第二十話 芽吹いていたもの
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日18時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
俺らは桃の名産地の畑の一角にいる。
月に照らされ、桃の木が風に吹かれて、かさりと揺れた。
白桃の甘い香りが漂う。
今日も真夜中に内宮の任務という仕事だけど明日は休みだ!っという社畜根性まっしぐらで働いている。
今回は、耕作放棄地に現れた泥田坊が桃農園を襲っているのでそれをこっそり退治する任務だ。
目の前には泥田坊の残骸がぐずぐずと土に還っている。
隣の櫻を見る泥を頭から被って項垂れている。
俺の戦闘服も泥だらけだ。
「お風呂…入りたい。」櫻がポツリと話す。
「せやな…。」
「でも、これだと車に乗れへんよね…。ちょっと待って。」
櫻は、そう言うと水魔法と火魔法を合わせてお湯を出す。
そうして、俺らは特に汚れたところを洗い流す。
服も風魔法である程度泥と埃を叩いたがまだまだ。
お互い、汚れた戦闘服を脱いだ。
櫻が黒のスカートとカッターシャツに着替えて、物陰から出てきた。
ホンマ…。高校生にしか見えやん。
俺は、座席にシートをかける。
風呂に入りたい。
でも、地味に家まで距離がある。
「櫻。すぐに風呂入りたいわな…。」
こくりと縦に首を振る櫻。
仕方ない。あそこに行くか。
俺は、道中にあるラブホに入る。
櫻が変な顔をしている。
「何もしやんよ。風呂入るだけや。」
そうして、中に入る。
櫻はこのような所が初めてなんだろう。
キョロキョロと辺りを見渡してる。
やめろよ!
今その格好の櫻を連れ込んだら俺が犯罪者みたいやないか!
いまだにタバコを買う時に年齢確認されてる、お前を連れてくると未成年連れ込んでるみたいだろう!
堂々としておけよ!
合法ロリババア!
マジックバックを持つと櫻の手をとって部屋に入る。
聞き馴染みのあるフリー素材のメロディ。
独特のアジアンテイストの部屋。
俺は、風呂に湯を貯めた。
櫻は呆然と立ち尽くしている。
俺は、そんな櫻を尻目にタバコを吸いながらアメニティのレンタル品をリモコンで操作している。
「櫻。シャンプーなんでもかまん?」
「慣れているんだな…。良く来るのか?」
はぁ?
「俺かて、久しぶりや。」
「そうなん?その彼女とかと。来ているのかなって…。」伏し目がちになる櫻。
「今の俺に女いると思うか?良くわからん女と同居して。休みの日も仕事で、金もない。」いつも手当が少ないから赤字なんに。
「ごめん。」
「なんで、櫻が謝るのよ。」
そこで部屋の電話が鳴った。
俺が受話器をとる。
「あの…お相手様がお若く見えるので…。身分証を確認してよろしいでしょうか…。」申し訳なさそうな相手の声。
「櫻。身分証出して。」
意味がわからなくて小首を傾げる櫻。
ラブホは未成年禁止なんよ!
順番にシャワーを浴びて二人でベッドに入る。
櫻が先にベッドに入っている。
何を考えているのか知らんが布団を握りしめて目を瞑っている。
俺はゆっくりベッドに入り、なるべく櫻を見ないように反対を向く。
スマホをいじりながら気を紛らわす。
「すまんな…。俺なんかと。でも今晩だけ我慢してくれや。」
「………。」何も言わない櫻。
「男とベッドに入るなんて、初めてじゃないやろ?」ため息まじりに話す。
「……ない。」
「はぁ?」そこで俺は後ろを振り向く。
布団をギュッと抱えて目を潤ませながら櫻がこっちを向いていた。
◇◇◇
大夢が運転してくれる車の助手席で私は、項垂れている。
……しくじった。
収穫間近の桃のことを気にして魔法ではなく、神器で切りつけたら反撃された…。
真夜中に泥だらけで桃畑の隅にいるって…。
虚しくなる。
以前は、こんな気持ちなかったのに。
最近の私は変だ。
空間移動魔法でこれば良かった。
そうしたら、早くにお風呂入れたし…。
隣で運転している大夢を見る。
チャコールグレーのTシャツに濃紺のジーンズを着てる。
普段、仕事用のつなぎか戦闘服、それか部屋着のスエットか黒のTシャツしか見たことない。
あ…。でも、何回か大夢の普段着見ているのか…。
チャコールグレーのTシャツから伸びている逞しい腕はハンドルを握っている。
なんで、意識しているんだろう…。
「…なんや?」
「なんもない。」
そんな会話をする。感情が揺れると方言がうつる。
もう、気にするのをやめた。
「櫻、今すぐに風呂に入りたいわな…。」
私は、縦に首を振った。
すると彼は、一つの建物に車を停める。
入り口にサンタの人形、場違いなカラフルな建物。
……えっ!ここって……。
「何もしやんよ。風呂に入るだけや。」
駐車場に着く。
大夢が車から降りた。
一緒に降りないとダメだよね?
彼がパネルを操作してる。
私は、周囲を見渡す。
チープな装飾が目に入る。
パネル操作が終わった大夢に手をひかれながら部屋に行く。
カチカチと番号が点滅しているドアがある。
中に入る。
慣れた手つきで大夢がマジックバックをソファに放り投げてリモコンを操作し始めた。
「櫻、シャンプーなんでもかまん?」タバコに火をつけて話してくる大夢。
「慣れているんだな……。良く来るのか?」
「俺かて、久しぶりや。」眉を顰めて話してきた。
「そうなん?その彼女とかと。来ているのかなって…。」
大夢君は、彼女とかいるのかな?
結構、経験豊富そうだし…。
「今の俺に女いると思うか?良くわからん女と同居して。休みの日も仕事で、金もない。」
憎々しげにこっちを見た。
私が伝達者登録申請を許可したからだ…。
「…ごめん。」
「何で櫻が謝るんよ。」
部屋の電話が鳴る。驚いて一瞬体が跳ねる。
大夢が電話を出て話す。
「櫻!身分証!」
このような所は本人確認が必要なのか?私が小首を傾げる。
「未成年に間違われてるんよ!早く身分証出せや。」
大夢がつまらなそうにタバコを吸って煙を吐いた。
交代にシャワーを浴びた。
先にシャワーを浴びた私はベッドに入り、布団を握る。
シャワーから上がった大夢がこちらに近づくのが魔力でわかる。
ぎゅっと目を瞑る。
大夢の体の重みでベッドが沈むのがわかった。
そっと目を開けた。
大夢は私とは反対方向を向いている。
その大きな背中を見つめる。
「すまんな。俺なんかと、でも今晩だけ我慢してくれや。」
ヒロとならいい。むしろ、嫌じゃない。
“ヒロ”
私は初めて誰かをあだ名で呼びたいと思った。
私の中に芽吹いていた“それ”を直視しないことはもうできない。
「男とベッドに入るなんて初めてじゃないやろ?」ため息まじりの声が聞こえる。
「……ない。」
「はぁ?」
ヒロがこっちを向いた。
その顔は、驚いている。
最近見慣れた。私の隣にいてくれる人。




