第五十四話 わたくしのバディに用がおありで?
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
今日は一エピソードだけ更新です…。
演習場より少し離れた小高い山。
三条さんに連れられて太陽の君・花園天命主の前に謁見している。
太陽の君に向かって左側に関白の九条晴房様。
そして、右側に藤原昭正居る。
藤原が私を見た瞬間に平民がいるとは何事か?と苦言を言ったが九条様が諌めてくれた。
九条様も本日は緋色の軍服で白髪をきちんと後ろに撫でつけ、細身ながら背筋を真っ直ぐにし腰を下ろしている。
顔には深い皺は大和の内宮の潜っていた修羅場が刻まれているようだ。そして、目だけは老いを感じさせない光を持っている。
深紫の瞳はいつも穏やかで微笑んでいる。
それに比べて藤原は…。今日も高級な生地をたっぷりと使った狩衣だ。
烏帽子を頭にちょこんと乗せている。烏帽子の紐が顔の贅肉に埋もれている。
どっちが防衛大臣だか。
太陽の君も緋色の元帥服というのに…。
「櫻子。変わりないか?」太陽の君が私に話しかけてきた。
「はい、おかげさまで、いささかも変わりはございません。」私が平伏したまま発言する。
「朕と其方の中だ。そのように畏るな。面をあげよ。」
「お言葉に甘えて。」そうして、私は顔を上げて太陽の君を見る。
涼やかな目が、私を見据える。その非常に濃い黄金色の瞳に私が映る。
前は、それが嫌だった。全てを見透かされているようで。
しかし、今は違う。なんとも思わない。
そんな様子の私を見て、太陽の君は少し微笑む。
「どうやら良き仕事仲間に出会えたようだな。聞いておるぞ。」
「仕事は優秀な男です。」短く答える。
華族の噂の周り方は早い。
「しかし、忌守なんぞ。しかも魔道具なんぞで…。」豚みたいなおっさんからそんな声がぶつぶつ聞こえた。
よかった。三条さんと相談してヒロを連れて来なくて。
ヒロをこの豚に近づけなくて済んだ。
太陽の君が藤原をぎろりと睨む。
「藤原。品がない。大和にそのような身分はない。そして、身分は関係ない。」
一言そのように言うと藤原の喉が間抜けな音を立てて、失神してしまった。
ばたりと倒れる藤原。誰も助け起こさない。
驚いた。こんな風に威圧するなんて。
私は再度、太陽の君を見る。
濃い灰色、黒に近い髪を後ろに流し肩ほどに切り揃えている。
今年で60を超えるはずだが30半ばの見た目。
絵巻物で見るような公家の顔は端正な顔立ち。
一目で雅な人とわかる。
この人も父と一緒に戦場で戦っていたんだよな…。
父はどのような人だったのだろう?
今まで気にならなかったことがヒロと出会って気になるようになった。
ヒロにもたれかかって弱くなったかも…。
「櫻子、強くなったな。」太陽の君がおもむろに私に声をかけた。
「過分なお言葉をいただき、恐縮でございます。」私が建前上の言葉を使う。
「大切にすべきものができたか?」
「わたくしの環境の変化などなく。わたくしが大切にすべきは今も昔も大和の平和と繁栄でございます。」
「そのようには見えぬがな…。」ふふっと太陽の君が笑う。
何が言いたいんじゃ!
そんなこんなで謁見が終わった。なんか演習一日分疲れた。
◇◇◇
目の前の皇族は俺の言葉を必死にメモしている。
バインダーとノートを出したと思ったら質問攻めだ…。
「どのように付与魔法を与えるのだ?」
「職人によりますが、自分が得意なのは縁を結ぶことですね。縁の絡まりを読み解いて物質同士の縁を絡めます。」
「ほう!縁とな!だから、田中殿と櫻子殿は一緒にいるのだな?」
どういうことだ?俺が理解できなくて眉を顰めていると有栖川宮が続けた。
「櫻子殿の主神は菊理姫様だ。縁を整えて結ぶ女神。其方の魔道具の作り方と同じではないか。神の導きかもな。」そんな事を話してきた。
菊理姫様がどんな神様かは、知っている。
神器を手入れするときにホツマツタエで調べるから。
でも、そんなふうに思ったことはなかった。
「他には?どのように付与魔法を与える?」そう有栖川宮が尋ねてきた。
俺の思考が現実に戻った。少し助かった。
「後は、名前で縛りますね。呪を使います。俺も時々やりますが、反発することが多いので得意じゃないんです。大和の魔道具職人は基本この二種類の技法で作ります。後は、その応用です。」そんな会話をしていると俺の魔力探知の変な魔力がこちらに向かっているのがわかった。
「有栖川宮様。俺の後ろに。」そう言うと俺は、有栖川宮の前に出て小銃を構えた。
ガサガサと草をかき分けてくる音がする。
魔力の形が見えてきた。
5人?4人は神輿のようなものをかついている。その上に強大な魔力を持った何者かが乗っている。
「どうしたのだ?」有栖川宮が尋ねてきた。
「………不思議な魔力が近づいてきているのですが……神輿に乗っているようなんです。」俺が探知した事を話した。
「其方はすごいな!そんなことがわかるのか!私はわからん。」目の前のオタクが目を見開く。
当たり前や!生きてきた場所がちゃうわ!
そんな悪態を心の中でつく。
「でも、それは一ノ瀬の者だろう。小銃を下ろすといい。荊殿になんて言われるかわからんぞ。」そう呆れていう有栖川宮。
俺は素直の従う。
なんか有栖川宮の話ぶりで面倒な人が来そうなのがわかった。
逃げてええやろうか?
そろそろ肉眼で見えるやろう?
魔力の方を見るとタンクトップのマッチョが神輿をかつぎ、その上に女が座っていた。
ワインブラウンの重めのストレート、光が当たると赤みが強く出る。
髪色に緋色の軍帽がよく似合う。
真紅に近い赤茶の切れ長で美しい目。すっと通った鼻筋にぷっくりとした唇。
櫻とは違ったタイプの美人だな。
胸元が大胆にあいた軍服を着ている。
神輿が下ろされ女が立つ。
ミニスカートにガーターベルト、ロングブーツ。
軍人でしょうか?いいえ。コンカフェ嬢です。
そんな風貌の女が近づいてくる。
「ご機嫌麗しゅう。有栖川宮殿下。」そういうと西洋風の女性のお辞儀をした。
時々、櫻もやるけど櫻の方が品があるな。
「ご機嫌よう。荊殿。」有栖川宮が挨拶した。
「有栖川宮。そちらの従僕譲り受けれませんか?」女がそんな事を言ってきた。
はぁ?なんやねんこいつ?華族かいな?あ!華族か。このコンカフェ嬢。
「こちらの方は従僕ではない。それにその言い方は品性を疑うな。こちらの方は、田中大夢殿だ。私の友人で櫻子殿と組んでいる伝達者だ。」有栖川宮が話す。
どうやら、俺は質問を返しているうちに皇族と友人になったらしい。
「櫻子様ぁ、ってことはそいつは忌守なんですかぁ?」女が苦々しく話す。
「荊殿。今の大和にそのような身分はない。」短く有栖川宮が話す。
顔を顰めて。そんな表情を皇族がしてくれるのか…。
女がふぅと笑って有栖川宮を見る。
「殿下は、お若いですからね。まだ、魔法大学に在学中ですか。社会に出たらお分かりになりますわ。」そう言って腕を組む。
「こいつも忌守ですわ。」そう言って神輿をかついでいた男を一人蹴り上げる。
「あぁ!ありがとうございますぅ!」男が叫ぶ。
「こいつは任務中にたまたま見つけましたの。魔力も高いしいい体を持っているでしょう?だからスカウトしたの。」
男が地面にひれ伏した。それを女が踏み躙る。
男が恍惚な表情をしてる。
俺は、さぶいぼが出た。男のマゾは嫌いだ。
キッショ。
俺がなんとも言えない表情で男を見た。
「そこの忌守。ちゃんと給与を払ってあげるわ。」女がそんな事を言ってきた。
「はぁ?」俺から素っ頓狂な声がでた。
「櫻子はちゃんと給与を出してないでしょ?」不敵に女が笑った。
「いや、俺ちゃんと自分で稼いでいるんで。」何言ってるんやこの女。
「へぇ、私だったら月に35万札は出してあげるわよ?」女が勝ち誇ったように言う。
「そんな端金で何しようって?」華族という事を忘れて答えてしまった。
櫻との生活をそんな金で買われても嫌や。
そして、なんでも金で解決しようとしてるこいつの根性も嫌やった。
そう、櫻と離れるのが嫌じゃない。こいつの感性が嫌なんや。
そこへ、季節外れの雪が降ってきた。
雪崩のようなおっかない魔力が近づく。
その人物がゆっくりこちらに歩いてくるのがわかった。
肉眼で見えてきた。ウエーブがかった髪の毛をポニーテールにし、緋色の軍服姿の櫻。
「荊様、ご機嫌よう。」櫻が女に話す。
全然、機嫌が良くないが雰囲気でわかる。
「わたくしのバディに用がおありで?」にっこりと笑う櫻。
「あら、嫉妬?可愛らしい。ますます、その男欲しいわ。」女が櫻に言う。
ぶわりと吹雪が舞った。




