第四十六話 凍血の鬼姫と追いつかない心
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
ーーーーー。
父親まで“なりそこない”になりおって…。
それに殺しすぎだ。
「凍血の鬼姫」
あの者の後には、死体しかない。
あんな野蛮なのが公爵令嬢とか…。大和の品格に関わる。
緋色の軍服を着て項垂れている自分を別の自分が見ているようだ。
俯いているその顔は心が凍っている。
誰かに話しかけられる。顔を作る。
淑女教育とはこの時の為にしていたのだな…。
お茶を飲みながら腹の探り合いをする授業が嫌いだったが役に立った…。
「すまない…。公爵位を剥奪されるかもしれない。……しかも、櫻子君だけ」そんな風に三条さんが話しかけてきた。
「構いません。」天命なら受けるしかない。
私はどこかでしくじってしまったらしい。
それよりも気になる事を三条さんに尋ねた。
「あとどれぐらい殺したら私は爵位を戻せますか?あと、殺せる場所はありますか?」自然と口角が上がった。
三条さんの顔が困惑し、目が揺れている。
なぜ、そんな顔するのだろう?
ーーーーーーー。
「櫻!」ヒロに肩を揺さぶられた。
私の目の前には、PCが開かれてる。
この前の神辺の捜査資料が開かれてる。
「ごめん。何の話だっけ?」私がヒロを見る。
「どうしたんよ?」ヒロが困惑する。
「どうもしないよ。」私はPCに目を戻す。
そうして、ヒロの顔を見る。
その切れ長の目に私が写っている。
最近の私だ…。
「ねぇ、ヒロ…。ヒロは人を殺した時どんなことを思った?」そんな質問をした。
自分でも変な質問だと思う。
「はぁ?いきなりなんよ?」
「…まぁ、何となく…。」
「………。せやなぁ。俺は、ゲームやな。」
「ゲーム?」そういやヒロは良く通信でサバイバルゲームもしている。
「そっ、俺が死なない為のゲーム。それに報酬が付いた感じ。」
「……?」私が小首をかしげる。
「だから何も思わんかったで。ゲームオーバーにならんかった。ただそれだけや。」そうサラッと言った。
「そっか。」
「櫻は?」
「私は…。」
【楽しかった。】
そんなこと言えない。
「狩かな。」代わりにそんなことを言う。
「自分が狩られないように狩返す。」
「俺と同じやん。俺なんてちょっと楽しいとまで思って戦場にいたし。」何ともないようにヒロが言った。
私は、驚いてヒロを見上げる。
「驚いたか?アンタを抱いている男は、こんな野蛮人で申し訳ないね。」
「違う。そこじゃなくて…。」
不意に私のスマホに着信が入る。
【三条 奏】と画面に表示された。
「はい。櫻子です。」
『田中君の軍服の件で、平安京に来る日程を決めたい。今、大丈夫か?』
「わかりました。」
そして、次のヒロの外向きの休みの日に平安京に行くことが決まった。
◇◇◇
最近の櫻はおかしい。
何を考えているのかぼぅと呆けている。
メンヘラも困るが、この無気力も困る。
任務の時には切り替えるが普段の生活がポンコツだ。
まぁ、仕事をしっかりやってくれてるからえぇけど。
そうして、俺らは古都・平安京に車を走らせた。
洛中から少し外れたところ、上賀茂の社の近くに車を停めて歩き出した。
明神川のせせらぎが、石畳の下をくぐるように流れてる。
クリーム色の低い塀が道の両脇に連なっている。
櫻が足を止めた。
塀の隅にドーマンの印が彫られている。
櫻がそこに魔力を流す。
空間が歪む。
中に入ると物凄く大きく立派な武家屋敷の門の前に来ていた。
予想はしていたけど…。想像以上の屋敷だ…。
櫻が、脇門に行き中に入ろうとする。
すると静かに表門が開く。
「櫻子姫様、お客人を脇門から通したら陛下に怒られます。どうぞ、こちらから…。」そう、言いながら初老の着流しを着た男性に声をかけられる。
「じいや…。私はもう公爵令嬢ではありません。」櫻が静かに話す。
俺は、そんなやり取りを見ながら脇門に進む。
俺こそ本来裏口の業者が出入りする入り口からや。
「田中様もこちらからどうぞ。」そんな俺の動きを見て側仕えに声をかけられた。
やっぱり、もう少しマナー訓練ちゃんとしよう。
しっかり、やらないと俺の首が飛ぶかもしれん…。
そうやって通された屋敷。
和洋折衷の典型的な華族の屋敷。
赤い絨毯の上を歩く。
俺は落ち着かない。
従者専用通路を使わせてくれ…。そっちなら親父の手伝いで何回か通ったことがある。
三条さんの執務室であろう、大きく立派な木製のドアを男性が叩く。
「旦那様、お客様をお連れしました。」
「入っていい。」入室の許可が降りた。
男性が静かにドアを開ける。
大きな窓を背に執務机に静かに書類を確認している三条さんが目に入る。
「よく来てくれたね。櫻子君、田中君。さぁ、中へ。」
櫻が中に入る。俺も腹を括って中に入った。
ソファに促されたので座る。
多分俺の人生で一番高級な椅子に座っている。
三条さんが櫻を見て眉を顰める。
次に俺を睨みつける。
違いますって!捜査の一環で!
それにアフターケアもちゃんとしましたよ!
そう、心の中で弁明する。
目を細める三条さん。
そうして切り出した。
「結果だけを言うわ。軍服の許可は下りんかった。」
よかった…。側仕えと同じ格好してよう…。
「おかしいやないですか!じゃ、私も軍服着ません!」櫻が眉間に皺を寄せて話す。
「櫻…えぇよ。そう思ってくれるだけでえぇ。櫻は緋色の軍服着なあよ。」そう声をかけた。
それは、本心だ。
櫻や三条さん、丸山さんが“華族が忌守を認めてくれた。”それだけでもう十分だ。
「しかし、私はただでは起きない人間や。緋色の戦闘服の着用は認めさせた。」ニヤリと三条さんが笑う。
えぇ、目立ちますやん。
でも、俺の為に動いてくれたしな…。
これほどまでに他人が自分の為に動いてくれたことがあっただろうか?
家族は確かに動いてくれた。でも、家族でもない。仕事仲間にこんなに気にかけてもらうのは初めての経験だ。
チラリと櫻を見る。
全部、櫻に出会ってからだな…。菊理姫様、おおきに。俺をこんなに認めてくれる環境においてくれて…。
「じゃ!私も緋色の戦闘服にします!私たちはバディなので!」櫻がむくれる。
「櫻は軍服でえぇやろ…。」そう声をかける。
「まぁまぁ、櫻子君は葵とアフタヌーンティーでも楽しみなぁ。田中君、こちらへ。採寸をしよう。」そう言って立ち上がる三条さん。
俺も素直に立ち上がる。
隣の部屋へ通されるや否や。
「田中君!何があったか話したまえ。」
三条さんが俺の胸ぐらを掴んで凄んできた。
だから…。任務中の事故なんですわ…。




