第42話: 試合その後
◆◆◆【アデル】
「満ちる緊張感! 会心の一撃! かと思えば、手に汗握る剣戟! 私、何度か天に召されました……!」
アデルは駐屯所の厨房で宴会料理を作りながら、騎士たちの活躍を何度も振り返っては語り、振り返っては語りを繰り返していた。
宴の会場である黒鷲隊の駐屯所には、はるばる遠征してきた紅竜隊と銀鹿隊も集っている。男たちの密度の高さが尋常でないだけでなく、どれだけ料理や酒を出してもあっという間に彼らの胃袋に消えてしまう恐ろしい宴なのだとグレゴは愚痴を溢していたが、アデルにとっては夢空間だった。
「王国騎士大集合! これは目に焼き付けないと!」
「目に焼き付ける暇があったら、目玉焼きでも焼いてくれーッ!」
グレゴはヤケクソ気味に鍋を振り続けている。
紅竜隊のシェフと銀鹿隊のコック率いる料理チームがいても食堂はてんやわんやだが、それでも誰もが笑顔だった。この場にいる全員は、騎士たちの健闘を料理で称えたいとして心を一つにしていた。
「これが同担……! 我ら、王国騎士団を推す者ということですね⁉」
「もうそういうことでいいからさ。はい、ローストビーフあがり!」
グレゴと合作し、目玉焼きとローストビーフのサンドイッチを大皿に盛っていく。
肉の断面は桃色が美しく、とろりと半熟に焼けた玉子の黄色は鮮やかだ。軽く焼いたパンの上にシャキシャキのレタスとそれらをのせると、食欲をそそる見た目が胃袋を刺激する。仕上げは異国から仕入れた黄金マスタードソース。酸味と甘みのバランスが絶妙で、アデルの最近のお気に入りだ。
食べた人を笑顔にしたい。
料理は「今日」という日を守ってくれた騎士たちへの感謝であり、彼らと「明日」を共に作りたいという意思表示――それがアデルの騎士団箱推しだった。
(一品一品が、騎士様たちの力になりますように――)
「アデルさん……!」
サンドイッチがしこたま盛られた皿にこっそりと祈りを込めていると、厨房にひょっこりと顔を出した騎士がいた。
「あら、レオさん! 主役が抜けていいんですか?」
「皆さん、かなり酔いが回ってきてますから。それに優勝した直後にエキシビションマッチでボロ負けした男ですよ? オレが主役だなんておこがましいですよ」
「それそれ。これはこれ、です」
レオは見事対抗試合の覇者となったのだが、その後、彼本人が望んだ非公式戦で圧倒的な負け方をした。
相手はユーリス。勝負は一瞬だった。
アデルが瞬きをした刹那、ユーリスは神速の勢いでレオの懐に飛び込み、剣の切っ先を喉元に突き付けていた。
今、思い出しても鳥肌が立つ。レオが連戦で疲弊していたとはいえ、あまりにもあっけない終戦だった。
「ユーリス様は強いですよ。剣に人生を注いで来られましたから」
「う~……、オレはそうはなりたくなくて……。でも、いつか絶対勝ちたいんですよ! オレ、そんなに物分かりよくないんで」
(レオさん、やっぱりユーリスとバチバチ……? バルドゥル団長争奪戦は波乱の予感ね……!)
アデルは悔しそうに唇を噛み締めるレオの肩をポンッと、励ますようにして叩いた。
「ユーリス様は推し活のプロです。めげないでください、レオさん!」
「なんか勘違いされてる気が……?」
「ま、気張れよ“小隊長”!」
とほほと肩を落とすレオを見て、グレゴが腹を抱えて大笑いした。
小隊長――。レオの黒鷲隊の小隊長への昇格は、先ほどバルドゥルから発表されたところだ。
「むず痒いです。オレが小隊長だなんて」
「立場は人を作ると言いますから、肩書きは大切にした方がいいですよ」
「なるほど……じゃあ、小隊長として、アデルさんに指令を出してもいいでしょうか?」
「あ、もしかしてお手紙の? 優勝したら2人になる時間がほしいという……。秘密のご相談ですか?」
アデルの脳裏にレオから渡された手紙が浮かんだ。
数週間前、レオが顔を真っ赤にしながら差し出してくれたそれは、意図が分からないままに自宅の祭壇に祭ってある。隣にあるユーリスのパンの感想文と並べて、推しの直筆文章というわけだ。
「はい。ちょっとお連れしたい場所がありまして」
「レオ、お前さん……!」
「大丈夫ですよ。負けたばかりのオレが、あの人を出し抜こうだなんて思ってません。ちょっと“面白いもの”を見に行くだけですから!」
グレゴが鍋を振る手を止めて怪訝そうな声を上げたが、レオはかまわずアデルの手を取った。
なんだろう? と、アデルは長いまつ毛を瞬かせた。




