第五十二話 逞しくなったなぁ
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
五種類の温泉が楽しめる宿。
料理も紀州の味覚を堪能できる。畳敷きのロビー。そして、岩盤浴に漫画コーナー。
誘惑が多いのに頑張って特訓しているよ。三人とも…。
私は、第二源泉が使われている露天風呂に足をつけてゆっくりと肩まで浸かる。
天を仰ぐ星が降ってきそうだ。
透明な温泉はさらりとして気持ちいい、第四・第五源泉ほどガツンとくる魔素ではないので私はこっちの方が好きだ。
なんか…。こっちの方が生きているなぁ…。
自然と名前しか知らぬ両親に感謝する。
「櫻子さん♩」友香里ちゃんが声をかけてきた。
そう言って、温泉に入ってきた。
「一緒してええですか?」
「ええよ。」私が答える。
「櫻子さん、休んでます?」そんな質問が来た。
「休んでるで。こっちに来たのはゆっくりする目的やし。」
当初の目的を思い出す。
「でも、あんなマッチョな彼氏引き連れて妖退治してるって聞きますよぉ〜。」友香里ちゃんがまた冷やかしてきた。
「だから、彼氏ちゃうって…。そして、どうやら組織的に事件が引き起こされてるようや。」そう答える。
「それ、ほんまに言ってますか?」友香里ちゃんが目を丸くする。
「こんなくだらない嘘ついて何になるんよ。」
「もしかしたら、友香里ちゃんも冬馬君も早めに伝達者になるかもしれん。覚悟しておいた方がええ。」そう言い友香里ちゃんを見る。
「……。」無言の友香里ちゃん。
「友香里ちゃんはなるべく人を殺さんようにしい。」そんな言葉が出る。
「殺さないといけんですか?」友香里ちゃんが温泉のお湯をゆらゆらと手で揺らし波を作る。
「……自分が死にたくなかったら…。それか、今のうちに婚約者を作って結婚することやな。」私が選ばなかった道を提示してみる。
「それだと冬馬一人がしんどいじゃないですか…。私たちは二人で櫻子さんや豊富さんの魔力一人分なんですから…。」友香里ちゃんが水鉄砲を作って遊び始めた。
「無理に私らに並ばんでもええけどな。」
魔術師の魔力量コンプレックスどうにかならんかな?丸山さんぐらい切り替えれる人、少ないやなぁ…。
そんな話をしていたら隣が騒がしくなってきた。
「豊富さん!何やっとるんですか!」ヒロの声が聞こえた。
バシァァァッ!
水が勢いよくかかる音。
「豊富さんサイテーですよ。それに櫻子さんはともかく、友香里のを見てもチンチクリンなだけですわ。」そんな冬馬の声が聞こえた。
「誰がチンチクリンやねん!」友香里ちゃんが立ちあがり男湯に叫ぶ。
「そこにおるんやな!」そう言うと手を上に上げて音魔法を使った。
「ぎゃぁ!やめろ!友香里!耳がぁ!」冬馬がもがく声が聞こえる。
「これに懲りたらチンチクリンなんて言うんじゃないわ!」そう言って手をクッと握る。
「友香里ちゃん何をしたの?」私が尋ねる。
「櫻子さんが自分で魔力を生成できたらって言ったじゃないですか!やってみたら面白くて!お借りした本何回も読みました♩」そう言ってにっこり笑う。
「それで試してみたんです!特定の相手に不快な音の攻撃!」そうキラキラした顔で話してきた友香里ちゃん。
友香里ちゃんは、また楽しそうに手を握ったり開いたりしてる。
「友香里!もうええって!やめえや!」冬馬の叫び声が聞こえる。
「訂正しろぉ!チンチクリンって言ったことをぉ!」そうして、友香里ちゃんは片手だけではなく、両手を開いたり握ったりしてる。
「友香里!なんでわしもやねん!」豊富さんの声が聞こえてきた。
「魔法の練習です!」
「ヒロがおるやん!」
「どうやら罪を犯したのは冬馬と豊富さんのようなので!」そう言って両手を握ったり開いたりしてる。
そのたびに悶える男達の声。
………逞しくなったなぁ。
私は湯船に肩まで浸かりながら、友香里ちゃんを見る。
自分に何ができるかちゃんと考えているやん。
冬馬君も荒削りだけど形になりつつある。
豊富さんもあのヒロが夢中になるぐらい手合わせしたと言うことは何かを掴みつつあるんだろう。
あとは、連携やな…。どう、組織を動かすか……。
そんな事を頭の中で考えている。
「あ!」友香里ちゃんが手を引いた。
「友香里ちゃんもその辺にしい。こっちの男どもは俺がどうにかしておくから。」ヒロの静かな声が聞こえた。
なんで、いつものダメ狐が一番まともやねん。
「櫻子さん……魔力……返されました…。大夢さん丸腰ですよね?」友香里ちゃんが恐る恐る尋ねてきた。
「その魔力操作はヒロの土俵だよ。魔道具職人なんだから、私以上に上手に付与魔法が使えるんや。ヒロは。見たところ付与魔法の応用やろ?その魔法。」
「なんでわかるんですか!?櫻子さんも大夢さんも!」
「そうじゃなかったら生きていけなかったから。」そう言ってにぃと笑った。
空を見上げる。
満天の星の輝きが私たちを見てくすくす笑っているようだ。
「でも、友香里ちゃんたちも頼もしくなってきたわ。」
そんな言葉が自然と漏れる。
「ほんまにそう思ってます?」友香里ちゃんが不満そうだ。
「ほんまやって」そう言って湯船を出た。
◇◇◇
木々の擦れる音と俺のコンバットナイフと櫻のハサミが擦れる金属音が紀州巡礼道に響く。
豊富達の訓練に付き合っているから俺ら自身の訓練が後ろ倒しだ。
もう、深夜の12時を回っている。そこにちょこちょこ捜査。
宿代の払ってもらっておるけど家庭教師代が欲しいわ。
時間外労働すぎる。
アラームが鳴る。
「今日はこの辺にしておくか…。」俺が櫻に言った。
「そうやな。後は、この前ヒロに教えてもらった魔力を抑える方法やな…。長時間やると気持ち悪くなる…。」
櫻が傍に置いていた水筒を飲みながら話す。
「どんな感じなん?感覚的に。」俺も荷物のところまで行きペットボトルの飲み物を飲む。
「体の中に石ができてるみたいや…。丹田に魔力を押し込めてそれを小さくって理屈わわかるんやけどな。どうしても丹田の中に入りきらん。そう感じる…。」櫻がタオルで汗を拭う。
「じゃ、練習してみるか?あそこにおる、バレバレの三人組を使って。」そう言って俺は首をクッと8時の方向に向けた。
「なんで、私らの訓練盗み見ているんやろうな?見学なら堂々としたらええのに。櫻も呆れてる。」
「あれで、認識阻害魔法と魔力を抑えてるつもりなんや。」俺もタオルで汗を拭く。
「大学生二人はこれからとして、警ら伝達者であれか…。教育伝達者の私はかなり頑張っているのではないか?」そんな事を言って櫻が自画自賛しはじめた。
初めて会った頃に比べたら変わったわな。こっちの方がええけど。
そんな櫻の横顔を見る。
「なんや?ダメ狐!」
「なんもないわ!合法ロリババア」
「人の顔じろじろ見おって…。」寝不足で合法ロリババアの機嫌も悪い。
「とりあえず、魔力制御をして認識阻害魔法をするか…。」俺が提案する。
「せやな。」そう言うと櫻が魔力制御をした後に認識阻害魔法を使った。
俺も使う。
そうして、キョロキョロと辺りを見渡している三人の後ろに二人で回り込む。
俺と櫻が目を合わす。
そうして、お互いにぃと笑う。
櫻が友香里の肩をツンと触る。
友香里が触られてた肩を確認する。
そして、俺らの方を見る。
首を傾げる。
俺が、冬馬の後頭部を少しこずく。
(やめろよ!友香里!)
(冬馬もさっきからやめえや!)
二人が小競り合いをはじめた。
認識阻害魔法使っていても聞こえてまっせ!
(何してんねん。櫻子はんとヒロはどこや!)豊富がキョロキョロと辺りを見渡す。
櫻がさらに魔力制御をする。
櫻が友香里の髪の毛を撫でる。
髪の毛を触る友香里。
ガバッと豊富を見る。
(今触りましたよね!)友香里の認識阻害魔法が揺れる。
(触らへんよ。髪なんて…。胸やケツ触るわ)
豊富…お前もこっち側かいな。
そんな豊富の頭を俺が少し突く、しかも冬馬の目の前で。
これでわからなかったら、もうお手上げだ。
(やめろや!冬馬!)
(違います!僕じゃないです!勝手に揺れたじゃないですか!)冬馬の認識阻害魔法も揺れる。
俺らは顔を見合わせる。
【行こうか。】櫻の口が動いた。
そうして、小競り合いをしている三人組をおいて俺らは宿に帰る。
もう眠い。シャワーを浴びたら寝よう。
あぁ、櫻を抱けてない。久々にどちゃくそ抱きたいのに時間がない。
演習終わったら櫻が良いって言うならちょっと長めに付き合ってもらおう。
そう決めて紀州巡礼道の苔むした道を櫻と二人で歩いた。




