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第十一話 緑青の鏡クエスト



 家に帰り、買ったものを広げて整理をしている。


 みんなそれぞれ一抱えほどの荷物を持って帰った。

 しかし、チート住宅のためには、まだまだ足りないので保管しておかなければならない。


 東市での収穫は、大量の縄と繊維に加工した苧(からむし)、桶一杯分ぐらいの貝殻。

 あとは怪談話により発生したクエストだった。



 そう、怪談を聞いた後、スマホのマップがピコンと「!」を出していたのだ。

 スマホを操作してみると右京の一条大路にある屋敷にピンが刺さっている。


 ピンの名前は「クエスト:緑青(ろくしょう)の鏡を調伏せよ」である。

 完全にオープンワールドRPGが始まった感がある。


 これにはYuiさんもびっくり。

 なんせこのスマホは、俺の「末那識(まなしき)」で作られているらしい。

 Yuiさんとは別個体なので、こんなのが出るなんて知らなかったようなのだ。


 じゃあ、Yuiさんって何よって話。


 Yuiさん曰く、俺のエーテルをアンカーにしているが、俺の「阿頼耶識(あらやしき)」とは別の魂らしい。

 そしてYuiさんは俺の『末那識(まなしき)』で作られた脳内スマホを操作して、術などのサポートをしてくれているのだ。



 ――え、じゃあ、よく考えてみると、俺の心をハックしてるってこと? 怖くない?



(正確には、純友(すみとも)様のエーテルをアンカーにして私は存在しておりますので、構造としては寄生しているようなもの、と考えた方が近いかもしれません)



 ――寄生って!? 余計怖くなってんじゃん。



(申し訳ございません。

 それなら、こうして純友(すみとも)様のスマートフォンを通して見守っている、という感じ方をしていただければよろしいかと)



 ――まあ、いいか……。だってYuiさんがサポートしてくれないとどうにもこうにも……。


 いや、むしろ要介護老人のように、見守られている方がいいのかも。

 これぞ本当の見守り携帯よ。



(安心してください。プライバシーのために夜な夜な見ている、前世のネット映像については――)



 ――はい、だまらっしゃい。

 いくら他人が聞いてないとはいえ、俺が聞いてますよ、俺が。

 恥ずかしくて死んじゃうよ、マジで。



(しかし、クエストが発生するとは、立体曼荼羅の件もありますので、無視はできませんね)



 ……。



 ……ふむ。Yuiさんの言う通り、確かにこの屋敷は調べに行った方がいいと思う。

 しかし、不安なので、せめてEPを10にする事と、何か戦闘用の符や技を考える必要はあると感じていた。



(一つ提案ですが、このような符と技はいかがでしょうか?)



[DISPLAY] -----------------------------


【聖地雷(せいじらい)】(発動消費EP:2.2)


・「EPをエクトプラズム化」(発動消費EP:1.5)

・「エクトプラズムに『火』関数付与」(作成時消費EP:0.1)

・「エクトプラズム『火』に『浄化』関数付与」(作成時消費EP:0.4)

・「エクトプラズム付着」(発動消費EP:0.1)

・「接触起動」(発動消費EP:0.1)


----------------------------------------


[DISPLAY] -----------------------------


【聖地雷符(せいじらいふ)】(作成消費EP:4.2)


・符頭:「EPをエクトプラズム化」(発動消費EP:1.5)

     「エクトプラズムに『火』関数付与」(作成時消費EP:0.1)

     「エクトプラズム『火』に『浄化』関数付与」(作成時消費EP:0.4)

・符身:「符に接触」(作成時消費EP:0.1)

・符胆:「五行の結び印」(作成時消費EP:2)

・符脚:「起動スイッチ」(発動・作成時消費EP:0.1)


----------------------------------------



(設置型の浄化の炎です。

 設置した符かエクトプラズムに触れると起動します。

 人が誤って発動させても浄化属性なのでダメージはありません)



 ――おお、これなら、EPが余ってる時に符にしておけばいいじゃん。

 発動EP0.1っていうのは――



(『聖地雷符(せいじらいふ)』の場合は、貼る時に消費してください。

 『聖地雷(せいじらい)』は貼る時に合計値の2.2の消費に増えます)



 ――ふむふむ、『聖地雷(せいじらい)』の方が合計値は低いけど、『聖地雷符(せいじらいふ)』の方が、すぐさま使う時は消費EP的にお得だね。



(はい、しかもEP0.1程度なら、同時に十枚以上貼らない限り、数秒で自然回復します。

 多めの火を経由することで両方とも火力を上げていますので、『聖なる矢』よりも格段に浄化の力は上がっています。

 あと防御のための技も開発しました)



[DISPLAY] -----------------------------


【隠行術(おんぎょうじゅつ)】(発動消費EP:毎分7)


・「摩利支天」(発動消費EP:5)

・「九字」(発動消費EP:2)


 符を使わずに自身のEPで発動できるものを用意しました。


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[DISPLAY] -----------------------------


【霊盾(れいじゅん)】(発動消費EP:毎分3)


・「EPをエクトプラズム化」(発動消費EP:2)

・「エクトプラズム硬化(盾)」(発動消費EP:0.4)

・「浮遊操作」(発動消費EP:0.6)


 エクトプラズムを硬化させた盾を顕現し、体の周囲に浮遊させて鬼や悪霊の攻撃をブロックします。


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[DISPLAY] -----------------------------


【霊縛(れいばく)】(発動消費EP:毎分3.1)


・「EPをエクトプラズム化」(発動消費EP:2)

・「エクトプラズム硬化(縄)」(発動消費EP:0.4)

・「エクトプラズム操作」(発動消費EP:0.6)

・「射出」(発動消費EP:0.1)


 エクトプラズムの縄を射出し、鬼や悪霊を拘束します。


----------------------------------------



 ――おお、一気にできる量が増えてきた。



(操作が必要なものは私の方でコントロールしますね。

 射出に関しても私が弾道を計算して自動で照準を合わせますので、純友様はただ『発射』と念じていただければ大丈夫ですよ)



 ――うんうん。なんかオートエイム機能がついてるなんて凄すぎる。Yuiさん様だ。

 なんだか出来ることが増えてくるのはやっぱりワクワクする。

 じゃあさ、これって例えば盗賊から矢を撃たれても防御できるの?



(実物の矢は不可能ですね。

 それをするなら物質化が必要です。試しに一度、木盾で作ってみましょうか)



[DISPLAY] -----------------------------


【『踊る木盾』】(発動消費EP:毎分1150)


・「EPをエクトプラズム化」(発動消費EP:1000)

・「物質化(木)」(発動消費EP:100)

・「浮遊操作」(発動消費EP:50)


 エクトプラズムを手のひらサイズの木の盾へと顕現し、体の周囲に浮遊させて矢の攻撃をブロックします。


----------------------------------------



 ――あ、無理っす。

 しかもこれだけ消費して手のひらサイズとか……。



(この消費量の大きさには理由があります。

 ごく簡単に言うと、物質化というのは、エーテルを本来のミクロな次元から、莫大なエネルギーを使って「マクロ化」させる作業だからです。

 仕組みの詳しいところは、また日を改めてお話ししますね)



 こうやってYuiさんと相談しながら、強化案を考えていく。

 じゃあ、今度は兎にも角にも、やっぱりネックは俺の「EPの少なさ」なのだろう。


 怪談を聞いたことによるクエストの発生は、もしかしたら強敵を倒してEPを増やしたいという俺の気持ちから発生したのだろうか?

 まあ、そこら辺は謎だが、俺の心で出来たスマホなんだ。俺に悪いようにはしてこないだろう。



 目の前に積み重ねた縄や苧(からむし)の繊維束を眺める。



 結構な量が溜まったな……。



 チート住宅のことも考えなければならない。

 安易に蔵がいいとは言ったものの、問題が山積している。


 最たるものとして工期の問題だ。


 粘土の壁を乾かしながら塗り固めるので、普通に作ると年単位の時間がかかる。

 これでは藤原淑姫(ふじわらのよしひめ)様も待っていられないだろう。


 彼女の家もチート化するのは一応理由がある。恩を売るためにというかコネを作る意味だ。なので彼女たちには安心安全快適な居住スペースを作ってあげることで、長生きしてもらいたい。



 なんせ俺は藤原純友(ふじわらのすみとも)だ。


 なるべく討伐されないように――

 たとえ伊予へと赴任することになっても大丈夫なように、コネ作りが必須なのではないかと思っている。


 ここで、信頼を得ることができれば藤原師輔(ふじわらのもろすけ)あたりに紹介してもらえないだろうか? そんな打算的な思惑もあったりするのだ。


 まあ、そんなわけで二、三ヶ月後には住宅を完成させたい。

 そのためには、何としても近江国遠征前には、ある程度作業の目処はつけなければならない。



(工期の短縮ですが、一つ案があります)



 こんな時のためのYuiえもん。



(私は猫型ロボットではありません。

 工期の短縮の件ですが、分厚い土壁を作るのではなく薄い土壁を二重にして魔法瓶のように空気の層を作るというのはいかがでしょうか?)



 あー、なるほど。

 一枚が薄いから乾燥スピードも上がるか。



(はい。それに加えて、蔵の内側から温風を送れば、乾燥時間は数日に短縮されると考えられます)



 温風? 数日間送り続けるの??



(符を利用すれば、それほど難しいことではありません。

 温風用の札を数枚作って貼り付ければ、十分に実現可能です)



 ふむふむ。



(しかし、工期の他にも問題はあります。地盤の問題です。

 蔵のような重たい建造物を支えるには、地盤もそれ相応に安定しなければなりません)



 現代でも地盤は大事って言うからな……でもここ平安京って二メートル掘ったら水が湧いてくるぐらいの、やっばい場所だった……。



(考えられる方法は、凝灰岩、生石灰、海水でコンクリートを作ることでしょうか。

 ただ量が必要となりますので、灰と土を練り固めたものをベースに、柱の下だけ礎石の「根固め」にコンクリートを使用しましょう。それならコンクリート量も抑えられると思います)



 なるほど、じゃあ凝灰岩、生石灰の入手方法か……難しいな……ワンチャン作業手伝ってもらってる修理職町(しゅりしきまち)の面々に頼んでみるか?


 うーむ。まだまだ考えることが沢山ある。ありすぎる。


 俺は腕組みをして、もう一度、溜め込んだ資材を眺めるのだった。





――――――――――





 ぎらぎらと照りつける太陽――

 この暑さの中、我が家の庭では資材搬入と整理が行われていた。



「おい、そっちの梁は物置の脇へ運んでくれ!

 形が良いから基礎の柱に使い回せるぞ!」



 額の汗を拭いながら声を張り上げているのは、下男の九郎(くろう)。

 さすが元は修理職町(しゅりしきまち)生まれ。

 うちへ奉公に出された男だが、今やこのチート住宅の現場監督として見事な働きを見せている。


 庭の一角には、黒ずんだ古材、苔が付いた古い瓦が山のように積み上げられていた。


 藤原淑姫(ふじわらのよしひめ)様のご隠居住宅に使用するならと、西市で取り壊しが決まっていた古い官舎や倉庫を解体し、資材利用の許可をもらっていたのだ。


 今、そこから出た廃材を丸ごと家に運び込ませているのだが、これが本当に助かっている。


 ご隠居住宅はそれほど大きいものではないため、これらの資材は結構余る予定だからだ。余りは俺の新チート住宅に利用させてもらうとしよう。

 あ、もちろん関係を良好にしたいので淑姫(よしひめ)様の住宅にも一部チートを利用させてもらう。快適に過ごして長生きしてもらいたいからね。


 さて、そんなわけで、その資材をせっせと運び、泥を落としているのは、九郎(くろう)が声をかけて集めてくれた修理職町(しゅりしきまち)の職人や労働者たち。

 総勢五人だが、皆、日に焼けた肌を輝かせ、熱心に手を動かしている。



「少属(しょうさかん)様、この「猫車」というものは実に見事でございますね。

 畚(ふご)であれば二人がかりのものが、一人で楽に運べますゆえ、仕事が実にはかどります」



 そう言って、作業員が赤土を山まで運んで空になった一輪車を立てかける。



「あの、轆轤(ろくろ)を組み合わせた仕掛けもです。

 あれのおかげで、一人であの大きさの丸太を吊り上げられるとは驚くほかございませぬ……見事な知恵をお持ちで。

 まこと、お偉い方の考えられることは恐れ入るばかりにございます」



 工事にあたりYuiさんに聞いて、「猫車」「複合滑車」「ウインチ」などを設計し、九郎(くろう)に作らせていた。


 この時代、俺の見ていた限り、土木作業や建築作業は、今よりずっと人力に頼っていた。なので、テコの原理や動滑車と定滑車を使った仕組みなど、それほど普及していないはず。本来、これらの工事を行うなら十人以上の人材が必要だ。


 昨今の竹炭による我が家の財政の潤いを考えても、十人を越える作業員に十分に与える米や布の調達は難しいといえるだろう。



 しかし、やっと届いた、摂政殿――藤原忠平(ふじわらのただひら)様からの、隠居屋敷建築費用や土地代としての米や絹は、とても作業員十数名を雇えるほどのものではなかった。


 解体許可と資材利用があったからよかったものの、なんせ義兄、元名(もとな)殿にもその一部をピンハネ――いや斡旋料として渡さないといけないからたまったもんじゃない。



「少属(しょうさかん)様、まことにありがたいことでございます。

 こうして毎日、干飯(ほしいい)のみならず、温かい塩汁に、手当の米や布までいただけるなど、夢のようでございます」



 こうやって、前世知識で工事の負担を減らし、作業員を五人に絞っているからまだ手当を払えているんだけどね。


 今の時期、庭に大量に植えた大豆や小豆、瓜や茄子、エゴマが収穫期なので、その辺を分けてたりもする。俺たち平安下級貴族は庭に植えた家庭菜園で命を繋いでいるのだ。



 ただ、その大豆や小豆は後々、もやしや別のものに使おうと思っているから、今は少ししか収穫しない。


 秋ぐらいまで待ってカラカラに乾いた豆がたくさん必要なのだ。

 あと、この時代、珍しくえんどう豆の種子も手に入ったので、増やすために栽培してたりする。


 そろそろ竹炭以外の収入源も欲しいから、秋には麦芽を育て、密造酒作りや小豆を麦芽の酵素で甘くして餡子っぽいものを作ってもいいなと思っている。



 しかし、さすが前世知識、いや脳内スマホか。これがなかったらと思うと本当にゾッとするな。


 この時代の貴族の無茶振りはヤバすぎる。俺のことなのだが、こんなの純友(すみとも)も乱起こすわ、割とマジでそう思う。


 俺が考え込んでいると、職人の一人、棟梁格である年配の男が、しみじみと俺に頭を下げた。



「上の方ときたら、内裏(だいり)の雨漏りを直させても、臨時の障子を張らせても、「追って支払う」と言い残したきり、まともに資材も米も下さらぬのが当たり前にございますから――」



 あー、九郎(くろう)を通して最近の修理職町(しゅりしきまち)の状況は聞いている。こうやって職人の口から漏れるということはよっぽど極まってきてるんだな……。



「内裏(だいり)を統べる修理職の上の職人どもも、自分たちの懐ばかりを肥やし、わしら下々の者には碌な取り分も回してくれません。

 働くだけ働かされて飢え死にしろと言うのかと、皆、腹の底では呪わしく思っております……」



 前世ブラック企業で酷使されたからこそわかる、下っ端の恨み。

 俺は恨まれたくはないな、と思ってる。



「大変だな、家も裕福ではないから気持ちはわかるよ。

 できるだけ、お前たちを食べさせていけるよう私も頑張らないとな」



 感動した様子で彼らが「一生ついてきます」「何でも呼んでください」と口々に声を上げた。



 ふむ。今回の建築。チート使うから口止めしないといけないと思っていた。

 その点、このように忠誠心が高いのは嬉しい。

 よし、それじゃあ、この機会にお願い事として、蔵の問題点である地盤や基礎の相談を彼らにするとしよう。



「頼りにしているよ。ところで一つ相談があるのだが……。

 この土地は少し掘れば水が湧き出るほどの軟弱な地盤。

 一部住居を重い構造にしたいのだが、このまま柱を立てれば重みで家が傾いてしまう。そこで、柱の下の礎石の周りを、強固な灰土で根固めしたいのだが……」



 職人の棟梁格の男がふむ、と顎を撫でた。



「根固めでございますか。

 確かにこのあたりは湿地を埋め立てたような場所ゆえ、重い建物を建てるなら、土をただ叩いて固めるだけでは雨のたびに沈んでしまいます。なにか特別な工夫をお考えでございますか?」



「ああ。大和国の二上山で採れる白石の粉末と、生石灰、それに海水を混ぜ合わせて、石のように固まる土を作りたい。

 この材料、修理職町(しゅりしきまち)の手回しで大量に手に入りそうか?」



 二上山で採れる『白石』とは凝灰岩のことで、これに生石灰と海水を合わせてコンクリートを作ろうと思っている。



「二上山の白石にございますか!

 あそこの石は、内裏(だいり)の庭や高貴なお方の石棺に用いる上等なもの。

 なれど……はて、生石灰と海水を混ぜると、石のように固まるものにございますか?

 材料は、灰と土を練り固めたものに似ておりますが」



「そうだな、灰と土を練り固めたものに似ているが、白石を使用すればもっと違う工程で固められるのだ。後で九郎(くろう)に作り方は教えておくよ。

 基本的に住居の外壁の下は、白石を使って固め、それ以外は灰と土を練り固めたもので固めたいと思っているのだがいけるか? 大量に白石と生石灰、海水、それと赤土が必要だが」



 職人はニヤリと笑う。



「それならばお任せくだされ、少属(しょうさかん)様!

 二上山の白石でしたら、先だって内裏(だいり)の庭を改修した際、切り出されて余った端材が、修理職町(しゅりしきまち)の古い倉庫に山ほど眠ったまま放置されております。

 上の連中にとっては「使い道のないただの石くず」にございますから、わしらの身内で融通すれば、ただ同然でいくらでも運び出せます。

 ……それと石灰ですが、貝殻を集める伝手がございますので、お繋ぎいたしましょう。

 焼くのもわしら職人の息がかかった窯がいくつかございますゆえ、喜んで夜通し焼かせます!」



 いやまあ、夜通しとかそんなブラックなことは頼みません。

 常態化している貴族の無茶振りに、慣れすぎだよ君たち。


 しかし、これでチート住宅に一歩も二歩も近づいた気がする。


 平安時代とはいえやっぱ職人だな。

 悩み事を相談するとこうも進むのかと頼もしく感じる。


 この厳しい世の中、彼らのような人材は貴重だ。

 やっぱ、彼らにも生きていてもらわないとダメだな。


 今日は「家族に食べさせてやれ」と、手当の米を少し増やしてあげるとしよう。





――――――――――





 右京の一条大路まで来ると、月明かりで影しか見えていなかった絹掛山(きぬかけやま)が、木々を纏いふっくらと盛り上がっているのを感じられた。


 この一条大路を越えると、背の高い葦が鬱蒼と茂っている。

 所々に木も生えているが、それでも森というより湿地感が強い。


 俺は今、筑紫町(つくしちょう)、図書町(ずしょちょう)近くの南北へと走る紙屋川(かみやがわ)沿いにいる。


 周囲には塀が崩れた場所や、廃屋が目立つ。

 だが、それにしたってここは平安京内だからまだまだましな方だ。

 これから向かうこの先はもっと何というかプリミティブな空間で今以上の危険が潜んでいてもおかしくない。



(目的地はこの先、三百メートルほど進んだところにあります)



 一条大路を越えるのを少し躊躇っている俺を急かすように、Yuiさんがナビゲート。


 そう、俺はクエストをこなすため、夜にこんな自殺行為かと疑われそうな場所を歩いている。



(『隠行符(おんぎょうふ)』と『浄化の護符』があります。

 今のところ、鬼たちにも見つかっていませんし、葦の中を進んでも虫や汚れはそれほど気にする必要はありません)



 わかってんだよ……だけど、なんかこの葦の中、進んでいくのが嫌なんだよ。

 畦道のような狭さの獣道っぽいのはあるが、正直不気味。

 それに『浄化の護符』があっても草履の汚れまでは泥がつきすぎて取れないし、蛇レベルになると浄化は無理だろう。



(では、今日は諦めて帰りますか?)



 いいよ。行くよ。わかってんのよ――

 ただね、ちょっと気後れしちゃっただけでね、ここまで来といて帰るなんて選択肢はありませんよ……。


 俺はこの日のために、夜、鬼たちを狩り続けて――何とEP20まで上がっていたのだ。


 なんでここまで上げれたかって?

 それは『聖地雷(せいじらい)』と『聖地雷符(せいじらいふ)』が想像以上に役に立ったからだった。


 『隠行符(おんぎょうふ)』で見つからないように近づいて、『聖地雷符(せいじらいふ)』を背中に貼る。

 これだけで今日の夜を闊歩している鬼たちは大抵倒せた。

 なんせ、『聖なる矢』よりも威力を上げているので、強めの鬼でも一撃で倒せるようになったからだ。


 俺の視界には、鬼たちの動きがよく見える。

 なので難なく探せる。そして見つからない。まさに「狩り放題~、鬼さん食べほ~だい♪」状態なのである。


 結果、八日ほどでここまで強くなれた。



(もう少し早めに、こちらへ来られても良かったのでは?)



 言わせんなや、バッキャローいっ!


 はい……怖かったんです。

 俺ってRPGでもちゃんとレベル上げしてボスも倒す方でして……。

 「もうちょっと慎重に」ってなってたら時間がかかっちゃってね……。

 しかもこのクエスト、夜間しか「!」がつかない時間指定イベントなわけで……ビビっちゃったわけよ。


 まあ、そんなこんなで、覚悟を決めて進むしかないか……。

 こんなに不気味な夜の平安京。しかもこれから行くのはその外の闇。


 少しでも気を紛らわせ、安心するためにも、Yuiさん相手にちょっとぐらいふざけてないとSAN値がいくらあっても足りません。


 無駄話できるYuiさんがいて本当に良かったと思いつつ、周囲を警戒してもらいながら、葦の生える獣道を掻き分け進んで行くのであった。








【第十一話・用語解説】


■ 平安用語


・摂政(せっしょう)・藤原忠平(ふじわらのただひら)

 天皇が幼少などの理由で政務を執れない際、代わって政務を行う官職。藤原忠平は承平元年(931年)当時、朱雀天皇の摂政を務めていた実在の人物。


・二上山の白石(凝灰岩)

 現在の奈良県・大阪府境に位置する二上山周辺で産出する石材。古代から石棺や建材として利用されてきました。


・生石灰・海水

 いずれも本作でコンクリート状の材料を作るために純友が提案している素材。生石灰は貝殻や石灰岩を焼いて作られる。


・畚(ふご)

 縄や竹などで編んだ、土砂や資材を運ぶための背負い籠。


・絹掛山(きぬかけやま)

 衣笠山の別名。宇多法皇(寛平法皇)が夏に雪見をしたいと望み、山に白絹をかけさせたという故事に由来するとされる。



■ 現代知識


・コンクリート

 石灰・骨材・水などを練り合わせて作る建材。本作では、凝灰岩の粉末・生石灰・海水を組み合わせた擬似的なコンクリートを使う計画を立てている。


・猫車・複合滑車・ウインチ

 いずれも現代の土木・建築で使われる運搬・揚重の道具。本作では純友がYuiの知識をもとに設計し、九郎たちに作らせたものとして登場する。




====================




※ここから先は、本作の世界観・設定に関する説明です。物語を楽しむだけなら読み飛ばしても問題ありません。興味のある方はどうぞ。




【第十一話・Yuiの脳内講義】


(純友様、『踊る木盾』の消費量について、もう少し詳しくお話ししておきましょう)



 ――お願いします。確かに、あの高すぎる数値の理由が知りたいです。



(次元というのは縦、横、高さの三方向――三次元でできているのはご存じですよね。アストラル界とはこの三方向にもう一方向を加えた、四次元目と考えてください。本当は他にも次元はありますが難しくなるのでこう説明させて頂きます)



 ――う、うん。確か前に「次元はミクロ方向に伸びている」的なこと言ってなかった?



(はい、以前説明したようにアストラル界とは極ミクロな方向に伸びる次元なのです。そのことによって純友(すみとも)様たち人間には見えないし普通は感じられないものとなっています)



 ――ミクロって原子とか電子?



(エーテルは、それよりも小さなクォーク、フォトンなどの素粒子よりも極小な真素粒子です。そしてエーテルが集合することによって、クォーク、フォトンなど様々なエネルギーや物質へと変化します)



 ――ふむ、だから全てを構成する粒子なんだ。



(粒子と言っても粒が飛んでいるわけではありません。もうこのレベルになると、空間の歪みや揺らぎそのものです。

 そういった意味で物質やエネルギーのあり方が変わるといった想像が近いでしょうか。まあ、そこまで行くと話が難しくなるので戻しますが、この真素粒子エーテルはクォークやフォトンが活動する領域よりもさらにミクロの次元であるアストラル界と繋がっており、アストラル界の性質が色濃く発揮されています。

 そこは量子力学のさらに先にある、別の力学が作用している世界なんですよ)



 ――うーん。底辺高卒にこんな話しやがって。

 つまりニュートンの古典物理学から小さくなるにつれて量子力学、そしてアストラル力学? まあよくわからないけど、こんな感じにミクロになるほど力の法則が変わってくるということかな?



(はい。わかりやすいのでアストラル力学と呼びましょうか。

 エーテルが結合すればするほど――いわゆるマクロ化し、マクロ化すればするほど次元の構造も絡まり合ってしまい上位の力学に準ずるものとなるのです。これが純友(すみとも)様がおっしゃった量子力学から古典物理学に変わるということですね)



 ――粒子の数だけ無数に次元が伸びているから絡まるってことなのかな?

 それって次元が無数にあるってことなのだろうか。



(無数の次元が伸びるとは少し違います。アストラル力学の法則に変わっていくことが四次元方向に進んでいるということなのです。そしてアストラル力学で動いている世界がアストラル界なので無数にあるわけではありませんね。

 そもそも、アストラル力学とは、ミクロな余剰次元の中でエーテルたちが共鳴し合う力学であり、その共鳴パターンの違いが、物質界側からはクォークやフォトンといった「別々の粒子の種類」として観測されるにすぎません。

 言葉で説明するために「構造も絡まり合う」と表現しましたが、空間が絡まるということよりも、個別に働いている力が絡まるという風に捉えるのが近いかもしれませんね。しかし、あくまでこれらは私が純友(すみとも)様に説明するための表現なので矛盾が発生してしまうかもしれませんがご了承ください)



 ――り、了解です。なんとなくで理解しときます……。



(そして問題の『踊る木盾』の消費量ですが、どうしてここまでエネルギーが増えたかというと、エーテルを集合させマクロ化させることにより電磁気力、強い力、弱い力、重力の働く世界へとマクロ化させていく必要があります。

 これは霧の粒子ほどの一粒一粒を集めて水にするようなもので、膨大なエーテルを一滴の滴に変える行為です)



 ――目に見えないものを集めて物にするんだから大変か。

 菌の死骸集めて目に見える形にするって難しそうだしね。あ、菌を集めてコロニー作るならいけるかも。



(はい、そのように本来なら無理やりこのようなことを行う場合、核融合のように膨大なエネルギーが必要となりますが、エクトプラズム化を経ることで、本来よりも少ないエネルギーで済むことが可能です。そしてエクトプラズム化とは――)



 ――ストップ……。ごめん。もう頭がパンクしそうです。

 とりあえず物質化は沢山エネルギーがいるってことはわかりました。今の俺では理解不可能ですね。



(そうですね……当面は物質化に頼らない方向で戦力を整えていきましょう――)





====================





※AIを文章の校正・改稿、設定整理、資料調査、アイデア検討等に活用しています。また、一部の本文にはAIが生成した文章を直接使用しています。物語・世界観・登場人物・展開等の創作および最終的な文章の判断は作者が行っています。

※本作に登場する仏教用語・哲学用語・科学用語は、実在する思想・学説・科学的知見を参考にした、作中独自の解釈です。現実の思想・学説・科学的見解を厳密に説明するものではありません。

※本作に登場する歴史上の人物・出来事は、実在の史実を題材としておりますが、人物像・人間関係・行動・出来事などに作中独自の創作・改変を含みます。史実とは異なる部分がありますので、歴史創作としてお楽しみください。


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