第二十三話 背中を預ける
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
月あかりすら届かない木々が鬱蒼とした旧道。
今は、誰も使わない廃トンネル。
今日は、魔力をそんなに消費しないだろうということで、空間移動魔法で紀伊から白崎町まで来ている。
俺は、目の前の光景を見つめる。
「だからね!お父さん!こんなところで酔って寝てないでね!霊世で飲みなぁよ。」
櫻が老人のゴーストを説得している。
「俺は、ここがえぇんや!ほっとき!」櫻が差し入れした酒を煽る老人。
「でもな、ここやと外宮の人間が怖がるんよ。」必死に西訛りで老人を説得する櫻。
最近は、だいぶナチュラルになってきてる…。
そして、目の前の光景はどう見ても天王寺で酔い潰れて寝ているおっさんを起こしている警官だ。
「そんなん、かおぷえモアぴp@t!」老人のゴーストの呂律が回らない。
アスファルトに突っ伏すゴースト。
クルッと櫻が俺の方を向く。
「大夢君、もう叩き斬っていいか?」
「えぇと思うで。」
櫻がハサミを振り上げ、ゴーストに突きつけようとした時…。
ゴーストの目が黒くなり、櫻の手を握る。
咄嗟のことで反応できない櫻。
俺が、ゴーストの腕を斬り払い櫻を抱き寄せる。
ゾロゾロと壁の中から現れるゴーストたち。
「厄介な数やな…。」
「いや。もう転読する。」
そう言うと櫻はマジックバックから経典を出して、それをアコーディオンのようにバラバラとしながら詠唱している。
ゴーストの顔の黒目に染まった瞳が元に戻り、涙を流す。
淡く輝き浄化され、霊世に導かれるゴースト。
ほんまなんでもできる奴やな。
そんな、櫻に壁から手が出てきた。
壁の手かっ!
俺は、壁に向かってハンドガンを向けて発砲する。
しかし、するすると壁に戻ってしまう。
本体はどこや?
俺は、魔力の揺らぎを探す。
ゴツゴツとした手彫りの壁を見る。
壁、天井、アスファルト…。
異変に気がついた櫻。
転読の手を止めてしまった。
「櫻!あかんやろ!」俺はハンドガンでゴーストを撃つ。
まだ、だいぶ数がいる。
「ヒロの魔力探知より、私の方が優れてる!壁の手は私が探す。」
そう言って、神器のハサミに魔力を込める。
目の前のゴーストを斬りつける。
しかし、人数が多い。
「あかんって!櫻は転読せい!その間に俺が壁の手を探す!」
俺もコンバットナイフでゴーストを斬りつける。
櫻を見る。
壁の手が櫻を掴もうとしている。
俺は櫻を引き寄せる。
襲っているゴースト。
「えぇから!俺に背中預けて転読せい!」
俺の胸にすっぽり収まっている櫻に向かって怒鳴る。
櫻が一瞬、少女の瞳になったように思う。
しかし、怪物の目で俺を見返すと
「わかった。背中は任せる。」
そう言って転読を再開した。
俺は、また壁の手を探す。
アスファルト。
下か。
地面に向かって発砲する音がトンネルにこだました。
◇◇◇
我々は、帰宅後換気扇の下でタバコを吸っている。
小さな折り畳み椅子を持ってきて二人並んでゆっくりと煙を吐く。
「っフー。しかし、今日は少し焦った。大夢君ありがとう。」
私が吐いた紫煙が目の前を白くする。
「っスー。思ったんやけど前衛と後衛決めた方がええな。」
ヒロがタバコの煙を吐きながら話す。
換気扇に煙がいくようにピッタリと座っているのでタバコを吸う息遣いまでわかる。
「では、大夢君が後衛だな。君のスナイピングはすごい。」私が灰を落としながら話す。
火をつけたばかりのタバコは灰を落としても長い。
もう少しこの距離で座ってられるな…。
「アホ。スナイピングは基本隠れてやるもんや。それより、魔法で大技かました時に隙が出来やすいやろ?ハサミで誤魔化しておるけどアレは魔術師にとって危険やで。っスー。」
そこで、ヒロがタバコを吸った。
驚いた…。魔術師の弱点を見抜くなんて…。
ヒロは間違いなく魔術師が一番戦いたくない戦士だ…。
「気がついていたのか?」
「あぁ、最初から。」なんともない様子でヒロがタバコの灰を落とした。
「私は戦闘や戦術では、大夢君に負ける。」
「俺も知識と魔力量では、櫻に負ける。」
そこでなんとなく見つめ合う。
ふっと笑ってしまう。
「では、私が後衛で大夢君が前衛だな。」
「あぁ、でも交渉は引き続き櫻にお願いするわ。」
ヒロはそう言ってタバコを咥えてっスーと煙を吸い込んだ。
「そうだな。」
私もタバコを咥える。
タバコが一本吸い終わってしまう。
灰を落とす。
私は灰皿にタバコを捨てた。
ヒロはまだ吸っている。
立ち上がる。
「なぁ、櫻。この後一緒に風呂入ってベッド行かん?」
「えぇよ。」
その意味を知らないぐらい私も鈍くない。
そして、体だけでも求められているのが少し嬉しいような…。
悲しいような…。
でも、仕方がない…。
なんだだか……菊理姫様は少し意地悪だと思った。




