第41話:新人対抗試合
そして迎えた、王国騎士団新人対抗試合。
前年度までは騎士団関係者と王族のみの観覧だったが、今大会はバルドゥルの働きかけにより、貴族や平民など分け隔てなく招き、盛大に執り行われた。会場となった王都の王立闘技場は、若い騎士たちの奮戦を楽しもうとする者たちで溢れ、祭りのような賑わいを見せた。
「民草の想いこそが、我らの力。アデル嬢の推し活を見ていたら、王国騎士団がより国民に近い存在であることが望ましいと思ってな」
バルドゥルの前向きな発言の裏では、ユーリスの「王国騎士団が民意を集めれば、バルドゥル様の権威がいっそう高まる」という政治的な目論見もあるらしいが、そんなことをレオは気にしてはいられなかった。
(ただ、勝つのみ……!)
客席にいる知人の声援が耳に滑り込んでくる。
同期や先輩騎士たち。バルドゥル。ユーリス。アデル。そして実家から遥々やってきた家族。
「頑張れ!」
その声に心の中で、「うん! 任せて」と応えられるほど、レオの心は不思議と凪のように穏やかだった。
期待されることに焦がれ、期待に押し潰されそうになっていた新人騎士は、もういない。
驚くほど体が軽く、イメージ通りの動きができた。
剣が体の一部のように馴染み、力が刃の先にまで乗っていた。
相手のどんな動きにも対応し、それを上回る攻撃に転じることができた。
(副団長とアデルさんのおかげだ。実践を想定した訓練と、きちんとした休息と、体を作る食事――それらがオレを引き上げてくれた!)
レオの鋼の長剣が、相手騎士の銀槍を火花を散らしながらいなす。
恵まれた体格に合わせ、長剣を得物にすることを提案してくれたのはユーリスだ。レオであれば片手で長剣を扱うことができ、リーチを活かした戦い方ができると断言した彼は、全体的な筋力アップのサポート食をアデルに依頼した。加えて、自ら槍を使って模擬線をしてくれた。もちろん、レオのオーバートレーニングを禁じた上で。
まるで、最終戦の相手が分かっていたかのような采配だった。
剣はリーチの長い槍に圧倒されがちだが、レオの捌く長剣はまったく遅れを取っていない。
それ以上に――。
(副団長に鍛えてもらったからかな。どの攻撃も、よく見える!)
長剣が陽光を受けて閃く。振り抜かれた刃は、乾いた音と共に銀槍を闘技場の彼方へと弾き飛ばした。
「優勝は黒鷲隊、レオ・マクレイ‼」
審判の声が会場に響くと、観客たちの熱を帯びた歓声がうねりを上げた。
割れんばかりの拍手に包まれながら、レオは試合が終わってようやくドクンドクンと脈打ち始めた心臓の音を聴いた。冷静であったつもりだが、実は緊張していたらしい。額からどっと汗が噴き出し、剣を鞘に収めた手はぶるぶると震えたまま、なかなか落ち着く様子はない。
けれど、これで今日は終わりだから――そう思い息を細く吐き出していたレオに、驚きの事態が起こった。
表彰式で、バルドゥルが「望む褒美を与える」と言ったのだ。
レオは思わず、「えっ」と上ずった声を出し、上官の顔を見つめ返した。
団長から褒美を貰える制度など、今までなかったことだ。
「なんでもいいのですか?」
「私の力でどうにかできる範囲ならな」
バルドゥルの権力は、限りなく大きいはずだ。彼は騎士団長であり、王の弟なのだから。
レオの視線は、無意識に黒鷲隊関係者の客席にいるアデルに注がれた。
アデルは「黒鷲隊優勝」と書かれた団扇を握りしめ、「おめでとうございます!」と笑顔で叫んでいた。それが自分だけに向けられているものだと思うと、レオの心は熱く燃えた。
(団長に望めば、もしかしてアデルさんと……)
いや。ダメだと、レオはすぐに己を叱咤した。
そんなやり方、フェアじゃない。正々堂々とあの人に勝たないと、自分は先に進むわけにはいかない――そう胸に刻みつけ、目線をアデルから移した相手は、銀髪の副団長。
「オレの望みは、ユーリス副団長との真剣勝負です!!」
闘技場の端で表彰式を見守っていたユーリスの目が大きく見開かれた。
「驚いた。まさかエキシビションマッチが下剋上試合とは」
言葉とは裏腹にバルドゥルの声は酷く落ち着いていたのだった。




