第八十二話 銀の指輪が映す国
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日23時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
ポイズンリングの蓋が閉じる金属音だけがやけに大きく応接間に響く。
指輪の貴婦人が消えた所には、銀色の霧が微かに残り、ふわりと消えた。
俺は、ゴーグルを外してマジックバッグに戻した。
「大夢……」ロッキーが話しかけてきた。
「なんや?」
「櫻子のところに行きたいでしゅ」そう話す。
「あぁ、結界を解こう。力を貸してくれてありがとう。ロッキー」そう言って、三条さんは再び手を横に滑らせた。
結果が解かれる。
ロッキーが一礼をし、ドアから出ていく。
ほんま、いつの間にこんなこと教えとんねん。櫻は!
「華丘家か……田中君、紀州の内宮の結界はどうなっている?」三条さんが葉巻を切りながら話してきた。
「櫻が定期的に張り直しています。」短くそう答えた。
「結界が邪魔だったのか?それとも華丘家の血筋が必要とした何かがあったのか……」丸山さんが顎をなでながら話す。
俺には、わからん。
わかるのはこの千尋という少年が壮絶な人生を歩んできたことだ。
写真を見る。20代前半ほどの青年の顔。
平坦なアジア人の。
顔を変え、名前を変え、あまつさえ、年齢までも変えて。
生き抜いた先が死場所か……。
流行病でポックリいった方がマシな死に方やな。
三条さんが葉巻を燻らせる。
杉林の中にいるような木の香りがしてきた。そこにカカオのような香ばしい香り。
高級シガーの香りに高級な部屋。
急に居心地が悪くなる。
「櫻の様子を見に行きます。俺には難しいことはわからないので、捜査方針が決まったら教えてください」そう言って中座する。
「待たまえ。思考を放棄するな。君の悪い癖やで」ふぅーと三条さんが煙を吐きながら俺をたしなめた。
「事実っすよ。俺は難しいことはわからんです」そう言って座り直す。
逃げられんか………。
こんなに華族と一緒に居て、勘違いする方が今後の人生痛手を置いそうやけど……。
「わかっていることを並べようや」そう言って丸山さんが髪をかきあげる。
「マッチングアプリの賊と今回のガータロの賊は一緒で間違いないな?」俺を鋭く見る目が刺さる。
「ええ、浪華で追いかけていた男っすわ。あのマッチングアプリの“レナ”って女と一緒でしたし、ポイズンリングの記憶にもありましたね………あ!」
そこで、思い出した。
「なんや?」
「いや、この前豊富さんのところで事件の概要を会議していたんすわ。その時に冬馬が『何でマッチングアプリなんや?モニターの方が紀州出身者が集めやすいのに』って」
「そんなんしていたんか?」丸山さんが俺を見た。
「たまたま集まる機会があったんでね……」
「丸山君!おじさん達ははみごやって」三条さんがイタズラっぽく言う。
※はみご…関西弁で仲間外れ
「誰もはみごにしてませんよ……偶然そうなっただけですわ」弁明する。
「三条さん!俺はまだおじさんやないです!」変なところに丸山さんがくってかかる。
「36歳はもうオジ認識持った方がええで」三条さんが50代に見えない顔で話してきた。
「三条さんが言うならオジ認識持った方がええんですかね……」丸山さんがしんみりと話す。
「………事件の話に戻ろましょうよ」なんやねんこの会話。
「それで友香里が言ったんですわ『出会いたいギラギラした人を探していたんですかね?』って」その時の会話を思い出す。
「出会いたいギラギラした人………田中!そういえば賊が釣れた時のプロフまだあるか?」丸山さんが声をかける。
「アプリ退会したんで忘れましたが、確かこんな感じのプロフ作りましたよ?」俺は、マッチングアプリを登録するときに使う定型文をメモ帳から出す。
そうして、丸山さんや三条さんに見せる。
三条さんの肩が小刻みに揺れる。応接間の家具が微かに振動する。
やばいという顔の丸山さん。
俺の背中に冷や汗が伝う。
「田中君………これは何だね?」魔眼が輝きはじめた。
「今は!今は!使ってません!断じて!」俺が手を振って弁明する。
「しかし、これはなんだ?」そう言って、俺のスマホの画面をトントンと指差した。
そこにはーー。
【28歳・会社員
気軽に会える人探してます。
面倒なやり取りは苦手なので、仲良くなったら早めに会いたいです。
お互い干渉なしで。気が合えば長く続けられる関係が理想。
恋人探しではありません。
割り切った関係を希望しています。
年齢はあまり気にしません。
まずは、メッセージください。】
そうメモ帳に書かれた定型文。
「これは……櫻と会う前に使っていたんですよっ!大和に一時帰国した時にやっぱ俺も男っすからっ!」
しかし、三条さんの顔の魔眼の光は弱くなることはない。
「田中!これは田中が悪い」そう言って、憐れむように俺を見る丸山さん。
何でやねん!
「君は、櫻子君という恋人がいながらこんなプロフィールを使っていかがわしいアプリに登録していたと……」三条さんの魔力が高まる。部屋の揺れが激しくなる。
「ちゃいますよ!櫻とはバディでっ!」俺がそう叫ぶ。
「もう、その言い訳やめたらどうや……お互いの魔力干渉しあってるの丸わかりやで……」そう、つまんなそうに丸山さんが話す。
「……え?」俺が丸山さんの顔を見る。
「あぁ、すまん。あまりにも露骨やから。魔術師は何となくカップルや夫婦は感じれる。魔力ってのは命の源みたいなもんや。魔力差がありすぎると不妊になるのは知っとるやろう?」そんなことを話してくる。
「……ええ」
「こんな事知っとるのは大和の魔術師ぐらいか」部屋の揺れが収まる。三条さんが座り直した。
「どういう事ですの?」
「俺らは怒っとらん。むしろ、櫻ちゃんが体を預けれるぐらい信用してるパートナーができたことが嬉しいんや」丸山さんがタバコを出す。
赤ラークの
「………」
「平正の大乱では…年齢関係なく戦に魔術師が駆り出された。櫻ちゃんも高魔力やろ。例外じゃない。本来なら、学校に通ってバカみたいな話とかして、恋愛の一つや二つする。そんな青春があったはずや」そう言って、丸山さんはポイズンリングを手に取った。
そうして、タバコを咥えると大きく吸い込み、ふーと煙を吐いた。
「伊達さんは…櫻ちゃんの親父さんはそんな青春を送ってほしかたと思うで…でも、叶わなかった。」
「だから、おしゃれして、田中と出かけている櫻ちゃんを見ると伊達さんが喜んでいるようでな」
「“やっと櫻子に春が来たなぁ!”とか言って笑ってるのが見えそうやな……」三条さんが遠い目でそんなことを話した。
そうして、葉巻を燻らせる。
「だから!私は、櫻子君の保護者が代わりとして忠告する!二又したり、浮気したら私の鏡の藻屑にしてやろうぅ!」そう言って、三条さんが神器の鏡を出した。
「やめてください!断じてそんなことはしません!」俺は断言する。
やばい……とんでもない女とセフレになってもうたかもしれん……。
「セックス以外にも魔力干渉ありますよ!神器の手入れですっ!俺は職人として櫻の神器を手入れしているので!それかもしれないですっ!」
「私はそんな風に言ってないのだがなぁ。体の関係あるのか?」再び応接間が揺れはじめる。
あーーーー!墓穴しか掘っとらん!
「自分で自分の墓穴を掘ったな」ククっと丸山さんが笑った。
「それより!魔力についてです!事件について!」俺は頭を高速回転させて話を逸らす。
この魔力と命の源に友香里が感じた“ギラギラした人間”のヒントがあるはずや!
「友香里が感じたっ!ギラギラした人間!そこに命の源が関係してるとちゃいますか?俺にも教えてくださいよっ!」そう言って二人を交互に見る。
三条さんは物騒にも鏡を構えてる。丸山さんは悪い顔で笑っている。
三条さんが鏡をゆっくりしまった。
そして、応接間の揺れも収まる。
ふぅ……命拾いしたかもしれん………。ロッキーがここにいなくてよかった。
これ幸いと全部暴露しそうや。
「魔力の個人差とその質量についての研究は大和が一番発達している。理由は、神器や」そう説明してくれる。
「神器が…ですか?」
「あぁ、後は大和特有の土地やな。大和は人族も亜人や妖と番になれるやろ?」丸山さんが当たり前のことを話す。
「ええ、当たり前やないですか。人種が違うだけで元は人から派生したんですから……白人と黒人。白人とアジア人が結婚するのと何がちゃいますの?」俺の中ではそんな認識だ。
「他の国ではあり得ない。お前、ハーフエルフとかハーフヴァンパイヤ見たことあるか?」丸山さんの指摘で今まで外国にいたのに気が付かなかったことに気付かされる。
俺にとって当たり前で気にしたことなかった。
そして、他の国の者にとっても当たり前で気にしたことがない。
「………ないです。エルフの上司はいましたが、そんなこと気にしたことありませんでした」自分の視野の狭さと海外を知っているという驕りが、とてつもなく恥ずかしくなってきた。
「そっちが普通なんや。でも、不思議と大和はそれが可能。そして……魔力量。他の国の者は全くなくても生きていける。むしろ、魔力がないのが当たり前だ。でも、大なり小なり大和人は魔力を持って生まれてくる。魔力がないと死んでしまう」そう説明してくる三条さん。
「それって………なんで、一般の人知らんのですか?」気になることを話す。
「ある意味国家機密や。気付かれたら大和人は奴隷にされてしまう」
奴隷。ガータロの里を思い出す。
そして、櫻が教えてくれた初めて高橋女史の家から帰ってきた時の夜。
『今から400年ほど前、聖ルクス教の宣教師は、布教という名目で大和人や妖、亜人を奴隷として貿易したかったのだ』
そんな事を………。
「戦う以外で……魔力が高まる時がある。それが性的興奮を覚える時や。性行為はある意味命の源やからな」
俺は、今までのことを思い出す。
コンカフェババアの魔力搾取の仕方。
謎に高まった俺の魔力。
そして、櫻の神器。
そうして、俺のプロフを見た。
「……性行為で魔力が高まるって、何ですか?そのエロ漫画みたいな設定」思わず口に出る。
「それを言うなっ!」丸山さんのツッコミが鋭い。
流石は、西の都の出身。DNAに刻まれたお笑い芸。
そして、がっくりと下を向く三条さん。
「………田中君。真面目に行こう。ここは男子校じゃない。性的興奮を覚えると、魔力が高まる。性行為は命を繋ぐ営みやからな。他の国でも禁忌の儀式として行っているところは多い。特にルーラー教とかはな……」そう言って、葉巻を燻らせた。
やばい、ここはボケたらあかん。
「じゃ……大和人で、性行為目的がわかりやすい俺のプロフは……」
「相手にとって良い獲物だったのかもしれんな」三条さんがそんなことを推測した。
「でも、これは国家レベルの秘密や。一部の魔術師しか知らん。櫻子くんも知らないことや」
「え……?でも、友香里は?」
「華族学校では相手の魔力の干渉について教える。最低限のことやからな。結婚や出産にも関わるからな。後は、教えん。大和の魔術師は、人とはみな、魔力を持っている者だと思い込んでいる。そして、外国へ行くのは規制されている。特に高魔力者は外国移住は難しい」三条さんがそう言い切る。
え?だって前に……丸山さんを見る。
ーー田中は、海外で生活していたやろ。櫻ちゃん連れて逃げてくれへんか?
あの時の苦しそうな丸山さんの顔。
今、目の前にいる丸山さんは下を向いている。
そして、ガータロの里に行く前の櫻の苦しそうな声をーー。
『無理だよ………法律で私は勝手に出国出来ないことになっている』
インカム越しに聞こえた。苦しそうな声……。
俺が思っているよりもこの“大和”という国は、魔力によって歪んでいるのかもしれん。
コトリっとテーブルにポイズンリングが置かれた。
この持ち主の華丘千尋も櫻も。
そして、俺も。
この国に生まれたことを、いつか後悔する日が来るんやろうか。
そんな、意味もないことを考えてしまう。
飴色の高級なテーブルの上の銀色の指輪が妙に目について離れなかった。
あとで、見直すと思う。
問題のエロ漫画設定の章。
でも、歴史的に魔術と性行為って結構絡んでいるんやけどね。
いや!そんな薄い本が好きなわけちゃいますからね!
……。




