第四十七話 凍った過去と紅茶の湯気
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
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時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
「任務で仕方がなかったんすよ。」俺は両手をあげて降参のポーズをとる。
「任務でぇ?何があったか話したまえ。」三条さんの魔眼が光る。
俺は、神辺での任務のあらましを話した。
「だから…。少し、嫉妬してもうたのかなぁって。」俺は、テーラーに採寸されながらそんな感想を言う。
三条さんは顎に手を置きながら考え込んでる。
「田中君は櫻子君の戦闘を見たかね?」
「いえ。賊の女から逃げるのに必死でした。丸山さんなら知っているかもしれません。」
「丸山君に聞いたらえぇか…。その他気になることはないか…。」三条さんがこちらを見る。
これは、特にありませんって答えたら殺されるヤツや!
考えろ!俺!
「神辺から帰って来てからぼーっとしている事が多いですね…。」
三条さんの眉が上がる。
これだけじゃあかん。もっと何かなかったか?
「それと…。人を殺した時の話になりましたね…。」
「人を?」
「はい。戦場で人を殺す時どんな気分か?みたいな…。」
「田中君はどう答えた?」
あ…詰んだ。でも、正直に言わんと逆に怖いしな…。
「俺は…ゲーム感覚だと。ミッションをクリアしたら終わり。ゲームオーバーで死なないようにしているだけと…。」
「その時の櫻子君は…。」三条さんに威圧される。
俺の心の中に黒く激しい稲妻が全てを引き裂いていく。
隣で採寸していたテーラーが倒れ込む。
しかし、俺は倒れる訳にはいかない。
グッと堪える。
「……驚いて…いました。」なんとか絞り出すように話す。
俺の様子を見て、ふぅっと笑った。
威圧が収まる。
……何とか合格したのだろうか?
力が抜けて思わず膝をついてしまう。
「すまない。」そう三条さんに謝られ、手を差し伸べられる。
素直に手を握って起こしてもらう。
そして、ソファに促されたので腰を下ろす。
三条さんがベルを鳴らす。
お茶が運ばれて来た。
倒れたテーラーが揺り起こされ、一礼をすると退出していった。
「田中君は…櫻子君の過去について何か知っているか?」静かにそう切り出した。
「父親を討伐とだけ。以前、俺がつげ櫛を直した時に、父親からもらったと…。縁が切れてるけどそれだけは覚えている。その話だけです。」短く答えた。
その言葉を聞いて三条さんは静かに目を瞑り、天を仰いだ。
華族の公爵様らしくない姿だな。
「その…つげ櫛は…。尚人……。櫻子君の父親が本来の妻であった導子さんに贈った物だった。」そうして俺を見た。
その目は少し潤んでいた。
本来の妻…?
「導子さんは…。櫻子君が5歳になる時に…。一族の者に嵌められて“捧げ物”にされた…。」
それって…。他人の手によって“神のなりそこない”にさせられたってことやん。
一族は繁栄するが人柱が必要な儀式……。
“華族の方が野蛮だよ”そんな櫻子の言葉を思い出す。
「その後…。導子さんの姉を尚人は後妻に迎えたがな…。うまくいかなかった。」
「人との縁が薄い彼女の主神が菊理姫様とは皮肉なことだ…。」そう三条さんがまとめた。
何と思っていいのかわからない。
日々の生活で櫻が普通の公爵令嬢ではないのは薄々感じていたが…。
「そんな話されても…。櫻は櫻です。ただのバディです。」そう切り返す。
そう、ただのバディ兼セフレ。
それ以上でもそれ以下でもない。
三条さんはその言葉を聞いてまた楽しそうに目を細めた。
「せや!そのつげ櫛を直した代金を私が払おう!」そう言ってスーツの内ポケットから財布を出すと札束を俺に渡してきた。
「こんなに受け取れやんですよ!俺が出来ることをしただけです。」
「えぇやん。遠慮せんでええ。」
俺の手に握らされた札束。
「えぇやん。これで、平安京を少し見てきたらええ。……今からホテルでも取っておこうか?」
「いや!ホテルは取らんでええです!」
「そうか?ベッドは一つでええと思うたんやけどなぁ」
「いや!ベッドは一つであかんですよ!それに明日は俺の外向きの仕事があります。」
そう建前で言う。
この会話のトラップに引っ掛かったら殺される!
「ほんまかぁ?」
三条さんは、楽しそうに目を細める。
「ほな、水族館に行って来たらええ。せっかくなんやから。」
「……そうですね。櫻も落ち込んでますし。こんな俺が連れていくのも何ですが…。」
「田中君。櫻子君をよろしゅう頼むわ。」そう優しく言われた。
それが、余計に怖かった。
◇◇◇
三条家ブレンドの紅茶の良い香り、スリーティアーズには宝石のように美しいお菓子と一口サイズのサンドイッチが並ぶ。
白い湯気が、ほどけた絹のようにカップの縁らか立ちのぼってゆく。
私は、紅茶にしか手をつけない。
食べる気分がしない。
葵様が、私の目の前に座っている。
三条葵。兄の奏様とは違う柔らかな美しさを持つ女性。
プラチナブロンドの髪に陽だまりのようなブラウンの瞳。
兄ほど圧倒的な魔力はない。
けれど、その魔力は一般の魔術師からすれば十分すぎるほど強い。
「奏が言っていたのよ。櫻子ちゃんに彼氏が出来た。娘の結婚式が見れるって」そう葵さんが話す。
「だから、ヒロは彼氏じゃないです…。バディです…。」
最近、私の周りはこんなんばっかりだ。
男女ペアだとすぐにカップル認定してくる。ヒロとだがら悪い気しないけど。
くすくすと葵さんが上品に笑う。
「でも、櫻子ちゃんは気があるんでしょ?」
「………そう…です。」葵さんに隠し事しても無駄だ。
「まぁ!」葵さんの顔が向日葵のようにぱぁと明るくなる。
「でも、ヒロが嫌やと思います。」
「どうしてそう思うの?」
「多くは語ってくれませんが…。華族に嫌な思いをしたみたいです。ヒロは……忌守なので…。」
葵さんが悲しそうな顔をする。
「そんなことないと思いますよ。」静かに語る。
「そうですか…?」私が答える。
「えぇ、ほんまに櫻子ちゃんが嫌やったら一緒にお仕事できませんよ。」
「ヒロは、仕事は仕事って割り切れるヤツです…。最近、マナー訓練も仕事と割り切って励んでますし…。」
「割りっきて?」イタズラな目で葵さんがこちらを見る。
「わたくしの話より、葵さんの話が聞きたいです。妖を旦那様にしたとは本当ですか?」
「えぇ。本当よ。」そう涼やかに話す葵さん。
「その!周りに反発とかされませんでしたか?」
身分差で結婚して…。何が一番大変なのだろう?
「家の外の人たちは、それはもう大騒ぎしていたわ。うちの者は逆に“やっとか。”って感じでしたけど。」
葵さんの旦那さんの葛葉さんは妖狐だ。
葵さんと幼馴染でずっと葵さんの護衛として務めていた。
「あなた達を見ていると…。学生時代の私たちみたい。」ニヤリと葵さんが笑う。
「どういう意味ですか?」
「不器用で…。すべての関係を持っているのに“恋人”じゃないって言い張っている関係。」
ブラウンの瞳がこちらをイタズラに見て光る。
え?そこまで見抜かれてるん?
葵さんは、サトリか何かですか?
「わっわたくしとヒロにそのような関係はありませんっ!」
否定をする。多分、無理だけど。
「ふふっ。」葵さんが小さく笑う。
そんな会話をしていたら採寸を終えたヒロが帰ってきた。
そうして、三条家を後にした。
ヒロの緋色に戦闘服は演習までに間に合うらしい。
よかった。これでヒロもちょっとは華族に認められるかな?
……なんで私は、そんなことが嬉しいんだろう。




