第三十話 神様は意地悪ですな。
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
内宮から外宮に出る。
駅前の商店街の一角にある、煉瓦造りの建物に「はたコーヒー」と書かれた看板のところに入る。
喫茶店の中は落ち着いた雰囲気でゆっくりジャズが流れている。
俺らは適当にテーブル席についた。
店主がコーヒーをハンドドリップしてる。
ここは、全席喫煙可だ。
テーブルの灰皿が輝いて見える。
俺らはコーヒーとモーニングを注文した。
櫻もタバコに火をつけて一服してる。
今は、化粧のせいか色っぽく見える。
店は、俺らの他に客がいるがまばらだ。
そこで、俺は少し意地悪をしたくなった。
「火くれへん?」
櫻がライターを出した。
「ちゃうよ。そっち。」
俺はタバコを咥えたまま、櫻のタバコへ顔を近づける。
2本のタバコの先が触れた。
櫻のタバコから火をもらう。
驚いて硬直する櫻。
一服すると櫻をニヤリと見る。
耳が赤くなってる。
しかし、すぐに顔が険しくなる。
「大夢くん。さっきのはなんだ?」
緊張してるな。ダメ狐の仕返しや。
「タバコの火もらっただけやで。」
俺は、タバコの煙を吐きながらなんともないように話す。
「人前ではやめたまえ。」
「じゃ、人がいないところならえぇん?」
「好きにしろ。」櫻が俺から視線を外す。
普通のキスがあかんのなら、シガーキスぐらい許せや…。
その後は、俺たちは会話をしない。
櫻は本を出して読みはじめた。
俺は、スマホ越しにそんな櫻を見る。
所作が美しい。
ページを捲る動作一つとっても洗練されている。
華族という事を思い出させる。
コーヒーとトーストが運ばれる。
「なぁ、せっかく神辺まで来たんや。少し遊んで行かへん。」
モーニングを食べながら提案する。
「そうだね。それにこの前のお礼してへんね。」櫻が静かに話す。
「お礼?」
「お父様のつげ櫛。直してくれたやん。」櫻が弱々しく言う。
少し慣れてきたようだ。方言が出てきた。
コーヒーを啜りながらその様子を見る。
先ほどの完璧な所作の女ではなく
ただの一人の女だ。
「別に礼なんていらんけどな…。俺は、俺のやれることしているだけやし。」
「そんなことないよ。大夢君はすごい。私はあんなに上手に付与魔法を与えられない。」
「櫻だってすごいやん。こんな小さな体でどちゃどちゃ魔法打って。今も魔法の勉強して、昔から鍛錬してきたんやろ?」
「まぁ、そういう家系だし。魔法は嫌いじゃないし…。」
「俺も同じや。魔道具を作るのが嫌いじゃなかっただけや。」
「………。」
「………。」
二人の中に沈黙が流れる。
「ステイツパークにでも行くか?行ったことある?」
櫻が首を横に振った。
出かける場所が決まった。
あそこは、ショッピングモールもあるから一日過ごせるやろう…。
ステイツパークに来た。
今日は、風が穏やかだ。
潮風が心地いい。
神辺タワーの周辺の公園を散策する。
公園には、家族連れやカップルがいる。
俺は、いつもより少し歩く速度を緩める。
今日の櫻はパンプスだ。
櫻がタワーを見上げる。
「結構小さいんだな。」
「古いタワーやしな。登るか?」
櫻が首を縦に振る。
俺らはチケットを買ってエレベーターに乗り込む。
タワーの中には、お土産や簡単な軽食屋が入っている。
ぐるりとタワーの中を回って展望デッキに上がる。
少し風が強い。
櫻が髪の毛を抑える。
「綺麗だね。」櫻が海や街並みを見渡して言う。
そんな櫻の横顔が綺麗だ。
俺は、スマホを出す。
櫻に気が付かれないよう写真を撮る。
スマホの中にいるその人は、モデルみたいやった。
雑誌の表紙やと言われても、俺は信じてまうやろうな。
父親を討ち、妖を血も涙もなく討伐する魔術師には、とても見えない。
俺は、写真をゴミ箱に入れようとした。
ためらい。
そのままにした。
「ねぇ。あれが七甲山?」櫻が尋ねてきた。
「せやで。」
「ラビリンスと亜人の里があるんだよね?行ってみたいな。」
「今日は、休みなんやしやめようや…。でも、夕日を見るのに行こうか?」
「うん。」櫻が笑って頷く。
ぎゅっと胸が締め付けられる。
その変化に俺は蓋をする。
神器持ち・魔力量が多い・元公爵令嬢。
他の華族が櫻を黙って見過ごすはずがない。
正妻がダメでも妾にしたい輩は沢山いるだろう。
事実、実家から櫻に釣書と写真が何回か送られているのを見た。
櫻はいつもそれを見もしないで燃やしている。
一度、元婚約者という奴が電話してきた。
その時の会話を思い出す。
ーーーーー。
「お前の魔力量と私の魔力量が違いすぎるから、お前の俺が将来を任せるハッピー魔力量が高いベイビーは生まれない。気色悪いから二度と連絡してくるな。あと、仕事上の連絡先を勝手に私用に使ったのを報告しておく。」
苦々しくそう言うとスマホの通話を切る櫻。
「なんか大変やな…。男の俺でも若干きしょいわ。」
女を子供を産む道具としか見てないのか?華族ってやつは?
「平正の大乱で華族の人数が減っているからな…。今は、お妾ラッシュよ。魔力量が高い庶民を無理やりって奴もいるみたいやで。」
「俺、合意の元の乱暴なセックスは好きやけど…。それは、なんかちゃうわ…。」
そんなのを戦場でいくらでも見てきた。
光のない女の目を思い出す。
そうして、胸の奥が気持ち悪くなった。
「華族の方が野蛮やで。」
そんなことを話した後に櫻がちょこんと俺の膝に乗ってきたことがある。
「どないしたんよ。」
「なんもない。」そう言って俺を見上げてふふんと笑った櫻。
ーーーーー。
最近の櫻は可愛くて困る。
菊理姫様は意地悪だと思った。
手を伸ばしても届かないものを目の前に置かんといてください。




