第七十話 私の軍服なんか派手じゃない?
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
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時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
西林さんの背中を見ながら廊下を進む。
豊富家は基本大和風やな……。
私は辺りを見渡す。
立派な絵が描かれた襖が続く。所々にランプの火が揺れる。
長い廊下が永遠に続くようだ。屋敷というより城だな。
西林さんが大きな襖の前で立ち止まる。
金粉があしらわれとても豪華な襖だ。
派手だなぁ……。
「お客様をお連れしました」そう声をかける西林さん。
「どうぞ」気だるそうな豊富さんの声が聞こえた。
襖が開かれる。
元は和室だったのだろう。淡い畳の上にラグが敷かれている。
その上に背もたれの高い椅子には、濃い黄色の布が貼られている。
そこに豊富家の家紋がついている。
テーブルの横には銀のティーセットと陶器の茶器が並んでいた。
壁際には黒塗りの洋風のキャビネット。
その上には古い洋時計と花瓶。
一方で、窓には障子が使われその向こうには縁側が続いている。
中庭が立派だ。
内宮の実家のような作りだな……。
縁側と室内を仕切っている障子の影が揺れた。
「遠いところご苦労さん」豊富さんが縁側から出てきた。
「好きに座って」そう声をかける。
麗乃さんが名刺を取り出した。これで四回目だ。
一回目と二回目は小野兄妹に三回目は西林さんに……。
西林さんとは名刺の交換もしていた。西林さんの片眼鏡が光ったのでこれは脈があるかもしれませんよ麗乃さん。
そうして、豊富さんに名刺を差し出しながらこういった。
「お初にお目にかかり光栄です。豊富公爵閣下。わたくし、『千歳屋』の春野麗乃と申します」両手で名刺を渡す。
「千歳屋かぁ……聞かんなぁ。西林、うちはどこの亀のところと他に頼んどるんや?」豊富さんが西林さんを見た。
「坊ちゃんのおっしゃる亀の『亀乃屋』と『鶴や』にお願いしております」静かに答えた。
「さすが、京呉服の老舗の『鶴や』さんとお取引があるとは!『亀乃屋』さんはうちよりお若いお店ですが、華族の方が経営してらっしゃいますね。」
そんな会話をする。
「でも、最近その『亀乃屋』が妙に鼻につくんや。この前もわしの注文聞きにきたんにごちゃごちゃと……」
「あ……豊富さんのところもですか?」冬馬くんが私たちの後ろからひょっこり顔を出して話す。
「『亀乃屋』どないしたん?」私がそう話す。
確か、奥州でも有名な呉服店だ。「亀乃屋」の女主人が社交会に和洋折衷のドレスで現れて一気に人気になったお店。
鶴やの娘さんだっけ?元は華族令嬢ではないが、男爵に嫁いだ人だったはず。
「娘さん。年頃なんですよ。亀乃屋の一人娘」そう友香里ちゃんが教えてくれる。
「へぇ〜。それが?」そんな感想を漏らす。
その場にいた全員がガックリと肩を落とした。
そして、ヒロが麗乃さんに向かって
「な?はっきり言わんとわからん奴やろ」呆れながら話す。
「何よ!年頃やと何があるんよ!」私が食ってかかる。
「多分、友香里が言いたいのは、その年頃の娘引き連れて服を仕立てにくるんやろ?好意にしている華族のしかも位が高いところに」ヒロがつまんなそうに話す。
「ヒロ!正解!1ポイント!」豊富さんがヒロを指さしてそんなことを言った。
「っしゃー!何くれるん?」
「わしのブロマイド」
「いらんわ」
ヒロと豊富さんの高速ラリーが続いた。やっぱりこの二人仲良くなってない?
「僕のところも酷いですよ。友香里の服の仕立てはすぐ終わるのに僕だけ長中と……」冬馬くんが呆れながら話す。
「そう、露出たっぷりの服で……うちの筆頭もカンカンですよ。近々業者変えるかもって話ですよぉ」友香里ちゃんが両手を鬼の角のポーズにしカンカンって表現した。
「30超えて焦ってるんやろうけど…冬馬に手を出そうとしているん?何歳差やねん」豊富さんが顔を顰めた。
そして、そんな会話を獲物を狙うように聞いている麗乃さん。
確かにこれは商売人にとっては商機だ。逃さない手はない。
「では、わたくしどもの商品をご紹介しますね!こちらの空間使わせていただいてもよろしいでしょうか?」そう言って、隣の部屋を指差す。
「かまんで。なぁ、西林」
「はい。坊ちゃん」
「ありがとうございます。では、失礼して」そう言って襖を開けた。
そこには、何もない12畳ほどの畳の部屋が広がっている。
麗乃さんはそこにマジックバッグを置くと魔力を込めた。
パタパタとマジックバッグが広がったと思ったら緋色の軍服が掛けられたハンガーラックが現れた。
そして、マネキンも。こちらも緋色の軍服が着せてある。
麗乃さんはもう一つマジックバッグを取り出すとそこからもハンガーラックに掛けられた服を取り出す。
それは軍服ではなくドレスだ。
「わぁ!」友香里ちゃんが反応した。
それを見てニヤリとする麗乃さん。
「今回は、軍服とのお話でしたが、勝手ながら秋の社交会のドレスやタキシードの見本もご用意させていただきました」そう言って一礼した。
先ほど何もなかった部屋は呉服店のように服がいっぱいだ。
服の他にも細やかな装飾品まで揃っている。
「すごい……西の都の業者さんってこんなんなの?」私が豊富と小野兄妹を見た。
3人は首を横に振る。
「こんなの見たの初めてや…。魔道具使う業者は基本出入りせーへん」豊富が話す。
また、魔道具か……。華族の魔道具の忌避感どうにかできないかな……。
「こちらの方々はこのゴリラとお知り合いと伺ったので、商品を良く見ていただきたいと思い勝手ながらこのマジックバッグを使わせていただきました!」そう言って麗乃さんは商品に手をかざした。
「春野さんって言ったか?ヒロとどういう関係なん?」豊富が話しかける。
「再従兄弟です」ぶっきらぼうに答える麗乃さん。
「さぁ!それぞれの魔法特性を教えてください!わたくしどもが最高の軍服に仕上げます。」
そう言って、タブレットを持ち出した。
そこには、一人の商人が戦に向かっていく逞しい姿があった。
姿見に写った私は疲れ切っていた……。
何回服を着て脱いだだろう……。
借りたガウンに袖を通しながらそんなことを考える。
きっかけはこんな事だった。
「私は、基本的に氷魔法が得意ですね。他もそこそこ出来ますが」と麗乃さんのカウンセリングにそう答えた。
「さっき魔力が溢れるの見たけど……櫻子ちゃん。かなり魔力高いわね。広範囲で撃つことある?」麗乃さんの目がタブレットから私に移る。
「えぇ、特級魔法の『絶対零度』が使えますから」
「じゃ、腕は自然と保護して……そうね。スカートを工夫しましょうか!」そう言って何着も何着も服を着せ替えられる。
友香里ちゃんと冬馬くんはすぐに終わった。
今、友香里ちゃんは社交会に着ていくドレスを鼻歌を歌いながら選んでいる。
そして、冬馬くんがつまんなそうにそれを見ていた。
私の周りにはヒロと麗乃さん……そして、豊富さんまでが私の軍服について話し合っている。
何でなんだ!着るのは私なんだぞ!
3人がタブレットを覗き込みながらごちゃごちゃデザインを選んでいる。
私が覗き込もうとする。
「櫻はあかん!」
「何でや!自分の軍服や!」
「まぁまぁちょっと待っていて」麗乃さんに背中を押されて友香里ちゃんの方へ押し出された。
「はぁ〜」ため息をついた。
「すごいですね!大夢さんの再従兄弟さん!麗乃さんでしたっけ?こんな綺麗なデザイン!社交会にどれを着て行こう!」そう言って友香里ちゃんがドレスを体に当ててる。
「どれでもええやん。友香里が着ると綺麗なドレスが全部ちんちくりんに見えるで」つまんなそうに冬馬くんが答える。
「ちんちくりん言うな!」友香里ちゃんが冬馬くんをポカポカと叩く。
この二人を見てると癒されるなぁ。
「櫻!来て!」ヒロに呼ばれた。
「これを着てみて」そう手渡された軍服。
ダブルのショート丈のジャケット。
スリットががっつり入ったロングスカート……。
「こんなんショーツ見えてまうやん!」私が涙目でそう苦情を言う。
「ええやん。見える前に殺したらええ」サラッととんでもない事を言うヒロ。
「恥ずかしくて動けんわ!」私が軍服をぎゅっと握る。
「確かに恥ずかしいのは嫌よねぇ」麗乃さんが話す。さすが!女性は気持ちがわかってくれる!
「このショートパンツ履いて……とりあえず着てみて」そう言って衝立の裏に押しやられる。
「これ、着ないと本当にあかん?」
「あかん!決まらんやろ!」ヒロに言われる。
私は渋々、軍服を着た。
まずはジャケットを黒いブラウスの上から。このデザインは固定だ。私は神器持ちだから襟に菊理姫様の象徴である菊と波が刺繍されている。
次にショートパンツ……。
そして、スカート………。
ガードが足りない。
「ねぇ!これ防御が足りない。下手したら足が無くなるぅ」そんなことを言いながら衝立から出た。
「「「おぉ〜」」」3人の声がハモった。
なんの感嘆だよぉ!
「でもそのままやったら確かに足が危ないかもしれん。春野さん、その辺の防御どうしたらええ?」豊富さんが麗乃さんに尋ねた。
「じゃ、これでどうやろう?」黒いガーダーを出してきた。
「それに!雪で滑らないように!このショートブーツ!はい!着替えて!」
そう言って手渡されるガーターとショートブーツ。
私は渋々それを履いた。
なんか?派手じゃないかな?
「これ……一ノ瀬さんぐらい派手じゃない?」私が衝立から出る。
「いや!あのコンカフェババアのと全然ちゃう!」ヒロが力強く話す。
「せやで!一ノ瀬さんは付与魔法も何も与えてないでしたやん!」豊富さんがそれに乗っかる。
「よし!これで決まり!後は、広範囲に魔法が繰り出せるようにスカートに付与魔法を与えることね!そっちはうちの職人がいるから任せて!」グッと拳を握って話す麗乃さん。
そうして、決まった軍服。
チラリと姿見を見た。
「氷血の鬼姫」そんな二つ名があった私が、大人っぽい軍服を着ている。
この軍服の隣には緋色の戦闘服を着たヒロが隣にいてくれるはずだ。
だったら、少しぐらい恥ずかしくてもいいか……。
ヒロと一緒やし。




