第六十三話 バケモノとバケモノ
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
雪崩が後ろからやってきた。
正確に言うと雪崩みたいなおっかない魔力が向かってくる。
「っ!気づかれたか……」俺は魔力制限をやめた。
常に一緒にいるからか?
櫻にはどんなに魔力制御をかけても気づかれる。
俺は、足の魔道具に魔力を込める。
警告音が鳴る。
っこれまでか!速度制限ギリギリだ。
こんな時に魔術師が羨ましい。自分の身体と魔法さえ鍛え上げたら制限がない。
しかし、俺みたいな戦闘員はそうもいかない。
東軍の陣が見えてきた。
俺は、スコープを覗く。
適当にいるやつを一人キルする。
燃える身代わり藁人形。
騎士団の奴らが慌て出す。
混乱に乗じて大将も撃っておくか…。
「ーーー絶対零度。」櫻の静かな声が聞こえた。
スコープの先では、凍らせられた騎士の何人かの身代わり藁人形が燃えている。
振り向く。
不敵に笑う櫻が俺の目の前にいる。
「櫻子姫様!チートはおやめください!」
「チートではない!努力の積み重ねだ!」そう言ってハサミを振り上げながら東軍の陣へ進む。
俺も負けてられん。
俺は、豊和M1500から20式小銃に持ち替える。
そのまま東軍の陣へ。
櫻と俺が同時に陣の中央へ降り立つ。
「引き分けか?」俺が尋ねる。
「狩った人数にするか?」櫻の目が光る。
「それでええで。」俺は、魔力を込めながら小銃を撃ちまくった。
バラバラと弾丸が騎士団を襲う。
燃え盛る身代わり藁人形。
離脱した者が空間移動魔法で消える。
「結界張るの遅いでぇ〜。」そう言いながらボルトを引いてリロードする。
これで10キルはしているだろう。
櫻もハサミと魔法でかなりの人数をキルしてる。
「今、どれぐらい?」櫻が尋ねてきた。
「10キルぐらいやな」
「同じぐらいかぁ。ってか、こっち人多くない?」
「ほんまよな。西軍こんなにおらんで」俺は、結界をナイフで破り、目の前の騎士をキルしながら話す。
俺の攻撃を受けた騎士は驚きと恐怖で顔を引き攣らせながら空間移動魔法で離脱した。
刀を抜くこともできないのか…。大和の騎士団は…。イージスが本気出したら一瞬でやられるな。
俺なんてランキング10に入るか入らんかなのに
「わっはははは!いいぞ!櫻子君!田中!」俺らは動きを止めた。
徳田が刀を持ちながらこちらに歩いてくる。
威圧を感じる。俺の心を烈火が襲う。しかし、これぐらい。
「戦場に来たようで楽しいですわ。徳田さん」俺が笑いながら話す。
「わたくしも同じですわ。徳田様」櫻も威圧をかけ返しているのだろう。
隣から冷気を感じる。
「あの獲物は私の方で構わないか?大夢君」俺を見上げながら櫻が話す。
どうやら因縁があるらしい。
「どうぞ。そのかわり、大将取ったからポイント100とかやめてな」そう返事する。
「そんなせこいことしやんわ」そうして、にぃと不敵に笑うと狩人の目になりハサミを大剣に変えて構えた。
徳田も抜刀の構えになる。
これは巻き込まれるな…。
何人もの騎士団員が自主避難している。
ふと、その中に有栖川宮がこちらを伺っているのが見えた。
俺は急いでそちらへ向かう。
「殿下!危ないです!ここはお逃げになってください!」俺が声をかけた。
「徳田殿と櫻子殿の戦闘を見てみたい!それに私は空間移動魔法が使えん」目を煌めきながらそんなとんでもないことを話してきた。
周りを見る。
騎士どもは早々に自主避難していなくなっている。
この国の要人警護はどないなってるねん!
俺はため息をついた。
「危なくなったら逃げますよ!身代わりの魔道具は持ってますね!」有栖川宮は頷き藁人形を出した。
「ここは、近すぎます!もう少し後退しましょう」そう言って有栖川宮を誘導した。
「すまない。田中殿。戦闘を見たいと話したら護衛騎士がその場からいなくなってな」有栖川宮がまたとんでもないことを話す。
「後で、処罰をした方がええですよ。そんな騎士」俺が呆れながら話した。
要人警護は前の仕事でもやっていたので要領はわかる。
時々この手の怖いもの見たさの要人もいるから慣れっこだ。
そういや、アルビオンのお姫様もこんなタイプだったな……。
気に入られてよく呼び出されたっけ。
有栖川宮を櫻たちが見えやすい崖の上に連れてきた。
そうして俺は内線を入れる。
「こちら田中。本部へ報告。東軍の陣は隊長以外は離脱。今、伊達と交戦中」
「こちら本部。田中!それはほんまか!」丸山さんの焦った声が聞こえた。
「嘘ついてどないするんですか?それと有栖川宮殿下の護衛に入っています。護衛騎士が逃げたそうです。」そんなアホみたいな報告をする。
「はぁ?田中!どこにおる!救援信号を撃て!向かいに行く。」何故か丸山さんが焦っている。
俺は、指示通り救援信号を打った。
すぐに丸山さんが空間移動魔法でやってきた。
「殿下!ここは危ないです!すぐにお逃げっーーーー!」
丸山さんが言い終わる前に櫻たちの方から火柱が上がった。
俺は咄嗟に結界を張った。
なんとか爆風から身を守る。
魔道具を見る。
なんとか壊れずに済んだがこれはやばい…。
「田中!おおきに!よく耐えれたな!」丸山さんが声をかけてきた。
焦った丸山さんの横で有栖川宮が目を輝かせている。
「殿下!次が来たら俺の結界も壊れます!逃げましょう!」
「田中殿の結界でもダメなのか?もう少し…まじかで戦いを見たかったのだが…」そんなことを言う有栖川宮。
「殿下!田中の言う通りです!逃げますよ!不敬をお許しください!」そう言って有栖川宮を掴み空間移動魔法で消えてしまった。
「……え?俺は?」そうこうしているうちに櫻の吹雪が俺を襲う。
「あかん!」俺は、とりあえず、櫓の方に逃げた。
バケモノの戦いに巻き込まれんよう必死に魔道具動かした。
また警告音が鳴る。
お願いだ!壊れないようにしてくれ!
そう、必死に願いながら移動する。
やっぱりこんな時魔術師だと楽やなって思った…。
チラリと逃げてきた方を見る。
恐ろしい業火の炎と凍てつく吹雪がぶつかり合っている。
また、爆風が俺を襲った。
「っ!バケモノかいな!」
そんな俺の悪態は、夏の日差しに溶けてゆく。
そうして、櫻たちの戦いで粉々に消え去ったのだ。
◇◇◇
私の放った氷嵐が簡単に炎に飲み込まれた。
攻撃を避けながらハサミを徳田さんに向ける。
素早く反応されて刀で防がれる。
「ーー煉獄。」徳田さんが炎を出してきた。
「ーー氷結。」その炎を私の氷魔法で消し去る。
一瞬で炎を水蒸気に変えた。
「体術が洗練されたな!櫻子君!」刀を胴に薙ぎ払いながら徳田さんが言ってくる。
「ヒロが鍛えてくれたのでね!」私はその攻撃を受け流しながらもハサミの刃先を大きく開いて徳田さんの胸を狙う。
紙一重でかわされる。
氷柱を撃ちこむ。
なおもかわされた。
徳田さんが刀を地面に突き立てたのが見えた。
轟音と共に地面が捲り上がる。
徳田さんを中心に大蛇のような炎がこちら目掛けて走ってくる。
「絶対零度。」私はその炎を白い世界へ変えていく。
凄まじい熱と冷気で山全体が揺れる。
徳田さんの熱で木々は燃え、岩が溶ける。
それを私の冷気で一瞬で凍らせる。溶けた岩が砕ける。
「天昭」
徳田さんが大和刀を天に掲げながら詠唱した。
天から何本もの業火が降り注ぐ。
「絶対零度。」
私は広範囲に魔法が広がるように両手を広げて魔力を込める。
炎と氷が絡み合い、巨大なエネルギーが暴走する。
地面が抉れ、岩盤が見えた。
それも砕け散る。
雪のように舞い散る氷の破片と、炎の嵐が空を覆う。
辺りに水蒸気が一気に立ち込める。
これはいいかもしれない……。
私は、風魔法で水蒸気を上空に一気に巻き上げた。
自分も急上昇する。酸素が薄くなる。ここがギリギリだな…。
「なんだ!櫻子君!敵前逃亡か!」徳田さんも追いかけてきた。
これから起こることも知らないで呑気なものだ。
私は氷嵐をそこいらに放つ。
「櫻子君全く当たらないぞ!血迷ったな!」徳田が笑いながらその攻撃をかわす。
よし!炎魔法を使ってないな…。あとは、うまくいくか…。
私は地上へと徳田さんを誘導した。
その間も氷魔法で攻撃する。
徳田さんはもう勝ちを確信しているのだろう。炎魔法を使わず刀だけで戦っている。
「降参したらどうだ!流石の櫻子君でも魔力の使いすぎだろう?」そう言われて気がついた。
全く魔力が減っていない。いや、減ってはいるが前より明らかに魔力量が多くなっている。
どういうことだ?
まぁ、後で研究するか…。もし、魔力量が増える技術がわかったら華族の中の魔力量コンプレックスが減るな。
木々が倒され、岩が砕け、地面が抉れた大地に足をつける。
徳田さんも同じく地面に足をつけた。
「追いかけっこはおしまいか?」徳田さんがニヤリと笑った。
「ええ、終わりですね。」私は上空を見た。
黒々とした雲が渦巻き始めた。
「魔法もいいですが、科学も素晴らしいものですよ。徳田さん。」そうしてにっこり笑い小首をかしげる。
雷鳴が轟いた。




