第七十一話 赤い手
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日23時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
昼食を終え、午後の暖かな日差しが豊富家の縁側を通して入ってくる。
何だかとろりと眠ってしまうようだ。
それぐらい穏やかで静か。
豊富家のねぇやが無駄のない動きでお茶を用意してくれた。
私は意識しないようにその動きを見る。
しずを思い出してしまった。しずは今何をしているだろう?
私が最後に聞いたのは帝都のホテルに就職したという話だ。他にも庭師のたけじぃとか……。あと、料理長のフジ。
私の外宮の館にはこの3人しか固定の側仕えがいなかった。
他は、内宮の館の者がシフトを組んできているような感じ……。内宮のねぇやたちは私のことを不気味がって近づかない。
もしくは、面白がってわざとすれ違いざまに悪口を言うだけだ。
面と向かって言っているつもりなのだろう。
一人、あまりにもしつこいねぇやがいて殺しかけてしまったこともあった。
ーーーー。
「もっ、申し訳ありません。………姫様」足を氷漬けにされた女の側仕えが私に懇願してきた。
側仕えが廊下の壁際に追いやられて怯えている。
幼い私はそれを見ている。バケモノの顔だ。そこからバケモノが生まれた。
「もう一度言ってくださらない?」幼い声でそんなことを言ったような気がする。
「申し訳ありません。申し訳ありません」目の前の側仕えはそんな事しか言わない。
「壊れたお人形かしら?お父様とお母様がどうしたって?」まだ、小学校に上がったばかりの娘には思えない、重く冷たい声。
「ーーー!」声が聞こえる。
私は、初めて“魔力暴走”その感覚がわかった。血液が煮えたぎり、目に力が入る。
私はねぇやの瞳を覗く。
自身の目の色が変わっていくのがわかった。子供の目であるダークブラウンから帝王緑の大人の瞳に変わる。
不気味に緑色に光る私の目。それが、目の前のねぇやの目を通してわかる。
目が小刻みに揺れる。痛い。でも、目の前の無礼な女が許せない。
ふわりと私の身体が浮かび上がり、抱きしめられた。
ゴツゴツとした腕に包まれて引き寄せられる。その人物の顔を見る。
そこからの記憶はない。
ーーーー。
あの時、なんであんなに怒ったのだろう?
襖がゆっくりと開かれた。友香里ちゃんが帰ってきた。
「ドレス、注文しちゃった♩大夢さん、いいお店教えてくれてかたじけのうございます♩」麗乃さんを神辺に送った友香里ちゃんがそんなことをヒロに話しかけた。
「ええよ」ぶっきらぼうにそんなことを言いながら将棋盤を見ているヒロ。
「王手」静かに王手を指した。
「だぁ〜。将棋も強いんかいな」豊富さんが将棋盤を見てそんな感想を漏らしていた。
ヒロと豊富さんが将棋を打っている。
冬馬君はそれを何やらメモしながら見ていた。
「ほんまもんの戦争じゃ、こんなのお遊びやで」そうつまらなそうに話すとタバコを出した。
サッと西林さんが火を出す。
「……どうも」面食らいながらタバコに火をつけるヒロ。
「確かに……田中様は本当の戦争をご存知な様子ですね」片眼鏡を光らせながら西林さんがそんなことを言った。
「今度、お相手してほしいです」そうヒロに声をかけた。
「西林さんだと俺じゃ相手になりませんよ」そう言ってふぅーと煙を吐いた。
「さて!この前の賊についてと、わかることをまとめよう。捜査会議を始めるよ」私がそう声をかけた。
みなが一斉にこちらに向き、集まり出した。
のんびりした時間は終わりだ。私もタバコを出した。豊富さんも。
「空気清浄機……マックスでお願いします」涙目の友香里ちゃんがそんなことを懇願してきた。
「すまんね。これがないと頭きりかわらんのや。」私がタバコを咥えてそう話す。
喫煙者ばかりも考えものだな……でも、タバコをやめようとは思えない。
そうして、紫煙の中会議が始まった。
◇◇◇
高価なラグにソファ。ソファには豊富家の家紋入り、特注なのがわかる。
それに飴色に磨かれたローテーブル。洗練された茶器。
香りの良い紅茶。
俺が住んでいた世界とは違う世界。
俺の世界はもっと泥臭く、そして、血の匂いだけが鼻をついていた。
目の前に死体が転がり、ドッグタグだけを引きちぎり、仲間の死を知らせる。
将棋の駒を進める度……。本当だったらこの盤上は血まみれなのにと思う。
俺は、イージスに入ってから豆腐が食べれなくなった。
狙撃をするときに確実にヘッドショットを狙うと頭が飛び散る。
パンっと弾けたそこから覗く、白くふわふわとした脳がずるりとこぼれ落ち床にぶちまけられる。
顔半分が一瞬でなくなる、そこから鮮血が吹き出し人だったものが倒れる。
戦場にいる時はいい。アドレナリンが出て高揚感で満たされる。
初めは、俺もPTSDに悩まされた。変な夢を見たり、現実じゃないような感覚になり、物音に怯えたり、殺した相手が俺を殺しにくる妄想にも悩まされた。
でも、そんなことを悩む前に戦場に出た。
そして、いつの間にかその日常が当たり前になって………。
慣れた。
そんなことをしていたらランキング10に載るようになって、仕事が忙しくなってきた。
辞め時に辞めて。大和に帰って来れてよかった。色々制限はあるが、俺には関係ない。
別の警備会社などに入らなければ自由だ。しかし、俺には常に虫がついている。
側仕えの一人の動きが玄人だ。
そいつの動きを見ながら将棋を打つ。そんなことをしていたら筆頭側仕えに見つめられた。
この爺さん。めっちゃ強いな。
そんな感想を持ちながら盤上を見る。狙った勝ち筋が見えた。
「王手」静かに王手を指した。
「だぁ〜」と豊富が崩れる。
タバコを出した。火が俺の目の前に出される。
動きが見えなかった。この隙だらけのお坊ちゃんをずっと守っているだけあるな。
「……どうも」そう言ってタバコに火をつける。
「捜査会議を始めるよ」櫻が声をかけてた。
各々が中央のソファに座る。西林がどこからともなくホワイトボードを出してきた。
捜査会議が始まった。
わかっている事を矢継ぎ早に話す櫻。
「大和の人魚、ガータロ、人、特に紀州の人の誘拐。そして………」
「不老不死」
それらを西林が記入してる。
顎に手を置いて真剣な櫻の目に怪物が宿る。
愛しい怪物さんで良いですな。俺は、理由なく怪物になったが、櫻には理由があったのだろう。
知らんけど。
ホワイトボードの文字を見る。
若狭国
会津領北方
尾張国高蔵寺町
俺は自分のマジックバッグから図鑑を出した。
そうして、水生生物のファイルを取り出す。
「魔道具職人なのにえらいアナログやな」豊富がそんなことを話した。
「15からつこうてるんや。しゃーないやろ」そんな風に返す。
「え?大夢さんって何歳ですか?」冬馬が聞いてくる。
「24や。」
「はぁ?僕らと4つしか違わんのですか?」
「貫禄ありすぎですよぉ!」
小野兄妹が驚く。
「生きてきた世界がちゃうわ」俺が吐き捨てるようにそんなことを言った。
俺は、ページをめくり人魚族の歴史のところを見る。
「櫻」そう言って、櫻に見せる。
なんとなく直感でここと思うがそこから先が説明できん。そんな時は櫻の出番や。
櫻は渡されたファイルを見るとタバコを咥えてふぅーと煙を吐いた。
しばらく考え込んでいる。
「………八百比丘尼」そう呟く。
「お伽話の人魚の肉を食べた尼さんの話ですよね?」友香里がそんなことを言う。
高橋女史を見てないとそう感じるわな。
「……冬馬、友香里。お伽話とちゃう。正式に伝達者になったら三条さんに連れて行ってもらえる」豊富がそう話して足を組み替えた。
「ヒロ……八百比丘尼伝説って全国にあるけど……ヒロの図鑑によると一番有力なのはこの三箇所なんね?」
そう言って若狭国などをマッピングした大和地図を指差す。
「諸説あるがな…人魚族以外にも他の妖に交友があって詳しい人なんてこの著者の“玄導”って人ぐらいちゃう?あとは……解剖学みたいな本しかないで」俺がそんなことを話す。
「玄導?聞いたことない学者やな……ペンネームかな?それに魔法生物の学者は少ないからな……」そんなことを櫻が話す。
櫻がいうぐらいだ。本当に少ないのだろう。
そして、ホワイトボードに【八百比丘尼伝説】の文字。
「後は、マッチングアプリ……」俺が呟く。
「なぁ、“不老不死の研究してる。”賊の目的はそう推測したんやろ?櫻子はんとヒロは?」
「えぇ」櫻がタバコの火を消しながら話す。
「でも、こんな大規模な研究どこでやっているんやろう?」そう言って考え込む。
「そりゃ、ダミー会社やろ」豊富がそんな事を話す。
「考えられるとすると?」櫻が豊富に質問した。
「製薬会社……いや、大和で新参者の製薬会社は難しいな…厚生省の許可がおりづらい。申請時間もめちゃくちゃかかる。それやったら、健康食品や美容・ウェルネス系の企業ならボンボン立ってるな。」豊富がPCを立ち上げて調べながら話す。
ただのボンボンと思っていたが案外切れるんだな。
「でも……それだと非効率じゃないですか?」冬馬がそんな事を話す。
みなが冬馬を見る。
「もし、仮に健康食品の会社なら。モニターを募った方が効率いいです。」冬馬がホワイトボードを見ていた顔をこちらに向けた。
「確かに……年齢と出身地を設定しやすいし、健康体の人も手に入りやすいわ。でも、マッチングアプリじゃないとあかんかった?何がちゃうんやろ?」櫻が考え込む。
「え?出会いたいギラギラした人が欲しかったんですかね?」友香里がそんな事を話した。
櫻が顔を上げる。
「やっ、櫻子さんそんな目で見ないでくださいよ」眉を下げて友香里が弁明する。
多分、叱られたと思ったんだろう。
「友香里は鋭いで」俺が言う。
「モニターとマッチングアプリの利用者の違いはそこや。でも、そこが繋がらん」俺は頬杖をつく。
将棋や戦争の方が簡単だ。
俺のいた世界を思い出す。泥と火薬と血の世界を。
そして、目の前の人物を見た。みんな綺麗な手をしてやがるな。
ふと、隣の櫻の手をみた。顎に手を置き考え込んでいる手を。
その手だけ、俺が見てきた世界と同じだった。




