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『菊理姫様!お導きを!』〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜  作者: ぽんぬ


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第七十九話 忘れられた盂蘭盆会

『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜

主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!


毎日23時更新!


時系列

〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜

〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意

〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜

ロッキーの小さな手が三条さんに向けられている。


真実を見抜く大きい目がクリクリと動く。


三条さんが懐からビニール袋に入った指輪を取り出した。


「では、お話を聞きてみるでしゅ!」ロッキーはそれを受け取る。


「苦しそうでしゅ!出していいでしゅか?」


「あぁ、構わない」三条さんの許可が降りた。


ロッキーは袋から指輪を取り出す。ゴツゴツとして中央に花が彫られている銀製の指輪。


ポイズンリングか……。


その指輪を持つと応接間のテーブルの真ん中にちょこんと座る。


「えーっと、もしもしでしゅ。聞こえましゅか?」


「………田中君、これは何をしているんや?」三条さんが俺の方を向いて眉を顰める。


「付喪神との交渉ですわ」俺が麦茶を飲み干す。


そうして、タバコの火を消した。


「……電話みたいやな」丸山さんもタバコを出しながら話してきた。


「指輪さんは、怒っているでしゅ」


「怒っている?」


「ずっと黙っていなきゃいけなかったから……怒っているのでしゅ」そう言って、ロッキーは指輪に耳を寄せた。


カチッ


ポイズンリングの蓋の金属音が響く。


ロッキーの丸い目が、すっと細くなる。


「………あぁ」その声にはあの可愛らしさはない。


どうやら、胸糞悪いものを覚ったらしい。


「大夢……櫻子はどこでしゅか?」ロッキーの目が真剣だ。


「部屋で休んでいる」


さらに、指輪に耳を当てるロッキー。


「指輪さん……それは、仕方がないことでしゅ……」ロッキーの目が細くなり、そうして悲しそうに揺れた。


「………何が見えたんや」静かに尋ねた。


「……この指輪さんには……戦争の記憶がありましゅ……そこに櫻子がいましゅ」


「戦争……」腕を組んだままの丸山さんがロッキーを見つめたままそう呟いた。


三条さんの目が険しくなる。


机の上に置かれた写真を見る。


平均的な顔立ち。特徴のない目元。記憶に残りにくいbot顔。


ロッキーはゆっくりと目を開いた。


「大夢!紙と鉛筆を貸してでしゅ」


「これじゃあかんか?」三条さんが執務机からメモ用紙とボールペンを出した。


「かたじけないでしゅ」ロッキーが受け取る。


ロッキーが紙にペンを走らせる。


「こんなマークが見えましゅ」ロッキーは五芒星に桜の紋のようなマークを出した。


それを見た瞬間。三条さんと丸山さんが揃って嫌な顔をした。


「桜型五芒星紋……安宮派の紋や」丸山さんが呟く。


……………。


「ロッキー……指輪の持ち主はずっと同じなんか?」俺が肝心なことを尋ねた。


「この人の親から……死体から取ったようでしゅ」ロッキーが写真を指差した。


そうして、指輪を握る小さな手に力をこめる。


「指輪さんは……櫻子に会いたいらしいでしゅ」


応接間の空気が変わる。


誰も話さない。


「なんで……あの時……殺さなかったんだ……?」ロッキーが呟く。


「どう言う意味や?」


「お話したいと言ってましゅ………」


ロッキーは指輪を見つめたまま、静かに呟いた。


俺は、ため息をついた。


そうして応接間にいる二人を見る。


「……今から使う技は俺の家系の魔道具職人の技なんで……秘密にしてほしいんですけどええですか?」三条さんと丸山さんを交互に見た。


「………結界を張ろう」そう言うと三条さんが右手をあげて滑らせた。


結界を張ってくれる。ありがたい。


そうして、マジックバッグに手を入れてゴーグルを出した。


ロッキーは俺の肩に乗ってきた。


額にゴーグルを装着し、ダイヤルを回す。


そうして、レンズ越しに指輪を見据えた。


指輪から伸びる、二筋の縁。


紫と緑。お互いに絡み合うように伸びたそれは、どちらも赤黒く汚れていた。


まるで、長い年月をかけて染み込んだ血のようだ。


「大夢!ロッキーならいつでもいいでしゅ」ロッキーが俺のゴーグルに手を置いた。


じんわりと、額に熱が伝わり、ロッキーの魔力を感じる。


指輪から出ている二筋の縁が揺れる。


俺には見えないものを、ロッキーが捉え。

ロッキーが届かないものを、俺の技術でこの場につなぐ。


俺とロッキーが揃ってないとできない技。


どちらが欠けてもできない。


俺は息を整え、両手で手印を結ぶ。


縁を感じ、指先を集中させる。


「ーー付喪神召喚」


術式が起動する。


銀の指輪が、カチリと音を立てた。


指輪の表面から淡い光が溢れる。


光は二筋の縁を伝い、赤黒い染みを浮かび上がらせながら、ゆっくりと空中へ伸びていった。


紫と緑の光が交差する。


絡まり、ほどけて、再び


結びつく。


やがて光の中に小さな影が生まれた。


輪郭が形を得る。


巻き髪が揺れ、ドレスの裾がふわりと広がった。


そこに、一人の貴婦人が立っている。


指輪の隣にドールサイズの小さな貴婦人。


艶やかな銀色の巻き髪が、肩から背中へ流れる。

陶器を思わせる肌に整った顔。

銀糸を織り込んだ豪華なドレス。胸元には大輪の花を模した装飾。


ポイズンリングの付喪神が召喚された。


彼女がゆっくりと顔を上げる。


部屋を見渡す。俺でもロッキーでもなく、どこか遠くを見つめるように呟く。


「………あの娘は何処?」冷たい声が応接間に響いた。



◇◇◇



お盆。ご先祖様の魂を自宅にお迎えして、供養する。そんな行事をせずに私たち魔術師は演習を行なっていたけど……。


それに……盂蘭盆会(うらぼんえ)その正式な名前を知っているものは大和で何人いるだろう?


もう何年もきゅうりと茄子で馬や牛を作ってない。


ご先祖様。父と母。


こうやって現代人は、大和の行事を仕事で忘れてしまうのだろうか?


目の前の碁盤を見る。


古都のむわりとした熱気を帯びた暑さが日差しに混じり落ちていく。


葵さんの部屋には穏やかな時間が流れる。


私は、手元の碁石を弄(もてあそ)びながら、向かいに座る葵さんを見る。


「打たないの?」小首を傾げながら葵さんに見つめられる。


「………考えているんです」私の手の中でジャラジャラと黒い石が音を立てる。


「次の打つ手を?それとも別のこと………?」


碁石を弄んでいた手の動きが止まる。


「どっちもですね」そうして、一つ息を吐く。


葵さんは何も言わない。


私は、だいぶ間を置いて黒石を一つ、碁盤の上に置いた。


「……珍しい置き方ね」目を細めながら私の黒石を見る葵さん。


「え?」


「櫻子ちゃんも変わったわね」


盤面を見下ろす。


どうやら、考え事をしているうちに、打つ場所を見失ってしまったらしい。


見失う………。


その感覚が自分にまとわりつく。


「タバコ……いいですか?」思わずタバコに手が伸びる。


「ええ。遠慮せんと大丈夫よ。奏もスパスパ吸っているわ」そうして、くすくすと笑う葵さん。


ライラが灰皿を持ってきてくれた。


タバコを咥えて魔法で火をつけようとし、ためらい。


ライターを探した。


ライラが狐火を指先から出してくれる。


「かたじけのうございます」そう言って火をもらう。


そんな様子を葵さんが目を細めて見つめ返す。


何を思っているのだろう?


葵さんが白石を手に取る。


そして、カチリと盤面に置く。


「そういえば、櫻子ちゃんは“大文字送り火”って見たことある?」


「いえ。お盆は毎年演習ですから。気がついたら終わってます」


そう答えてから、手元の黒石を見つめる。


一つとる。手の中で転がす。


お盆らしいことなど、もう何年もしてない。


「……昔は、きゅうりや茄子で馬や牛を作るのが好きで、作りすぎてねぇやに笑われていました」


「まぁ。櫻子ちゃんが?」


「はい。朧げですが、そこに父が……」そこまで口が滑り、つぐんだ。


父がどうしたのだろう?


一緒に作ったのだろうか?


それとも作り方を教えてくれたのだろうか?


強い光に包まれたポッカリとした世界。


「どうしたの?」葵さんが心配そうにこちらを見つめる。


ブラウンの瞳に光が入り、隠れていた金色がきらりと光る。


「……いえ。何も」


私は、黒石を碁盤に置いた。


カチリ。


「そう」


葵さんは、それ以上何も聞かない。


それが心地よいような。むず痒いような……。


庭から、蝉の声が聞こえる。


私は盤面を見つめる。


送り火はもう終わっている。


今さら何をしたところで、死人に何かをしてあげれることなど


生者に何ができるのだ?


そんな不毛な禅問答のような思考を巡らせる。


小難しく考えて問題を見ないようにする。


しかし、先ほどから碁を打つ、私の手は酷く赤く汚れているようだ。


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