第七十二話 甘くて安心する味
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日23時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
ーーー公園。不気味に空の色が変わる。
ギーギーとブランコがひとりでに揺れる。
赤い椅子のそのブランコから目が離せない。
ーーー畳。たくさんの子供。
古い着物の男が子供の首筋に口を当てる。
「いやあぁぁぁぁぁ!」耳が痛くなる悲鳴。
群がる着物を着た子供。
ゴロリと目の前に干からびた子供の死体。
「はぁっ!」飛び起きた。
「どないしたん?うなされていたよ?」櫻が俺の車のハンドルを握っている。
豊富家からの帰りは櫻に運転を任せて、俺は昼寝することにした。
驚くことに櫻は車の運転ができる。
どうやら、奥州では車で通勤していたらしい。
一時期薬の影響なども考えて、車を運転するのを控えていたらしい。
そんな事を教えてもらった。
俺は額の汗を拭う。
「知らん。変な夢見ただけや」そう短く言う。
「ふ〜ん、そう」そっけなく答える櫻。
そんな感じが心地よい。下手に根掘り葉掘り聞く方が辛いことを知っているのだろう。
「休憩する?喉乾いた」
「せやな。トイレ行きたいわ」俺が答える。
櫻は無言で左にウインカーを出して、サービスエリアに向かった。
少し下った、地下のような駐車場。上はトラック専用のエリア。
櫻は、程よいところに車を停めた。
「今度は俺が運転するわ」そんなことを言って車を降りる。
「大丈夫?私、平気やで。まだ、夏休みでのんびりできるし」
「かまんよ。櫻もちょっと休みなぁ」そう言って入り口まで足を歩める。
クリーム色のタイルに駅のような作りの階段。
左手にトイレ、反対側にエレベーター。
ここのサービスエリアはビルになっている。櫻は初めこの作りに驚いていたっけ。
まぁ、サービスエリア自体が珍しそうやったけど。
「適当にコンビニに行ってるわ」そう声をかけられる。
俺は無言で頷き男子トイレに入った。
手を洗うのに洗面台までくる。
鏡によく知った自分が映る。麗乃が言った。
“小さい頃は女の子みたいに小さかった”
中学に上がるまで身長が伸びないで悩んだものだ。チビだと舐められる。
そうして、魔法塾などで目をつけられてターゲットにされる……。
でも、魔法操作がうまくいくようになったらぐんぐん身長が伸びたな……。
成長痛が痛かったのをなんとなく覚えている。
鏡の後ろを髪が短めの小さな女の子が横切る。そのまま小便器へかける女の子。
え……?
と思うと男性が後からやってきた。
「ほら、トモ!トイレでは走らない!」
そう言って子供のトイレを見る父親。
逆だったようだ。髪が長めの男の子だったらしい。
魔力が高い俺は髪の毛を短く切れなかったから、よく女に間違えられたな。子供なんてみんな同じ顔だし……。
耳の半分まで髪がかかっていたから髪の短めな女の子に見えたのだろう。
今では、少しでも髪が耳にかかると嫌で切りに行くようになった。
トイレを出て、エレベーターに乗った。
コンビニまでの階数を押して、ぼうと考える。
時々見るあの夢はなんなんだろう?
戦場にいた夢より恐ろしい。
…………親父が、昔……俺が幼い頃、華族に保護されて助かった。
そんな話をしたことがある。それと関係あるのだろうか?
エレベーターが開く。
ふと見ると櫻が菓子を選んでいた。
また、珍しい光景だ。アル中ロリババアは基本間食をしない。
全てのカロリーを酒で摂取したいらしい。
豊富家でも一口ケーキを食べたら終わっていた。でも、友香里もそんな食べ方だったから華族の令嬢はそんな作法なのか?
もったいな。
櫻が会計に進む。俺は、ジュースもついでに買ってもらうべく、櫻の後ろに行ってジュースを渡す。
「これもお願い」
櫻が俺を見上げた。
「金払え」眉を顰めてそんなことを話す。
「ええやんこれぐらい」
「いろいろ儲かったんやろぉ」そう言ってぷりぷりと怒る櫻。
櫻の方が給与ええやん!
会計を済ませて、ビニール袋を受け取る櫻。
ごそごそと袋を弄るとチョコレートを出してきた。
苺味とチョコミルクが重なったいちごのチョコレート。
パッケージにウサギの絵が描かれている。
「手出して」そう言って櫻が手を出してきた。
俺は素直にその手に自分の手を置く。
コロンと二、三粒チョコレートが出る。
「私、昔からこれだけは食べるんよね。美味しいよね」そんな事をそっけなく話してきた。
ーーーー。
「手を出してくださらない?」小さな手が差し出される。
その袖口は着物だが中にブラウスを着ている。生成りの袖が見えた。
蒼い着物に白が綺麗だ。お空と雲みたい。そんな事を感じた。
そこから伸びた手が俺の手を無理やり掴む。
手の中にコロンとチョコレートの粒が転がる。
「わたくし、このお菓子が一番好きなの。元気が出るわ」
顔を上げる。優しい緑色の目を持った目の大きな女の子。
俺より、背が高いし、お姉さんだろうか?
俺が戸惑う、食べていいのだろうか?
すると、女の子が俺の手から一粒チョコを取り上げ食べた。
「ね!毒なんてないわ。鬼喰いっていうの華族の毒味。あなたどこの出身?」
「………わからん」目が潤むのがわかる。
「方言が西の都ね。わたくしのおじ様がそちらの出身よ。安心して、きっとお家に帰れるわ」そう言ってチョコレートを口の中に放り込まれた。
甘くて、安心した。
ーーーー。
「食べやんの?」櫻が声をかけてきた。
「あ!いや……」なんだ?さっきの記憶?
櫻がチョコを手に取る。
「んっ」俺の口元にチョコを差し出してきた。
素直にそれを口に入れる。
甘くて、安心する味だった。
◇◇◇
ヒロが見た夢ってやっぱり戦場の夢かな?
私がそんな事を思う。
そうして、豊富家で食べた昼食が多くて消化が間に合わない。
う〜、お腹が重い。
友香里ちゃんと私は途中からギブアップ気味だった……。
豊富さん基準にしないでほしい。
窓の外を見る。
浪華の街並みが流れていく、住宅が少なくなり緑が増える。
山が切り開かれている道を進む。途中、高速道路が切り替わるので料金所を通った。
ETCが反応し、料金が告げられる。
お腹いっぱいやし、頭も使ったし……。
なんだか、眠くなってきた。
ーーーー。
月明かりに照らされた廊下。
夜間学部の私は誰もいない華族学校の中を進む。
図書館を開ける。
夜は基本誰もいない。下手したら司書すらいない。
静かで落ち着く。
「………なんなのじゃぁぁぁ……」学習スペースの方が妙に騒がしい。
私は眉を顰めてそちらに向かう。
神代文字の参考書を手に一人の女生徒が唸っていた。
黒いストレートの綺麗な髪。
水平線から太陽が出たような、小さな髪飾りをしている。
彼女が頭を揺らすたびにその髪飾りがシャランと不思議に揺れた。
幼い見た目だな。
まぁ、私も人の事言えないな。下手したら小学生に間違えられるし。
「なんなのじゃ?わしに用があるのか?」女の子がこちらを振り返った。
「いいえ。図書館では、お静かに願います」
「すまんのじゃ」女の子が下を向きながら話す。
アーモンド型の大きな目だな金色の瞳が美しい。すっと通った鼻筋に薄い唇。
屈託がなくて可愛い子。こんな子いたんだ。
この子も高魔力かな?
「わしは神代文字が苦手なのじゃ……。今度の休みに実家に帰らんと……お父様が帝都に来てしまうのじゃ」そんな事を言う。
「……………」
別にいいではないか?何が問題なのだろう?
「のう!其方!わしに神代文字を教えてくれぬか!」そんな事をお願いされた。
「申し訳ありません。これから授業があるので」私は断る。
そうして、カーテシーをしたら立ち去る。
女の子は目を丸くして何か言いかけたが、私は無視して新しい本を探した。
本を一冊取ろうとすると隣の本も落ちてしまった。
偶然開いたページ。
華族学校一期生の文字。
ストレートの髪。太陽が水平線から出たような髪飾り。
大きなアーモンド型の目。すっと通った鼻筋に薄い唇。
さっきの子にそっくりな女の子の写真がそこにあった。
ーーーー。
「櫻!家に着いたで」その声で起きる。
なんか、夢を見ていた気がする。
なんの夢だったかな?




