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HandG2  作者: 竹内緋色
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7/7

7 ついついトイレの水洗ボタンって二回押しちゃうよね

7 ついついトイレの水洗ボタンって二回押しちゃうよね


 とりあえず、折角の休日はいろいろあったわけだが――

「どうしたの?金色のバカ。頭悪いの?」

「……」

「バカなの?」

「――」

「バーカっ、ばーかっ」

「……」

 と、クロが俺を蹴り飛ばしてくる。

「なにすんだよ。というか、クロ。お前、だんだん暴力的になってないか?」

「金色のバカが無視するからだ!クロはここにいる!」

 そんな涙目で訴えられてもな。子どもかっての。まあ、年齢不詳な謎の自称宇宙人なわけだが。

「うるさい、うるさい!明がおかしいから悪いんだ!」

「俺、おかしいか?」

 確かに起きてからぼーっとしているから、熱でもあるのかもしれない。

「バカが風邪ひくわけないだろ?」

「お前に言われたくはねえよ」

「まろはパライソス星の姫ぞ!」

「アルファベットも知らなかったくせに」

 でも、それはクロの境遇からすれば仕方のないことで、むしろ、物覚えは俺なんかよりはるかにいい。つまり、頭は俺よりよくできているのだろうけど、性格が性格なだけに、決して俺がクロよりバカであることを認めたくはなかった。

「そういうのを揚げ足取りって言うんだ!」

「そういう言葉ばっかり覚えて」

 パソコンはネットに繋がっているのだから、色んな知識を取り入れてしまうのだろう。家の中から出られないクロが外の世界を知る手段はインターネットかテレビしかない。

「でも……明。本当に大丈夫?」

「何がだ?」

「その、爆弾で頭が悪くなったんじゃないかって……」

 急にしんみりした声で言われる。言葉的に物凄くバカにされているはずなのだが、これもクロなりに俺のことを心配してくれているのだろう。

「大丈夫だ。結局あれは爆弾でもなんでもなかったらしいし。ただの悪戯みたいだ」

 そのくせ、妙に手の込んだ仕掛けだったとは思う。あの後、警察署で話を聞かれて、ついでに携帯電話も調べてもらったが、発信元は一切分からなかった。どうもかなり特殊な技術で電話をかけてきたらしい。北海島やら起縄の今はもうないはずの公衆電話の電話番号だったらしい。その他のことはやはりよく分からない。一応、俺が(というか大地が)捕まえた間抜けな爆弾魔の手配書はできたが、ただの悪戯ということもあって、捕まっても大したことにはならないだろう。

 俺はクロの白銀の髪を撫でてやる。銀色なんて折り紙の色でしか見たことなかったけれど、本物の銀色の髪は本当に美しくて、触り心地はとてもいい。さらさらと絹のような触り心地だ。

「おにぃちゃぁあぁあぁあぁあぁん!」

 突如として俺の部屋の扉を開け放ち、大地が入ってくる。

「何してるの、おにいちゃん!?まさか、脳内妹でお楽しみ中!?」

「そ、そんなわけあるか!」

 そこそこ的中していたので慌てて否定する。

「目が斜め上を向いたけど?」

「そんなときだけ鋭くなるなよ」

 それと、せめて部屋に入る時はノックをしてほしい。

「そういえば、大地。あの爆弾事件の後、頭がぼーっとしたりしないか?」

「しないけど、どうしたの?頭が悪いの?」

「クロと同じことを言うな」

 頭が悪いのかを聞かれるって、多分あまりそういう場面に出くわさないだろうとか思ったりする。

「ちっ。まさか、脳内妹とキャラ被りするとは。やはり、その内倒しておかなければならないな」

「怖いぞ、大地」

「おにいちゃんも脳内妹と遊んでないで早くご飯食べるよ」

「へいへい」

 クロの姿は俺以外には見えないから、脳内妹、と呼ばれても仕方ないけれど、俺はやっぱり嫌だった。俺の頭がおかしいとかそういうんじゃなくて、クロが可哀想なのだ。でも、大地がクロを受け入れられない気持ちもよく分かる。俺だって、急に天姉や大地が脳内妹と話し始めたら受け入れられない。

「今日も留守番よろしくな」

「ふん。そのうち金色のバカよりゲームが上手くなってるもん」

「それは楽しみだな」

 外に出られないクロに楽しみができるのは俺にとってとても嬉しい事だった。


「静岡県で高校生がラブライブのマンホールを棄損したってニュースあるよな」

「急にどうしたんだ父さん」

「でもな、その気持ち、作者にはとってもわかるんだ」

「おかーさーん!おとーさんが変態になったよ」

「大地。父さんはもとより変態だっただろう?」

「天姉言ってることひどいな」

「静岡県、特に伊豆の方に作者は足を運ぶ機会があったわけだが、駅には前面にサンシャインのメンバーの絵、そして、走るバスもまたアニメ絵ばかり。あれでは静岡生まれというだけでラブライバーと称されるじゃないか。いくらなんでもあれはやりすぎでは――」

「おにいちゃん。お醤油とって」

「あ、ああ」

 俺は醤油を大地に渡す。

「これ、お酢なんだけど」

「どうして醤油さしにお酢なんて入れてるんだ」

「わたしはお酢派だっただろう」

「何にかけるの?天姉」

「卵焼き」

「目玉焼きでなくあえて卵焼き、と」

 先ほどの父さんの会話はなかったことにされた。

「ちなみにわたしはソースだ!」

「お前、食えねえだろ」

 そう言ったところで、クロが出会った当初カレーを食べていたことを思い出す。

「そう言えば、クロ。お前、カレーを食べてたけど、食えるのか?」

「うん。食えたな」

 俺にしか見えない存在であるクロは周りからは透明に見えている。ということは、食べたカレーは一体どんな風に――

 そう思ってグロテスクな想像をするものの、よく考えるとクロは俺以外の人間がいると触れていたものを透過するから、一体どうなってるんだ?

「おにーちゃん、脳内妹と何を話してるの?」

 そうだった。クロの声は俺にしか聞こえない。

「いや、クロが前に食事してたけど、どうなってるんかなって」

「そんなことより――」

「いや、意外と大切なことだと思うけど。母さん」

「どうせ作者が何も考えずに作った設定でしょ?考えるだけ無駄よ」

 母さんは食卓につく。

「それより、明。あんた、部活にでも入ったらどう?」

「部活ってなんだ?金色のバカ」

「そういえば今まで突っ込まなかったけど、その金色のバカって言いにくくない?」

「こらー。脳内妹とイチャラブするな」

「別にイチャラブなんてしてねえよ」

 すると一同黙り込む。

「なんで黙るんだよ」

「いやあ、傍でラブコメされてる気にもなって欲しいかなって」

「してねえし」

「もうクロは俺にとって恋人以上、家畜未満の存在だから」

「母さん。俺を騙るのはよしてくれ」

「金色のバカ。部活って?」

 そう聞かれても困る。部活とは、何ぞや。

「部活とは――」

 父さんが口を開く。

「部活とはハーレムなり!」

「絶対違うよね。というか、これみよがしにクロに変な知識を埋め込もうとしてないか?」

「金色のバカ。わたし、犯罪だけはしないと思ってたのに、ごめん。そういう人だとは思わなくて」

「誤解が誤解を生んでいる!?それも激しく危ない方向へ!?」


 頭の中で部活と告白の二文字が浮かんでは消え、浮かんでは消えしていた。

「大丈夫?明くん」

「うん?乃木か」

 ふと、どうして乃木が俺と歩いているのか不思議に思う。というか、俺はいつのまに歩いていて、どこに向かっているのだろう。

「本当に大丈夫?」

「あ、ああ」

 結局のところ、先日のネカマの告白に俺は大分心を揺す振られてた。

 ネカマなのだから、と無理矢理に気を持ち直そうとするものの、やっぱり、どこかいつもと違う感じがする。

「まだ学校に慣れてないんだよ。無理してない?」

「全てが無理の積み重ねだけど」

 家に帰ったら毎日変に体が疲れている。これを一か月も続けると体が壊れるんじゃないかと不安になる。

「明くんには友達が必要なんだよ。部活でもしてみたら?」

「お前もそれか」

 だが、何か打ち込めることがあると余計な煩悩が消え去るのかもしれない。

「乃木は何か部活に入っていないのか?」

 乃木が何をしているのか参考にしようと思った。

「わたしは帰宅部だよ」

「意外だな。何か理由でもあるのか?」

 愛され系かつおっとり系かつ癒し系代表の乃木ならばどこでも好かれると思っていたのだが。

「それは……明くんがいないからだよ」

「乃木……」

 俺は乃木の頭に手を置く。

「頭悪いの?」

「明くんのヴァカ!」

 乃木は怒って先に行く。

「なんで怒るんだよ」

 確かに、自分よりバカだったり幼稚だったりしたやつに頭悪いと言われると腹が立つのも分かる。

「そう考えると自分が可哀想になる」

 頭悪いのかと問われるのが最近日常茶飯事になっている。ともかく、俺は乃木に謝ろうと走って乃木を追いかける。だが、走るまでもなく、乃木はとある人影と立ち話していた。

「おはよう。四葉ちゃん」

「おはよう。ココア――」

 土居は俺の姿を見つけると笑顔を反転させ憎しみのこもった顔をする。そんな顔をしたかと思うと、急に顔を赤くして先に進んでいく。

「あれはなんなんだ?」

「きっと四葉ちゃんも明くんと仲良くしたいんだよ」

「お前の目にはそう見えるのか」

 俺は呆れる。この世界で天然ほど厄介な存在はないのだと俺は知った。


 勉強には端からついて行けていない。なんだかよく分からない雑多な知識を手当たり次第にノートに写しとっているだけ。頭の中に入ってなどこない。

「クロは何をしているのだろうか」

「クロは元気だろうか」

「クロは大人しく留守番できているだろうか」

「クロは――」

 とクロのことばかり考えている。これといって理由はない。あるとすれば、家に来たばかりの子犬がきちんとお留守番をできているかどうか心配、程度の理由だ。

 ふと、背中に違和感を覚える。

 俺は頭がいいバカなので違和感を感じると使ってはいけないことを心得ている。でも、ひと昔前の小説には普通に使われていたりして――

「イテッ」

 背中に刺激が走る。なにかとんがったもので刺されたようだ。これはGTOであったやつだ。反町版のやつだ。

 なんだ、やだ、いじめだ、どうしようと思っていると背後から声がかかる。

「当たってる」

 どこが?何に?

「赤嶺」

 と、先生から声をかけられる。

「はい。なんでございましょう」

 周りからくすくすと笑い声が聞こえる。どうも俺は授業で当てられているみたいだった。

「これが授業で当てられるという現象か……」

「なにを初めてみたいに言ってるの?」

 またも、後ろから呆れたようなささやき声。そうだ。俺の背後には魔人が、いや、鬼が控えていたんだった。

「誰が鬼だ」

 土居は俺に尻にシャーペンを突き刺す。

「イテッ」

 それは早く答えろという催促のようにも思えた。

「えっと、赤嶺。この問題が分かるか?」

「分かりません!」

 俺は即座に答える。だって、学校に行ってなかったんだもの。分かる訳がない。

「お前は一体引きこもって何をしてたんだ」

 バカにしたように教師は言う。

「ゲームです」

 俺ははっきりと言った。

「俺はゲームで何度も世界の危機を救いました。愛しい人のために魔物を倒すべく日々技術を磨き、長い時間をゲームに費やしました。それは役に立たない勉強をするよりも――」

「もういい」

 教師は呆れたような、それでいて、はっきりと怒っていると分かる言葉を呟いた。

 俺は大人しく席に座る。周りからはくすくすという笑い声やひそひそという話声が止む気配はない。

 やはり、こうなるのだろう。突如としてヒキコモリから脱却した俺は宇宙からの遊星に他ならない。そんな俺が簡単にクラスに受け入れられるはずがない。ましてや、そこそこインテリの集まる高校である。というか、俺、本当によく入学できたな。

「ゲームができるだけじゃ尊敬されないか」

 これでも小さな銀色の少女には少し尊敬されたんだが。

「バカ」

 後ろの土居はぐちぐちと俺への悪口を言い続けていた。


 勉強にはついていけていない。俺は運動も得意ではない。それは昔からそうだった。運動は才能もあるからどうしようもないところがあるからと、俺は必死で勉強だけはついて行こうと頑張っていた。でも、ある日、その琴線は何の前触れもなくこと切れてしまった。

 そこからまさか復帰するとも思っていなかった俺はある意味身一つで戦場へと向かうことになったのだ。そして、ゲームで培った能力を現実の戦場である教室で発揮する――

「なわけねえよ」

 何のとりえもなくゲームに逃げ込んだ俺にそんなチートな能力などあるはずがない。

「おにいちゃん!どこに食べに行く?」

「妹よ。お前はほんに世間体を気にせんのだな」

「なんだか灰汁が強いね」

「急にどうした、乃木」

「いやぁ、この作品を読み直すとなんだか全体的に灰汁が強いんじゃないかなって。文章的なものが」

 だから、人気が取れないのか。

「だが、人気がすべてではないと私は思うぞ」

 傍観していた土居がぼそっと言う。

「それよりご飯だよ。早く食べないと死んじゃうよぉ」

「甘い声で死んじゃうとか言うんじゃありません」

 妹の今後が心配である。

「それにお前、俺の三倍近いご飯を食べてるだろう。朝見た時はびっくりしたぞ」

「それはおにいちゃんが少食なだけだもん」

「確かに、天姉と同じくらいしか食べられなかったが」

「それは大地がおデブちゃんだって言いたいのかな?」

 大地はむしろ逆である。スポーツをしているだけあって少しも無駄な肉がない。そして、胸板も俺より薄い――

「ぐあはっ」

 俺は大地に殴られる。

「おにいちゃん、失礼なこと思ってたでしょう?殴るよ?」

「十分思いっきり殴ってただろ」

「脱ぐと戦闘力が上がるから」

 お前はどこの戦闘民族だ。

「それに、ココアちゃんは私と同じくらい食べて、それにおやつとしておにぎりを何合分も――」

「大地ちゃん!?なんで知ってるの?」

 なるほど、と俺は乃木のたわわを見て納得する。

「大きさには理由があるのか」

「何を言ってるの?明くん」

 乃木はたわわを必死で隠すものの腕に濃縮された丘は柔軟に形を変えていく。まるで神秘であった。

「で、お腹減ったんだよ?」

「学食、か?」

「この学校、誰も学食には行かないの」

「どうしてだ?」

 それはね、と乃木は言う。

「どうしてなんだろ」

 俺は拍子抜けしてずっこける。吉本じゃあるまいし。

「噂によると、メニューがないとか、そもそも場所が分からないとか、おばちゃんが怖いとかそういう噂があるみたいだけど」

 恐らくは物凄く味がまずいのではないだろうか。だから誰もいかないのではないか。それに尾ひれ背びれがついてそんな噂になったのだろう。

「なあ、土居。一緒に食べないか?」

 立ち去ろうとする土居に俺は言う。

「なんで私がアンタと食べないといけないわけ?」

「なんでって――」

 俺はこの前のことを思い出す。俺が一人屋上近くで食べている時、土居は不良たちに絡まれていた。もしかしたら今日もそうなるのではないかと思ったのだ。

「四葉ちゃんも一緒に食べよう?」

「ごめん、ココア。私は一人で食べるから」

 学食にでも行くのだろうか。でも、学食などないに等しいし、あの土居が俺たち以外に友達がいるとは考えづらい。


「で、何故、私のところに?」

 少し苛立ち気味に天姉は言った。

「いやあ、俺たちの教室だと居心地悪いし」

「だからって、何故?」

「いやあ、天姉も友達いないと思ったからさ」

「少ないだけだ!」

「どっちにせよ同じデス」

「ちゃっかり、アリサがいる」

「アリサ様です!」

 でも、よくよく考えればこれはハーレムではないだろうか。ハーレム構成員が半分血族だけど。

「これでクロとの約束も果たせた」

 じゃあ、もう学校に行かなくていいか。

「もうすぐテストだから、おにいちゃん、頑張ろうね」

「お前もな」

 そもそもに、ヒキコモリがヒキコモリでなくなった時点で物語は終わりだろうに。無理に続ける必要もなかっただろうに!

「だって、最近明くん、ヒキコモリでなくなったばかりだし」

「それもそうだけど」

 俺たちは楽しく食事をした。

「私だけが迷惑なのだが?」

「天姉ならなんとかなるさ」

 みんなで食べる食事というのは本当に楽しい。気の置ける友だちとの食事はきっと消化にもいいだろう。この楽しみを無理矢理にでも与えてくれたクロには感謝しないと――

「また、クロ、か」


 放課後は乃木と部活動を見学することになっていたことを思い出す。

「明くんはどんな部活動がしてみたい?」

「そうだな……」

 廊下を歩きながら考える。

「年下の金髪美少女がいないような、そんなクラブに入りたいな」

「喧嘩売ってるデスか?」

 なぜだかアリサがついてきていた。

「どうしてパツキンガールがついてきているんだ?」

「なにを隠そう、あの大地がアリサに蛆虫を見張れと頼んできたデス」

「なるほど。さては大地。俺がさらにモテモテになってハーレムを築くのが嫌なんだな?」

「自意識過剰もええところやで!デス。アリサはそこのおっぱい星人が襲われないように監視しろということデス」

 なるほど。少し調子に乗り過ぎたとは思ったが、妹も妹である。もう少し俺を信用して――いや、脳内妹で遊んでいると思っている大地に俺を信用しろという方がおかなしな話だ。

「別になんでもないんだけど、明くん。私のことを忘れてない?」

「うん。忘れてた」

 その瞬間、ゴンさんもかくやの殺気を感じたので俺は急いで飛び退く。

「なんだ……」

 乃木は笑顔で俺を見ていた。ずっとずっと果てしない笑顔だった。

「怒ってる?」

「怒ってないよ?」

 少し声が大きかった。

「それより、部活だったな」

 話を無理矢理に戻してやる。俺は議長の才能でもあるのかもしれない。

「なにかしてみたいことはある?」

 そんなもの、あればすぐに部活動に入っているだろう。

「運動は嫌だなぁ」

 運動は苦手だ。

「じゃあ、文化系かな。それじゃあ、文化部棟に行ってみる?」

「久々の登場だな、文化部棟。実は『糸』の舞台も文化部棟でな」

「どうしたの、明くん」

「いいや。なんでもない」

 時系列とか色々複雑なものがあるので、軽率に別の作品のことを述べてはならない。

 俺たちは文化部棟に向かって歩き出す。

「で、何がしたいのデスか?」

「え?キャットファイトだけど?」

 こういう軽口を言うから、また殴られる。

「総計しても女子から殴られる率の方が高いんだよな。というか、男キャラ、父さんしかいないし」

「ほら。さっさと言うです」

「とは言われてもな」

 やりたいことなんて家でゲームしてダラダラと過ごすことしかない。

「俺が主役になれるような、そんな部活動がいいな」

「なにが得意なんデス?」

「ヒキコモリ」

「クソデス。うんちデス」

「女の子がそんなこと言うなよ」

「じゃあ、文化部をみんな見て回ろうか」

 乃木の提案で俺たちは文化部を全て見て回ることにしたわけだが……


「なぜ文化部棟の入り口にバリケードが?」

 机やら椅子やらで文化部棟の入り口にはバリケードが築かれている。文化部棟とは文化部の部室がカッパドキアのように寄り集まった場所で、旧校舎の建物をまるまる一つ文化部の巣窟と仕上げたものだ。

「貴様ら、何をしているでござるか!」

 突如としてバリケードの奥から声が聞こえる。

「そんなところにいたら奴の餌食になるでござる」

「おお。初めての男性キャラ発見!」

 だが、男子生徒の慌てようは冗談では済ませないもののようだった。

 俺たちは何かを感じ取ってバリケードに近づく。

「何があったんですか?」

「知らずにこんなところに来たでござるか!なんと命知らずな」

 大袈裟、だとは思わなかった。男子生徒の慌てようは何かに急いでいるからではないと分かったからだ。本気で何かに怯えているのだ。

「今、この学校で部活動破りが勃発しているでござる。先日で全ての運動部が破られ、今度は文化系が破られる番でござる」

 運動部で道場破り的なことはよく分かる。イナズマイレブン的なものなのだろう。でも、文化部をも破るとは一体――

「悪夢が――ソロモンの悪夢が帰ってきたぞぉ!」

 男子生徒は人影を見るなりバリケードの奥へ引っ込んでいってしまったようだった。

 俺たちは現れた人影を見る。

「大地……」

 それは俺のよく知る妹の姿だった。

「何してるんだ?大地。まさか、お前がガトー少佐だったのか」

「せめて夕立っぽいって言って欲しいけど……」

 風が俺たちへと吹き付ける。

「怪我しないうちに退いた方がいいよ。おにいちゃん」

「大地。お前は一体何をしようというんだ」

「……」

 大地は何も言わなかった。

「お前が部活動破りの犯人なのか」

「そうだって言ったらどうする?」

 大地は猟奇的な目を見せる。俺は大地の見たことのない一面を垣間見た気がした。

「なんでこんなことをしているんだ。何があった。お前の言っていた部活ってのは一体なんだったんだ」

「これが大地の部活だよ?」

 かたり、と大地は首を傾ける。

「何を言ってるんだ……」

「全ての部活動を潰すのが大地の部活。だから、邪魔をするな」

 その時の大地は光速を超えていた。大地の過ぎ去った後は何も残されはしなかった。ただただ、過ぎ去った後に深く人々の怨念が染みついていくだけであった。


 家に帰っても大地は一言も話さなかった。何も言わず去っていくだけだった。

「なあ、大地。少しは何か話してくれよ」

 俺は大地の部屋の前の扉を叩く。しかし、反応はない。

 俺はおかしくて仕方がなかった。これでは立場が逆だ。こうやって扉を叩いて話しかけてくるのは大地の方だったはずだ。

 でも、俺は大地と同じように返事一つせずに部屋に閉じこもっていた。

「金色のバカ。どうしたの?」

「クロ……」

 クロは外の騒ぎを聞きつけたのか、廊下に出ていた。

「そうだ!」

 俺はいいことを思いつく。

「ここで脳内妹とイチャラブすれば大地も出てくるんじゃないか?天岩戸的に」

「その際、金色のバカは黄泉の国に行くことになるけれど、準備はできた?」

「ごめん、クロ。ちょっとインテリぶりたかっただけだ」

 天岩戸とは、なんだか昔のヒキコモリの神様がそとでどんちゃん騒ぎをしているのを聞きつけて岩の扉を開けたところを無理矢理引きずり出されたという神話だ。

「詳細に説明してるけど、別にこれ、フラグでもなんでもないからね」

「そうなの?」


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