第五十九話 両片思いやん。二人とも
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
本日の演習は中止。
しかし、演習場で一晩野営して、翌日から本格演習と決まった。
櫻のいった通りだな。
天を仰ぐ、星が綺麗やな。
最近こんな風に空を見上げることが増えた気がした。
櫻がよく見上げているからな…。
言い換えられぬ思いが込み上げて蓋をする。
もっとグロい光景なんて知っているのにコンカフェババアが魔力を吸い出し始めたら胸の中の嫌悪感が渦巻いて吐き出しそうになった。
櫻に情けない姿見せてしまったな…。
頼りにならないって思われただろうか?
また、就職活動せんとあかんかな?
そんな事をぐるぐると考えながら適当な椅子に腰掛けながらタバコを吸った。
「田中、どないしたん?」そこに丸山さんが声をかけてきた。
「何もしてへんですよ。ぼぉ〜としていただけっす。」俺が答える。
「隣、かまん?」
「ええですよ。」
丸山さんがタバコを出してきた。
赤ラークだ。
ーーー憧れていた人が吸っていて…。
櫻のタバコもラークのメンソールだ。
そう言うことか、櫻がキスしたい相手は丸山さんか…。
初めから信用していたもんな。
「今日は、災難やったな。」丸山さんが声をかけてきた。
「大丈夫っすよ。良くあることなんですよね?華族の中では。」
言ってはいけないそう思う。せっかく良くしてくれてる相手なのに…。
でも、自分でもわからんぐらい胸の整理がつかん。
「……。今はないよ。それに櫻ちゃんはあんなことしたことない。豊富さんも。」静かに丸山さんが話す。
大人の対応が自分の胸を締め付ける。
丸山さんに八つ当たりしても仕方ない。わかってるのに…。
丸山さんが煙を吐く。
「田中。ありがとうな。」
「何にですか?」
「櫻ちゃんといてくれて。俺が戦場で再会した時には、もう心が死んでいた。」
「櫻のこと小さい頃から知っとるんですか?」俺が丸山さんの顔を見る。
「小学校の頃ぐらいまでは。親戚の小さな子よ。華族の世界は狭いから。」そう言ってタバコを吸う。
「ある日、櫻ちゃんが、男の子を連れて俺らのところにやって来てな。」
丸山さんの顔が険しくなる。
「“この子を逃して”って。聞いたら魔法塾と聞いていたのに魔力の高い子から魔力を強制的に吸わせる授業をしているとか…。尊術派が一掃される原因の出来事や。」
「え?櫻が初めておかしいって思ったんですか?他の子や、親は?」俺が疑問に思う事を話す。
「………。魔力量が高くなるからと目を瞑っていた。あの荊嬢の親もそれが原因で爵位を一つ落とした。」
「のう、田中。」そこで丸山さんが苦しそうに俺を見た。
「田中は、海外で生活していたやろ。櫻ちゃん連れて逃げてくれへんか?」
「はぁ?」俺が素っ頓狂な声を出す。
丸山さんが苦笑いした。
「いきなりすまん。忘れてくれや。櫻ちゃんの親の伊達さんはーー。」丸山さんがまたタバコを吸う。
丸山さんが何か話している。でも、話が頭に入ってこない。
何やねん。両片思いやん。櫻も丸山さんも。
「ヒロ!」そこにチャラついた声が聞こえた。
タオルを首にかけた豊富が俺に声をかる。
「シャワーの順番!次やで」そう言われたので俺はタバコの火を消して立ち上がった。
俺は、何も考えないようにシャワーを浴びる。
丸山さんならええか…。
櫻を大切にしてくれるやろうし…。
時々、神器の手入れで出入りの業者になればいい。
本来の形や。みんなが優しくて勘違いしていた。
胸の奥から熱いものが込み上げる。望んではいけないモノを望んでる。
俺は、お湯から水に変えて頭から被った。
馬鹿らしい。
死んだら同じなのに……。
そうして、シャワーを上がった。
「………豊富さん?」
シャワーを出ると豊富が俺のスマホをいじっていた。
パスロックを外そうと必死な豊富。
「わっ!ヒロ!もう上がったん?」豊富が話す。
「俺のスマホになんか用ですか?」
その言葉に冬馬が六法全書から顔を上げて話す。
「え?それ大夢さんのだったんですか?プライバシーの侵害ですよ?」司法を目指す若者らしい言葉を冬馬が投げる。
「返してくださいよ。」そう言って、自分のスマホを取り上げる。
「あぁ〜」ガックリと肩を落とす豊富。
「ヒロ……写真ないか?」ポツリと話す豊富。
「何のですか?」
「伊達先輩のに決まってるやろぉ!」
「はぁ?」
そこへ丸山さんが入ってきた。
「なんや?なんの騒ぎや?」冬馬に聞く丸山さん。
「豊富さんが櫻子さんの写真ないか大夢さんのスマホ勝手に見ていたんです。」冬馬が短く説明する。
「持っていたやん。綺麗なワンピース着ていたやつ」丸山さんが余計なことを話す。
「何それ!見たい!!」豊富が食いつく。
あかん…。あれは、流石に豊富には見せられん。
お前のプレゼントでデートしました。なんて、俺でも言えん。
「あれ、消しました。」そう咄嗟に嘘をつく。
「ほんまかぁ?」豊富が食い下がる。
「豊富さん、人の彼女の写真欲しいってタダは図々しいですわ。」丸山さんがニヤリと笑う。
「ここは勝負で決めないと」物凄い悪い顔で丸山さんが俺らを見てる。
「せやな!田中!腕相撲で勝負やぁ!」豊富が腕まくりしてテーブルに肘を乗せた。
「瞬殺やないですか。大夢さんの圧勝ですよ。」冬馬が冷静に突っ込む。
「身体強化魔法かけたらヒロなんかに負けやん!いや、俺は一枚でも多く伊達先輩の笑顔写真をもらう為に勝つ!」豊富が吠える。
はぁ?“ヒロなんかぁ”言ったな。
「そんなヒョロヒョロの腕で笑わせますねぇ。」そこで俺は髪の毛を乾かすのも忘れて腕まくりをした。
「ハンデですわ。俺は、身体強化しないで勝負しますね。」そう言って俺もテーブルに肘をつく。
「冬馬!記録係頼むわぁ!俺はレフリーやるわぁ!」丸山さんがノリノリでレフリーをしてくる。
「お前にとことん勝って可愛い伊達先輩の写真ゲットじゃ!ついでにエロいのもよこせ」豊富が煽る。
「俺が勝つから、豊富さんに櫻の写真は一枚も渡さんわ!」俺が言い返す。
「やっぱり、持ってるんやないですか。」冬馬が小さく突っ込む。
「よおし!お互いフェアプレーでいけよ。レディーゴー!」
豊富が力を入れてる。
まぁまぁやな。
俺はにやつきながらゆっくりゆっくり豊富の腕をテーブルにつけようとする。
「今や!」豊富が身体強化をして力を入れた。
一気にテーブルにつきそうになる俺の腕。
しかし、寸でのところで俺が耐えた。
そして、一気に力を入れて豊富の手をテーブルに叩きつける。
「勝者!田中!」丸山さんがジャッジする。
「おぉ〜!」冬馬が感心する。
「豊富さん、いい作戦やったですが、もう効きませんよ」俺がもう一度、テーブルに肘をつく。
「あれだけだと思うなやぁ。次こそ勝ってやるわ」豊富が俺の手を握る。
「二人とも頑張れー!」冬馬が心がない応援をする。
「よおし!二回戦やな!」
そうやって、男性テント側の夜は更けていった。
◇◇◇
女側テント。
テーブルにはお茶とお菓子…。
そして、ヒーラーの令嬢たち…。友香里ちゃんとゆっくりしようと思ったのに。
「櫻子様!本当にお美しくなりましたよね!」突然、黒髪ショートのヒーラーが声をかけて来た。
「そのよなことはございません。側仕えが居た頃の方が綺麗でした。」そう言ってお茶を飲む。
「でも、実際めっちゃ可愛くなりましたよ。」友香里ちゃんがお菓子を食べながら話す。
「やはり素敵な殿方と一緒だと違うんですね。魔術師にはあのように逞しいお方がいませんでしょ?」ボブの子が話してきた。
「そうそう、櫻子様と並ぶとナイトとプリンセスですわ。お伽話見たい。」ストレートロングの子が続く。
「櫻子さんも戦えますよ。」友香里ちゃんがつまんなそうにお茶を飲む。
「わたくしは公爵令嬢という肩書きが窮屈だっただけです。今が自由で気楽なだけです。」そんな言葉でみんなを納得させようとする。
「え、でも、今と変わらないじゃないですか。私、社交が苦手だから伝達者候補生してるんですもん。」友香里がソーサーにカップを置きながら話す。
「友香里様、わたくしもですわ。社交が苦手でございますよね。本当は、わたくしも戦闘員が良かったのですが…お父様が…。」
そんな言い方したら友香里ちゃんの親が気にかけてないみたいじゃないか。
この令嬢の“苦手”と友香里ちゃんの“苦手”は違う。
「友香里ちゃんの親御さんも気にかけていますわ。もしものことを思い、冬馬君と手を取り合って戦う術を幼き頃からお教えでした。そちらの親御さんとは違う気にかけ方ですね。」何とかその場をまとめる。
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そんな様子を見て友香里ちゃんが目で“わたくしは、大丈夫です。”と合図を送る。
目の前の3人の令嬢は気がついてないだろう。
そうして、3人からヒロとの関係を質問攻めにあった。
私は、演習に来てまで何をしているんだろう?




