのだ。
ゲームに入る。すると、かつてのサーバー内トップの姿があった。
私も疲れていたのだろう。理性が麻痺していたのだろう。
ついつい親し気に話しかけてしまった。
「最近いらっしゃらなかったようですが、どうかされたんですか?」
言葉を打ち続けながら、心臓もまた、高鳴る。返事を待つ時間が待ち遠しい。長い長い、悠久の時のように思えた。
『ちょっとパソコンが故障していまして』
なんだ、と胸をなでおろす。止めてしまっていなくて本当によかった。
「わたし、あなたのことが好きです」
エンターキーを押した時には遅かった。
すでにメッセージが送られている。
「すいません。忘れてください」
なにを私は発情しているのだろうか。
恥ずかしくなって、その後数時間はゲームができなかった。
全てあのバカ野郎のせいだ。
「金色のバカ。なにやってるの?」
「いやあ、生まれて初めて告白された」
クロはゴクリと生唾を飲む。
「金色のバカがまさか。いや、金色のバカに限って、そんな……」
「まるで真犯人だったみたいな反応だな」
かなり心外ではあるが、俺も自分では何が起こったのか理解できない。
「って、この人、ネカマの人だ」
「え?」
「ほら。前、金色のバカが言ってた、『私に貢いでください』のひと」
ああ。なるほどね。ああ。なるほど……
「泣いてるの?金色のバカ」
「これで泣かずにいられでか!」
「大丈夫だよ。金色のバカにはクロがいるから。まろはパライソス星の姫じゃなからな!」
「まだその設定引きずってるのかよ」
「別にいいじゃん!第二の人生だよ?」
「クロの場合よく分からん」
だが、それでも告白されて、俺の胸の鼓動はなかなかおさまってくれなかった。
「テメェ。なんだ?あの爆弾は」
「す、すんません!」
爆弾魔たちは暗いどこかで話している。爆弾魔の女性は必死で土下座していた。
「この役立たずが。なんだ?あの示現バカ弾は。どうしてあいつらには効果がなかった?」
「博士曰く、あの二人がバカだから、バカなものはそれ以上バカになりようがなかったんじゃないかと……」
「役立たずなものを作りやがって。まだ加賀の方が使えるっつーの。まあ、いい。博士に変なものを作るのはほどほどにしろと伝えておけ。さっさと改造人間の製造をしろとな」
「しかし、博士は長年のパートナーを失って、やる気をなくしておられます」
「ああ。高嶋か」
「はい」
ニタリ、と爆弾魔は笑う。
「俺はお前を手に入れて見せるぞ。クローズ。そして、今度こそ、世界を終わらせてやる」
男の笑い声が闇の中に響いた。
今話ならびに前話にでてきた執事喫茶なのですが、ふと逆ハーレムものをと考えて作り出したお話です。しかし、まだプロット状態。そもそもにいろいろと連載がたまっているのに、という状況。話は大体決まっているのですが、手が足りない。私に腕がもう4本あればなぁ。コンセプトは「志望職種は--魔法少女で!の性転換バージョン」どうなることやらと、いつはじめることやら。




