第六十一話 月食いの死神と魔道具の謎
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
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時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
豊富たちが動き出した。
櫻が魔法陣を動かす。映し出された映像には、豊富が槍を片手に走っている。
魔力を温存するために土地の魔素を借りながら走っているな。
紀州巡礼道の特訓が生きている。
豊富が一気に加速し、東軍の騎士団の胸に槍を突き立てた。
騎士団の身代わりの藁人形が燃え落ちる。
ニヤリと笑う豊富。
「おうおう、楽しそうやのう」そんな感想を口にする。
「随分と軍人らしくなったこと…。内乱の時には、落ち込んでいたんに」櫻がそんなことを言った。
「そうなん?」
「せやで、人を殺してもーたって。」冷めた目で櫻が話す。
「大事な戦力やから後方に引っ込まないよう慰めるの大変やったわ」
なんともないように話す櫻。俺はその綺麗な横顔を見る。
「………櫻。アンタ、恋泥棒だったやろ」
「はぁ?そんなんないわ。私は凍血の鬼姫なんて二つ名あって誰も近づかんかったわ」櫻がこちらを見て顔を歪ませながら話す。
「なんそれ。華族って厨二病なんかい?」
「っふ。ほんまやね」
そんな会話をしながら魔法陣に映し出された映像を見る。
豊富班と東軍の一個分隊が衝突している。
『っしゃ!これでヒロに一歩リードや!』そんなおちゃらけた声が聞こえてきた。
「何?なんの勝負してるの?」櫻がジド目でこちらを睨む。
「なんもないで」俺は誤魔化す。
「ほんまかいな。怪しい」櫻が睨む。
これはやばい。
「あ!なんかコウモリの調子悪から引っ込めるな」そう言ってコウモリを引き上げようとした。
「いや。そのままでいい。大丈夫だ。問題なく聞こえている」そう言って櫻が俺の首にハサミを突き立てた。
俺は、降参のポーズをとる。
お願いだ。豊富、余計なことだけは言うなや。
『ここを殲滅したら本部突進するからな!櫻子はんのエロい写真ゲットじゃ!』そんな豊富の声が聞こえた。
ギロリと櫻が睨む。
豊富ぃぃぃぃぃ!
「どういうことだ?」櫻が本気でキレてる。
「ほっほら、俺ら勝つの決まってるし、豊富さんもやる気になるやん」俺は誤魔化す。
「確かに……それに、そんな写真ないし。で、こっちが勝ったらどうなん?なんもないの?」櫻が素直にハサミを下す。
俺は、言えない。実は、自分の記憶を一部引き抜いてコレクションしていることを……。
見つからないようにしよう。
「櫻と小野兄弟のオリジナル軍服の仕立て代を払う事になってる」俺がそんな事を言う。
「え?豊富さん一人に?悪くない?」
「金は持っている人が使うもんや。それに櫻も冬馬達も今だと威力半減やで勿体無い」俺がそう説明する。
「そうなん?」
「まぁ、櫻のはまだ戦闘を見てへんけど思いっきり広範囲で氷魔法を使おうとするなら今のままだと力技なんやない?」俺が櫻の顔を見る。
驚く櫻。図星か。
そんな会話をしていたら轟がイヤホンから聞こえてきた。
「っ!なんや?」映像を見る。
土壁がせり出てその上に避雷針のように金属の棒が建てられてる。
その下を爽やかなイケメンが立っている。
明るめの茶髪に山吹色の瞳。ニコッと爽やかに笑っている。
背の高いアスリート体型の体。こいつもオリジナル軍服だ。刺繍がよく見えないが、土魔法と鉱物魔法の魔力増量だろうな。
「また、変わった神器やの。大鎌なんて」俺が櫻に話す。
櫻はなんとも言えない顔をしていた。
「豊富さんここで脱落やな」
「なんで?」
「死神が出てきた。伊能君はオロチの中でも大型ルーキーでね。勝ち目ないよ」
「危なくなったら助けるか?」俺が尋ねる。
「………ギリギリまで待とうか」櫻が意外なことを言った。
櫻も変わりつつあるな。仕事や役割を誰かに任せるなんて……。
魔法陣の映像を見る。
『月喰いの死神が出てきたか…』豊富が呟く。
また、えらい厨二病な二つ名やな。
「誰が決めてるん?この二つ名?」俺が気になることを尋ねた。
「いやぁ…。基本ご令嬢が社交会で隠語で使ってる感じやで。それより、戦闘を見なよ。集中して。」
それもそうだと思って集中する。
『紫電の鬼が私を知ってくれてるとは光栄ですね。』伊能が言う。
「あかん。集中できやん。なんやこの会話。」俺が顔を押さえて笑うのを堪える。
「………私らって相当痛いんやな」俺を見た櫻がそんなことを漏らす。
頑張ってモニターに目を向ける。
二つ名は兎も角、強いのは強いな…。
確かに……豊富が綺麗に戦ったら負けるな。
伊能が大鎌を下段に構える。
豊富は、突きの形で槍を構えている。
沈黙が二人を包む。
先に動いたのは、豊富だ。
豊富が地面を蹴ると伊能めがけて馬鹿正直に打ち込んだ。
あぁ〜あ。でも、昨日の腕相撲を考えると何かありそうやな。
大鎌に簡単に打ち返される槍。
槍の柄を翻しながら伊能の鳩尾を狙う豊富。
その柄を掴む伊能。
ニヤリと伊能が笑い、大鎌を振りかぶった。
目を細めた豊富が槍を返して、雷魔法を伊能に撃ち込む。
『なっ!』伊能が慌てて、手を離したが少し感電したようだ。
手に慌てて回復魔法をかけるのが見える。
「ほぉ〜やるやん」櫻が隣で感心していた。
その隙に豊富が雷魔法を使い間合いを詰め、槍を打ち込んだ。
豊富なりに魔法を開発しているな。
櫻や俺に触発されたのか?いい相乗効果や。
伊能が素早く反応して大鎌の刃で槍を抑える。
ギリギリと大鎌と槍が軋む。
ニヤリと伊能が笑ったら、大鎌の柄が外れて先からナイフが出てきた。
大鎌と分離した柄は鎖で繋がられてる。
一見、大鎌に見えたが、鎖鎌やったんか…。
柄の刃先が豊富の顔面を狙う。
素早く、反応した豊富が間合いをとって離れる。
豊富が認識阻害魔法と魔力制限をかけた。
伊能の目の前からいなくなる豊富。
『そんなことをしても無駄ですよ。』そう言いながら大鎌の柄を分裂させ、四方八方に大鎌を投げる。
豊富が潜伏しているところを的確に大鎌を撃ちつける伊能。
時折、見える豊富の顔に余裕がなくなりつつある。
「こいつもバケモノやな。こんな戦い方…流石、大和って感じや」俺が眉を顰めながら話す。
「そうなん?」櫻がそんな俺の呟きに反応した。
「あぁ、ステイツやアルビオンの奴らはどちらかっと言うと遠くからどちゃどちゃ魔法撃って接近戦は俺らみたいな戦闘員に任せる。でも、大和は接近戦もできる魔術師が多い。結果、俺らみたいな戦闘員はいらなくなった…その弊害が魔道具の進歩の停滞やろうな」そう分析する。
「それだけだと思うか?」櫻の目が光る。
櫻子姫様は鋭いでございます。
「………魔法が特権階級だけってのも大きいと思うで。俺の肌感覚だけど」
「と言うと?」
「魔道具使ったら、俺らも魔法を使えてまうやん。攻撃魔法。そうして、華族に一揆を起こしてみろや。それを恐れて魔道具を禁じたんやない?経子さんが言っておったわ」
「経子さん?」櫻の目がジド目をする。
「そんな顔するなや…。浪華の天神橋で古本屋やってる年齢不詳のオバはんや。斎宮古書店って」
「古書店!」櫻の目が輝いた。
「今度連れてったるわ」そう言うと櫻が嬉しそうにコクコクと頷く。
そんな仕草が小動物みたいだ。
俺は顔がニヤけるのを隠しながら豊富と伊能の戦闘を見る。
伊能の大鎌を雷魔法を応用した高速移動で何とかかわす豊富。
どちらも魔力消費が激しいのか余裕がなくなりつつある。
あとは、持久戦やな。
そんな時に豊富が動いた。
地面に思いっきり槍を突き立て雷魔法を伊能に撃ちつける。
雷を鉱物魔法で分散させる伊能。
その隙をついて豊富が槍を伊能の胸に突き刺した。
が………。
伊能の鎌も豊富の首を切り裂いた。
二人の藁人形が燃える。
「相打ちか。」
「ようやったほうちゃう?」
「そうやな。」
俺らはそんな会話をした。
どっさりと崩れ落ちる豊富。
『くそーーー!』地面を叩く豊富。
櫻が魔法陣を切った。
俺もコウモリを回収するためにこっちに向かわせた。
櫻がイヤホンを外して俺に渡してきた。
「さて、後輩に負けないように私たちも動こうか。」
「もちろんでございます。櫻子姫様」
そうして、俺らは動き出した。




