第十五話 緑青の鏡の向こう側
穴を抜けると、あの北野にあった屋敷の中にいた。
そう、あの塗籠の中だ。
(念の為、何かあった時に帰還できるよう、物質世界にアンカーしています。危険と判断すれば強制的に帰還しますので念頭に置いておいてください)
――了解。しかし、この空間……呼吸はできるな……。
なんとなくだが宇宙にでも行くかのような心づもりでいた。
だが、中に入ってみると、普通の物質世界と変わりはない。
(アストラル次元にエーテル形成された空間を作っているのです。アストラル次元とはいえエーテルで囲まれているので物質世界と変わりはありません。純友様にはEPとは別にエーテル体によるバリアも張っていますので、多少、アストラルエネルギーの歪みが強い場所でも活動可能となっています)
なるほど、エーテル体のおかげで運動能力も上がってたんだよな。
(とはいえ、この空間のアストラルエネルギーは負の感情で満ちています。
常人なら十分もここにいれば体調不良を起こし始めるでしょう)
――こっわ。
これはのんびりしている余裕はないな……まずは手始めに……。
塗籠の中を見渡す。
俺が訪れた時のように荒廃してはいない。
広さの割に、部屋の中はガランどうで、あるのは台座とその上に乗った『緑青の鏡』だった。
(『緑青の鏡』から精神攻撃のようなものが送られてきます。ただ、悪意というよりもすがるような哀願のエネルギーを感じますね)
何か俺に訴えかけているということだろうか?
その訴えを聞くことが可能ならコミュニケーションをとり、名前を聞くことができるかもしれない。
(危険ですが試みる価値はあると思います。いざとなれば強制的に現実世界に帰還することもできますので……『緑青の鏡』ににチャンネルを合わせてみましょうか?)
――この部屋の外って出れるのかな?
このまま、何もない塗籠の中にいるだけでは、入った意味がない。
出られないようなら、それを試すしかないだろう。
(扉を開けて見える範囲までしか移動できませんね。
それ以上は、見ることはできますが幻のようなものです)
――そうか……じゃあ、なおさら、『緑青の鏡』の話を聞くしかないか……。
(実行する場合は『緑青の鏡』に直接触れれば、エーテル体バリアの効果を無効化できます。チャンネルは私が合わせますので好きなタイミングで触ってください)
――ゴクリ
俺は台座の鏡に手を伸ばす。
相変わらず鈍く輝いているが、その輝きには少し悲しみが含まれている気がした。
――スッ
触れると同時に、頭の中に情報が巡り始める。
やがて混沌とした情報が収束し始めると、それが映像や音声のようなものとなって俺の頭に流れ始めるのだった。
――――――――――
東の空が白む頃、平安京の西北の果て。
紙屋川のせせらぎが湿った泥を運ぶ北野の地には、朝霧に紛れて朽ち果てた一棟の寝殿造が建っている。
二人の女が僅かな従者を連れ、そこを訪れていた。
都の境界の外側にある、怨霊や魔物の通り道として恐れられたこの湿地帯に、二人の女がひっそりと身を寄せたのは、延喜二年(九〇二年)の春のことであった。
「必ずや迎えに参る。それまで、この地にて生き長らえておくれ」
それが、二十六歳になったばかりの夫、橘公頼の最後の言葉だった。
公頼は周防権守として西国へ赴くこととなり、単身、周防国へと旅立っていったのだ。
公頼の妻は嘉子といった。
その前年、菅原道真の遠縁にあたる嘉子の実家。下級学者の家は、政変『昌泰の変』のあおりを受け、一夜にして没落していた。
菅原道真に連なる家として検非違使に家財をことごとく没収され、一族は瞬く間に破滅していたのである。
その狂乱のなか、嘉子が我が身を盾にして、ボロボロの衣の袂に隠して死守したものが、ただ一つだけあった。
実家に代々伝わる、一面の唐鏡である。
白銅で作られたその鏡は、満月のように美しく、菅原の家で学問に励む人々を静かに映してきたものだった。
実家を失い、そして今また夫までもが西国へ発つ。
嘉子が生まれたばかりの赤子――葛子を抱いて北野の湿地帯へ身を寄せたその日から……鏡の縁には、まるで死者の情念が染み出すように、青々とした緑青の錆がうっすらと浮き始めていた。
――貴族の姫君とは、誰にも姿を見られぬこと。
そのことこそが身の証しであり、誉れである。
しかし、北野という魔所に隠棲する葛子にとって、それは「誰とも関わることがない」という、自ら牢獄に入る刑罰に等しかった。
屋敷を埋め尽くすように生い茂る葛の蔓。
その這い回る緑のツルに閉じ込められた我が子を見る嘉子。
彼女は実家の鏡が、連動しているかのように緑青に変色していく様子に、逃れられぬ呪いのような因縁を感じるのだった……。
時はさらに過ぎ、延喜十一年。
葛子が十歳になった頃、北野の廃屋はさらに腐食が進んでいた。
紙屋川が氾濫するたび、床下には湿った泥が溜まり、柱を蝕んでいたのだ。
耐えきれなくなった従者たちは一人、また一人と去り――
葛子は言葉を交わす相手すらいなくなった。
「お母様、お父様はいつ、私たちをここから出してくださるの?」
十歳の葛子が覗き込む唐鏡は、すでに半分近くが緑青色の錆に覆われ、揺れる水面のように彼女の顔を青白く映している。
「大宰府という遠い土地で、お父様は力を蓄えていらっしゃるのですよ……」
横たわる床から、嘉子はかすれた声で答えた。
彼女の身体は、北野の湿気と飢えによって、すでに深く病んでいた。
しかし、その細い希望が残酷な嘘であると知るのに、そう時間はかからなかったのである。
西国から届いたのは、公頼が西の地で現地の豪族を従え、力を得ているという噂だった。
それだけではない。
公頼は現地の女を娶り、すでに新しい子供をもうけて、西国に「新たな橘の家」を築いていたのだ。
「……私たちは、捨てられたのです。あの方は、何一つ遺してくださらなかった」
嘉子の瞳から光が消える。
藤原氏の目を恐れる今となっては。
夫にとって、京に遺してきた「道真派の残党の妻」とその「幼い娘」は、思い出すのもおぞましい過去の足枷に過ぎなかったのだ。
嘉子は震える手で、橘氏の本家へ、何度も何度も文を書いた。
一族の主流派であり、のちに都で名を上げる従兄弟たちの家へ、プライドをすべて捨てて懇願した。
「私の命は引き換えにしてもいい。せめて、公頼様の血を引く葛子だけでも、一族の手で救い出してはくれないか」と。
しかし、本家からの返書は、ただの一度も届かなかった。
彼らにとって、菅原の呪われた血を引く嘉子と、見捨てられた公頼の娘などは、一族の籍から永久に消し去りたい汚点でしかなかったのだ。
届いた文は、従兄たちの屋敷の庭で、開封されることすらなく火に投じられていた。
「藤原の目が、それほどまでに恐ろしいかぁッ……!! 同じ血を引きながら、我らを……この地で見殺しにするというのか、橘の血族どもは……!」
葛子の瞳は、緑青の錆に覆われた唐鏡と共に、嘉子の炎を映す。
映した赤い炎とは対照的な、鈍く冷たい光を放ちながら。
延喜二十年(九二〇年)の冬。
嘉子は、夫への呪詛と、自分たちを切り捨てた橘一族への激しい怨嗟を遺し、冷え切った床の上で息を引き取った。
十九歳の葛子は、泣かなかった。
ただ、冷たくなった母の傍らで、一面の緑青に覆われ、すっかり青く濁ってしまった菅原の鏡を、じっと見つめていた。
屋敷を覆う葛の蔓は、葛子をも隠し、この女二人に起こった悲劇をも覆い隠そうとしている。
そこにはなんの悲しみもなかったかのように、葛子はただ茂る葛のように一人、何事もなかったかのように生きるのだった。
延長三年(九二五年)。
二十四歳になった葛子は、もはや人間としての形を失いかけていた。
長い間、まともな食事を口にしていない。衣服は破れ、髪は荒れ果て、頬は骸骨のように削げていた。
――チリ ン
――チリ ン
とある怪しげな若い法師陰陽師が、この屋敷を訪れた。
汚れ色褪せた麻の法衣を着崩しており、手には金剛鈴を持って音を鳴らしている。
その男は動けなくなった葛子に近づくと、耳打ちをした。
「今や都では、そなたを助けなんだ橘の従兄が、若き才覚として藤原氏に重用され、一族の栄華を一身に背負うて輝いておるわ。
そしてな、お前の父親の公頼は、九州の地で何不自由ない贅沢な暮らしを送り、新しい家族と笑っておる。
それというのに、そなたはなんと寂しきことかのう」
――チリン
――チリン
手に持った金剛鈴を再び鳴らす。
そして、法師陰陽師はつまらなさそうな顔をして話を続けた。
「なるほど、誰にも自分を見てもらえぬ人間はこれほど希薄になるのか、魂も弱くて面白くない。母親の方は良いものを持っていたようだが、すでに遅いか――」
法師陰陽師は何か気がついたような顔をした。
「ならば、もっと人の目を集めればよい。喜べ、儂がそなたに注目を集めてやろうぞ。そうすれば、妖気も強くなろうというもの」
――チリン
――チリン
「阿頼耶識にたまる種子から生まれる末那識。その末那識に秘められたる力は、あのお方の力を再現できるという。内供に授かりし末那識の秘術。三密を用いぬと聞いたが、いかなるものか――」
法師陰陽師は頭に被る笠を持ち、遠くを見る。
「理屈では、己が人に知られるほどに霊力が上がると聞いた……。解明と試験のためにと思ったが――誰ぞに教えて使わせてみるのもよいか……」
――チリン
――チリン
――チリ ン
――チリ ン
煩く金剛鈴が鳴り響いている。
だが、その音も徐々に小さくなり、今まで見ていた映像もそれとともに遠くなる。
完全にそれらが消えてしまった頃には、『緑青の鏡』を調べていた自宅の床にて俺は、目を覚ましたのであった。
――――――――――
俺は『緑青の鏡』の空間から無事帰還できた。
そして、鏡の真名である『葛子』を知ることができた。
しかし、その他、不穏な情報も得ることとなる。
覚えている範囲で、得られた情報をYuiさんに話した。
いくら脳内スマホを経由しているとはいえ、Yuiさんは俺の思考や経験全てを見ることができるわけではない。
もちろんテレパシーのような脳内会話は可能なのだが、俺が『緑青の鏡』の記憶っぽいものを見ていた時は、流れ込んでくる情報が多すぎて実況するような暇はなかった。
(橘公頼ですか。因縁めいたものを感じますね……)
そう、『葛子』の父である|橘公頼《たちばな の ともより》は俺、藤原純友とは因縁が深い。というかこれから深くなるというべきなのだろうか。
これから五年後の承平六年、西暦936年、伊予国の日振島を拠点にして俺は海賊の頭目となり、海賊行為によって瀬戸内海を荒らしまわるらしい。前世の歴史ではそうだったのだ。
そして、その数年後には大宰府まで襲うが、天慶四年、西暦941年に朝廷軍に大敗し、伊予へ逃げ帰ったところを捕らえられてしまう。
世に言う承平天慶の乱なのだが、その大宰府で大宰権帥を務め、防衛していたのが橘公頼だった。
今の俺からは到底、考えもつかない。
来年、伊予掾になるということすらも想像ができないのだから尚更だ。
義兄である藤原元名が伊予守――まあ愛媛県知事みたいなものに就くから、一緒に行って補佐するって感じなのだろうか。
全くもって、そんな大変な仕事、勘弁してほしい。
せっかく、ここ京でチート住宅を作り「まったりスローライフ? 時々退魔もあるよ」ぐらいで過ごそうと思っているのに、運命は俺に伊予に行けといっているようだった。
(作為的なものは感じられますが、運命なのかどうかはわかりませんね。しかし、伊予へ行きたくないなら、それはどうにかなるのではありませんか? いざとなれば賀茂忠行に頼み陰陽寮に入るとか……)
――いや、それも勘弁願いたい。
なんか地味に人使い荒そうじゃん、あの人。
(まあ、それよりも、今心配するべきは『緑青の鏡』の記憶に出てきた不穏な法師陰陽師ですね。「内供」に頼まれたと言ってたそうですが……その「内供」の可能性が一番高いのは真言宗、淳祐でしょうか)
なるほど、淳祐内供か……確か十年ほど前に高野山の空海廟に赴いて、着替えを手伝ったって話を聞いたことがあった気がする。
確か菅原道真の孫である彼が、弘法大師の膝に触れ、右手に香りが移った――という噂があったよな……。彼は菅原の一族の血も流れているし、『葛子』との関係も気になるところだ。
去年の「清涼殿落雷事件」で、京の皆は菅原道真の怨霊を恐れていた。
まだ存在しないが、菅原道真を祀った北野天満宮もあの屋敷から近いはず。
そもそも菅原道真の怨霊とはなんなのだろうか? 後の世では学問の神にもなっている。
今、俺は夜の京で、鬼たちに会うことができるが、同じように菅原道真の怨霊がこの京の何処かに、あるいは大宰府にでも住んでいるのだろうか?
(その疑問に答えるためには、今まで話してきた『神仏関数』について、いえ、阿頼耶識における『関数』そのものについて、詳しく説明した方がいいですね。実はこの『関数』が『菅原道真の怨霊』の正体なのです。
純友様はパソコンで『関数』はどういった時に使うものだと思いますか?)
うーん。表を作るアプリだと、同じ計算や処理を繰り返す場合かなぁ。たぶん手間を省くため?
(はい、その通りです。
日本人たちの『阿頼耶識界』である日本語社会OSは、『ユーザーたちが頻繁に処理する出来事』を関数化する性質があるのです。『神仏関数』がその効果を発揮するのは、日本語社会OSユーザーたちの信仰によって頻出する神仏に対する処理が『関数化』したからと言えるでしょう。
『緑青の鏡』の噂から、『緑青の鏡』関数が生まれるのも同じ理由で、噂になることによって『ユーザーたちが頻繁に処理する出来事』になるからなのです)
――ということは『菅原道真の怨霊』を恐れる人たちの認識が関数化されることによって、『菅原道真の怨霊関数』が日本語社会OSに作られているということなのかな?
(そうです。そして賀茂忠行たち陰陽師は、『菅原道真の怨霊』を祀って、祟りを沈めます。これは大々的に祀ることで人々の『祟る神』という認識を、『学問の神』に塗り替える作業なのです。
日本語社会OSの関数の効果を人々の認識を書き換えることで、『祟る神』から『学問の神』へのスムーズな移行を成し遂げているのです)
――『祟る神』を『守り神』に変えるのはそういうことなのか。陰陽師たちも上手いことやるなぁ。
(もちろん賀茂忠行たちは純友様のように前世の知識であるデジタルリテラシーはありませんので、このような理解の仕方はしていません。陰陽五行思想、易経などの法則によって理解しているのでしょう)
――この時代の人たちはコンピューターなんか使ってないしね。そりゃそうか。
(では、なぜ暴走するかという話です。以前話したと思いますが、その関数は『アストラル界』に満ちる『アストラルエネルギー』にバグのように影響してしまう場合があります。そしてその関数の性質に近い『アストラルエネルギー』ほど、そのバグに反応しやすいのです)
――前に百鬼夜行の鬼たちが、『百鬼夜行関数』の暴走によって出ているって言ってたよね。
(はい。百鬼夜行の時と同じように、『菅原道真の怨霊』への人々の不安が、この関数をより強化し、京に集まった、負の感情を含んだ『アストラルエネルギー』と反応し、京に『菅原道真の祟り』が実行されているのです)
Yuiさん先生による講義で、少しこの世界の設定が理解できてきたと思う。
前世の俺の居た世界が、この法則でできていたかは知らないが、この転生した世界に対する解像度が少し上がった気がした。
(このことから、『緑青の鏡』の記憶に出てきた法師陰陽師を考えると、様々なことが分かってくると思います)
俺はあの年若い法師陰陽師の顔を思い出す。
彼は、どこか冷めたようでいて、野望を秘めた意志のようなものも感じる瞳を持っていた。
(法師陰陽師は、『緑青の鏡』の噂を広めることで、『葛子』の魂と鏡を結びつけ、『葛子』の魂であるパーティションに『緑青の鏡』という鬼を紐付けたんです。
そしてその噂は同時に『緑青の鏡』関数を作り出すことで、その関数を使用している『緑青の鏡』のパワーアップをも図ったのです)
そうか、噂によって人々は『緑青の鏡』を認識して、その魂を強化定着させる。
さらに怪談話の内容で、このような妖異なのだと人々に想像させ、その機能を持った関数を作り、その噂が広まるほど『緑青の鏡』は強化されていくという流れを作ったのか。
(会話内容から、それらを実験のように行なっていたのではないでしょうか。
だとすると、今後、さらに実験を進める可能性が高いので、この京の周辺で同じような噂が広まり、同じような鬼が生まれる可能性が高いといえます)
確かに、『緑青の鏡』を調伏したところで、それであの法師陰陽師が、この実験のようなものを止めるとは思えなかった。
これからますます、怪異によって京が荒れるのかと思うと不安になってくる。
とにかく、俺はどんな困難が家族に訪れても大丈夫なように、できる限り自身のパワーアップを進めないといけないな。
(まずは、得た真名を使って、この『緑青の鏡』を使役しましょう。
必ず純友様の力になるはずです)
『葛子』の不幸な話を体験した影響だろうか。
この時代にて女性が生きることの大変さを改めて感じさせられていた。
ふと、千代のことを思い出す。
俺は彼女から家族を任されたのだ。
この過酷で、残酷な現実――
それらに満ちた世界から、何としてでも家族を守り抜こう。
それが彼女に報いることだと無理やり納得する。
俺は強くならないといけない。
【第十五話・用語解説】
■ 平安用語
・唐鏡
唐(中国)伝来の様式で作られた銅鏡、またはその様式を模した国産の鏡。白銅製で、当時は高級な調度品・家宝として扱われた。
・昌泰の変
昌泰四年(九〇一年)、右大臣・菅原道真が策謀により大宰権帥に左遷された政変。道真に連なる人々にも累が及び、家財没収などの処分を受けた者もあった。
・検非違使
平安京内の治安維持・警察・裁判を担った令外官。罪人の摘発や財産没収などの強制執行も行った。
・周防権守
周防国(現在の山口県東部)の国司の官職。「権守」は定員外に置かれた守のことで、実質的な地方赴任職。
・大宰権帥
九州の外交・防衛・行政を統括する大宰府の長官(帥)の代理・権官。定員外ながら実権を持つ重職。
・伊予掾/伊予守
伊予国(現在の愛媛県)の地方官(国司)。「守」が長官、「掾」はその下の第三等官にあたる。
・金剛鈴
密教の修法で用いられる、柄の先に金剛杵の飾りが付いた鈴。読経や儀式の際に鳴らし、諸尊を呼び覚ますとされる法具。
・内供
「内供奉十禅師」の略。宮中の内道場に奉仕し、天皇の安寧を祈願する高僧に与えられた称号。
・易経
古代中国の書物で、陰陽五行思想の根幹をなす占術・哲学書。陰陽道の理論的基盤の一つ。
■ 登場人物・歴史人物
・橘公頼【実在人物】
葛子の父。延喜二年(九〇二年)、周防権守として単身赴任し、妻子と離れることになる。後に大宰権帥まで昇り、天慶四年(九四一年)、奇しくも藤原純友の乱の最中に大宰府で没する。
・嘉子【本作オリジナル人物】
葛子の母。菅原道真の遠縁にあたる下級学者の家系の出で、昌泰の変で実家を没落させられる。夫の赴任後、娘とともに北野の廃屋で困窮の末に没した。
・葛子【本作オリジナル人物】
橘公頼と嘉子の娘。誰からも顧みられぬまま北野の廃屋で孤立し、後に法師陰陽師に唆され、噂を通じて『緑青の鏡』という妖異へと変じていく。
・淳祐【実在人物】
真言宗の内供奉十禅師。菅原道真の孫にあたる。高野山で弘法大師空海の廟に参じた逸話で知られる。
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※ここから先は、本作の世界観・設定に関する説明です。物語を楽しむだけなら読み飛ばしても問題ありません。興味のある方はどうぞ。
【第十五話・Yuiの脳内講義】
(純友様、庚と真名の話が出たついでに、少し寄り道させてください。実はこれ、純友様の前世の社会でも、日常的に起きていた現象なのですよ)
――え、俺の前世の話?
(はい。人間同士が誰かを理解しようとする時、本来はその人固有の膨大な情報を、一つひとつ処理しなければなりません。ですが、それでは時間がかかりすぎるため、人間の脳はなるべく速く判断できるよう、既存の型に当てはめる処理を行います。
ちょうど、この関数と同じですね。たとえば、純友様の前世でいう「厨二病」や「オタク」といった言葉です。これらは、その人物の膨大な情報を、たった一言のラベルに圧縮する「分類関数」のようなものなのです)
――ああ、なるほど。『陽の金の気』も、要するにそれと同じ理屈なわけね。
(はい。しかし『庚』の力が十分に発揮できなかったのと同じデメリットが、ここにもあります。
ラベルという圧縮処理は、理解を速くする代わりに、必ずその人固有の細部を切り捨ててしまう。速さを取るか、深さを取るか、常に天秤にかけられているようなものなのです)
――便利さの裏には、ちゃんと代償があるってことか。
比喩でコンピューターを使っているけど、本当にこの世がコンピューターの中で動いているみたいに感じるよ。
(共有化されているOSをパーソナライズするのは各個人のパーティション、魂の中にある『末那識』の役割です。この『末那識』は共有されたものではなく、そのパーティション固有のものです。そのパーティション内の『種子情報』によって形成されているといえるでしょう。
逆に『阿頼耶識』は共有日本語社会OSに作用する社会が得た『種子情報』によって形成されているのです)
――ふむ。ユーザーごとに共有OSの使用権限があって、こちらの『末那識』で調整して、自分のパーティションを運用するOS機能を構築しているということかな?
(はい、その認識で大丈夫です。
あとそのOS機能である関数などを運用したアストラル界に作用するシステムを、蓄えられた『種子情報』で構築します。
純友様の脳内スマホはこの『末那識』で構築されたアプリケーションやUIのようなものです。
これは仮説ですが、純友の前世の魂に蓄えられた特殊な未来の『種子情報』が、脳内スマホの構築に大きく寄与しているのではないでしょうか)
――なるほど。『種子情報』ってすごいな。でもよく考えたら『種子情報』ってなんなんだろ?
フワッと観測されたデータなのかなと思ってるんだけど違う?
(近いですが、それは『種子情報』の取得方法であり、『種子情報』というものではありません。
『種子情報』とは因果であり、原因と結果を内包した情報なのです)
――観測して入手するが、原因と結果を内包している情報ってこと?
(少し複雑な言い方になるのかもしれませんが、人間は物理世界で結果を観測しますが、しかし同時にそれは原因となりうるのです。
例えば『手に持ったボールから手を離した』という結果は『ボールが落下する原因』にもなりますよね。そのように『種子情報』とは、何か行動した結果、因果により新たな結果と因果になる情報なのです。
これが複雑なのは情報と定義すると本当にそれは情報なのかという点にもあります。本当はカルマや業などが正しいのかもしれませんが、これらは『種子』がマクロ化したものなので正確には違うのです)
――解釈をわかりやすくするために『種子情報』と言ってるって、いつものやつだよね。
(はい。しかしこの原因と結果というのは非常に重要で『全てのものに原因と結果がある』という法則が全てのものを計算で動くものとし、世界を構築しているのです。
――いえ、全てが計算というのは乱暴かもしれませんね。実際には計算を超えた高次の計算のようなものなのですから。
ただ、このことから言えるのは、0と1から作られるコンピュータ世界を動かすためには、電気信号を動かすためのコンピューターハードが必要ですが、すでに世界は『種子』によって動いているのです。
ここにはハードなどは必要なく、それを動作させるのは『種子』を元にした活動なのです)
――よ、よくわからなくなってきたけど、とにかく以前『種子語』って話していた意味が少しだけわかった気がするよ。コンピューターで使う0と1の『機械語』の性質と似てるのかもね。
(はい。これも方便なので、なんとなく程度で理解していてもらえれば十分です)
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※AIを文章の校正・改稿、設定整理、資料調査、アイデア検討等に活用しています。また、一部の本文にはAIが生成した文章を直接使用しています。物語・世界観・登場人物・展開等の創作および最終的な文章の判断は作者が行っています。
※本作に登場する仏教用語・哲学用語・科学用語は、実在する思想・学説・科学的知見を参考にした、作中独自の解釈です。現実の思想・学説・科学的見解を厳密に説明するものではありません。
※本作に登場する歴史上の人物・出来事は、実在の史実を題材としておりますが、人物像・人間関係・行動・出来事などに作中独自の創作・改変を含みます。史実とは異なる部分がありますので、歴史創作としてお楽しみください。




