第二十六話 つげ櫛の紫の縁
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
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時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
お風呂上がり、いつものように髪の毛の手入れをしてる。
最近…。やばいかも。
ちょっと魔力操作がしづらい。
無理矢理、魔力を流し込んでいる時も多い。
つげ櫛で髪をすく。
バキン。
軽い音がした…。
恐る恐る手の中のつげ櫛を見る。
真っ二つになってる。
え…。
朧げに見える。
ーーーー。
緋色の軍服、差し出された手。
紫の風呂敷から出てきたつげ櫛。
「お父様!かたじけのうございます。」受け取る私。
ーーーーー。
ロッキーがやってくる。
「大丈夫でしゅ!」ロッキーの声が遠い。
つげ櫛の歯もかけてる。
髪を触る破片がある。
ロッキーがどこかに行った。
ハンカチを持ってきてくれた。
そこに丁寧につげ櫛を置いてくれる。
そして、私の髪の毛から破片をとってそっとハンカチに置いてくれた。
「櫻子!大丈夫でしゅからね!」ロッキーの手が赤く、水ぶくれができている。霜焼けになったようだ…。
私の髪を触っているからだ。
「ロッキー大丈夫…。手が霜焼けになってるよ…。君たちは、本当に優しいね。」
ロッキーの小さな手を治癒魔法で癒す。
「櫻子も優しいでしゅ!」
「そんなことないよ…。」
私は自分が殺してきた人数もわからない、それぐらい殺してきた。
「きっと大夢が直せましゅ!」
もう、いいよ…。
父の記憶は…。
自分にはないのだから…。
◇◇◇
目の前にあるハサミの要ネジを外す。
手入れしているからか最近の神器はなんだか生き生きしている。
初めに手入れした時の事を思い出す。
悲鳴をあげて、世界に絶望しているような。
助けを求めて手を伸ばそうにも、助けを呼ぶことも諦めている…。
何回か親父の依頼の手伝いで神器を扱った事あるが…。
あそこまで悲しい神器を触った事は、俺はなかった。
持ち主と神器はリンクしている。
その手入れを任された俺にも持ち主の気持ちや魔力がわかる。
櫻はどんな気持ちで人生を歩んできたのだろう?
菊理姫様はなんで櫻に神器を下賜したのだろう…。
あぁ、余計な事を考えるな…。
最近の俺の頭の中はうるさい。
ハサミを研ぐ。
「しかし、刃こぼれしやすいな…。」
ハサミから悲しみが流れてきた。何かあったか?
これは、神器というより、持ち主の問題のような気がするな…。
本人と話し合ってくるか…。
「ちょっと神器のことで相談あるんやけど、かまん?」そう言って櫻に声をかけた。
櫻は、机の上につげ櫛を置いて呆然としている。
「大丈夫でしゅ!きっと大夢が直してくれましゅ!」ロッキーが櫻を慰めている。
つげ櫛を見る。
真っ二つに割れている。
歯も何本か折れて欠けている。
「どないしたんよ?」俺が話しかける。
「大夢!これ直せないでしゅか?」
「あぁ?こんなの買い替えた方が早いで…。」俺が真っ二つのボロボロのつげ櫛を触ろうとする。
「……お父様が…。くれたの…。」櫻が呟く。
「最後に……。」
俺は、櫻の資料を思い出した。
『父が神のなりそこないに成り下がる。』
『その父親を討伐』
多分、その父と縁が一番深かったから討伐出来たのだろう。
全てを忘れたから出来たのだ。
「……忘れてるはずなのに…。これだけは覚えているの…。」櫻が呟く。
真っ二つのつげ櫛を見る。
半月型のつげ櫛には、桔梗の花が彫られている。
「貸してみぃ。」
ハンカチの上に乗せられた部品を丁寧に拾い上げる。
櫻が、不思議そうな顔をする。
そんな櫻を俺の工房まで手招く。
「……大夢君。いいんだ。いつまでも持っていたのもいけない…。」俯きがちに話す櫻。
西訛りじゃない。心を押し殺しているな…。
さっきの悲しみはこれか…。
「えぇって。やるだけの事やるだけや。」
俺は、自室の作業台につげ櫛を置く。
ゴーグルをすると魔力を込めてつげ櫛の縁を見る。
紫の美しい縁がつげ櫛に絡まっている。
その縁を一本一本解きながら整える。
つげ櫛が光り、欠けていた部分が少しずつ再生される。
「買い替えたらえぇって簡単に言ってすまん。」
「…?」
「綺麗な紫の縁で結ばれている。えぇつげ櫛や。直したる。」
櫻の顔は見ていない。
でも、静かに泣くそんな声が聞こえた気がした。
◇◇◇
ゴーグルをつけたヒロが魔力を込めている。
つげ櫛が淡く光る。
「綺麗な紫の縁で結ばれている。えぇつげ櫛や。直したる。」
え?切れてるはずだよ?
喉が震える。
涙が頬を伝う。
ヒロの後ろ姿が滲む。
「恋をしているような」高橋女史の言葉を思い出す。
お見通しだ。
誤魔化しきれない。
私を優しいと言ってくれるロッキー。
手を霜焼けになりながらも私のつげ櫛を拾ってくれた。
“えぇつげ櫛”と言ってくれ、修理してくれるヒロ。
あんなにボロボロのつげ櫛をこんなに繊細な魔力操作で直してくれてる。
菊理姫様。私の元にヒロを連れてきてくれて本当にかたじけのうございます。
神託の社で縁を結ぶ神器を選んでおけば良かったと…。
これほど思ったのは初めてでございます。
人との縁がこれほど大事とは思いませんでした。
この愚かな眷属をお許しくださいますか?
私の目からとめどなく涙が溢れる。
ロッキーが私の肩に乗って頬を擦り付けてくれる。
あったかいな。
私は、生きていて初めて心が安らかになった気がした。
泣いている顔を見られなくて顔を洗いに出る。
チラリとヒロの顔を見る。
真剣な眼差しがとても素敵に見えた。
ぽんぬ家
ぽんぬ「どうですか?これがぽんぬの作品名物・感情ジェットコースターですよ。」




