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第34話:タウンハウスの日常

執事視点の閑話休題回です。読み飛ばしても大丈夫です。

 ◆◆◆【執事ティル】



 アデルの王都暮らしを支えてくれているのは、侍女のターナと執事のティルだ。

 2人は双子であり、その相貌は瓜二つ。ココアブラウンの髪と、感情の出にくい冷めた目が印象的な若者たちで、実際周囲からは「何を考えているのか分からない」と言われることもままある。


 しかし双子の不思議な力とでも言うか。当人たちは目配せだけで互いの内心を読み取り、感情を無音で飛び交わせていた。


(はぁ……今日もアデルお嬢様の可憐さでパンが無限に食べれそう。寝ぐせで前髪がハート型みたいになるって、こんな奇跡ある? お嬢様、寝起きのヴィジュも優勝すぎ)


(分かるよ、姉貴。私はこの尊い瞬間を切り取って、コレット嬢にお見せしたくてたまらない。アデルお嬢様が照れながら、『見ちゃだめ!』と慌てられ、コレット嬢が『では今度、ナマで見せていただきましょうか』と余裕のご表情で煽ることをまで想像できた)


(勝手に想像するな、百合カプ厨。アデルお嬢様は特定の者に愛でられるような、小さな器ではないの。あらゆる存在から愛されていながらも、生涯の愛は誰にも誓わない。己の夢を貫く清らかなお姿が美しいのであって、カップリングは解釈違いよ)


(はぁ? 百合こそ人類の争いを沈め、幸福をもたらす最高のジャンルだ。姉貴は本当に分かってない。親の顔が見てみたいよ)


(気が合うわね。私もよ)


「ターナ、ティル。あなたたち、また2人で話してるでしょ。私を仲間外れにしないでほしいわっ」


 キュンキュンキュンキュンッッッッ。

 アデルが寝ぐせはまだ残ったままの頭でかわいらしく頬を膨らませたので、双子はその破壊力に揃ってよろけた。


「いえ、お嬢様にお話するほどの内容では……」


「はい。私どもの推し活について、ですので……」


「あぁ。例の『世界一可憐で優しい女の子』のこと? あなたたちが頑なに名前を教えてくれない人でしょ?」


 アデルはタウンハウスのキッチンに自ら立ち、朝食のベーコンエッグを焼いている。

 彼女は毎朝双子の分の朝食も作り、一緒にテーブルを囲む。これは双子がクレッセント伯爵家に奉公に来た日から10年続く習慣だ。


 元は下級貴族だった双子は家が没落し、その日を生きるための労働を両親から強いられていた。上にすでに長男がいたためにいっそう扱いが悪く、まともな食事も与えられない。そんな日々を送る中、両親はクレッセント伯爵家が「毒味係」を募集していることを知り、双子を口減らしに売り飛ばした――それが10年前。


 蓋を開けてみれば、「毒味係」の正体は「アデルの料理を食べる係」で、姉弟は真心のこもった食事にすっかり胃袋を掴まれて今に至る。



(時々食あたりすることもあったけど、今じゃあ、立派な料理人だもんな。真面目で努力家で前向きで、世界一可憐でお優しい……。これ以上推せるお方なんていない)


 ティルはフライパンを傾け、皿にベーコンエッグを移すアデルに柔らかい眼差しを注ぐ。


 白身はシルクのように滑らか、黄身は黄金色に輝いていて、色のコントラストが美しい。カリカリに焼けたベーコンは食欲をそそる燻製の香りを放ち、肉の凝縮された旨みを想像させてやまない。

 ちなみにアデルは半熟卵で塩コショウ、ティルは普通焼きにブラックペッパー、ターナは固焼き卵にチリペッパーがお好みだ。アデルは面倒くさがらず、食べる相手のために料理を作ってくれるのだ。


「推し活は自由に楽しむものよ。だけど、他人を否定しちゃダメ。考え方が違っても、誰かの幸せを願う気持ちの根っこは同じなんだから。推し活仲間とは、互いの活動を侵さない関係が理想と思うの」


(それ、コレット嬢のことですよね? よね??)


 コレット嬢みたいに婚約破棄して、コレット嬢とハッピーに遊び回りましょうよ、私が同行しますからと、ティルは心の奥底でため息を吐く。


 純真無垢なアデルと、面倒見のよいコレットの友情。ティルはそこに無限の味わいを見出しているのだが、アデルが王国騎士団の食堂で働き始めてからは、2人の時間がめっきり減ってしまっていた。


 その代わりに登場回数が爆増した人物が一人。

 アデルが「互いの活動を侵さない関係」として思い浮かべていたであろう真打は、毎朝彼女を迎えにやって来る。


 コンコンコンッと玄関のドアがノックされる音がして、ティルは不快感を寄せた眉に滲ませた。


(チッ。いつもより早いな…。今更、聖域……百合の間に挟まろうとするなんて不届きすぎる……!)


「おはよう。アデルを迎えに来た」


 侯爵家の嫡男で、王国騎士団副団長のユーリス・シュトラウル。

 星の色をした瞳が必死に家の奥のアデルを捜して動いている。その色を見て、ティルはアデルの髪を飾っていた金木犀の髪留めを思い出した。


「……ユーリス様、両目に眼帯を付けるご予定は?」


「君はいったい何を言っている?」




 今日も今日とて自衛の方法に悩む――そんな朝だった。


ターナはアデル単推しで、ティルはコレット×アデルの百合カプを愛する男です。

ユーリス(地雷)のことが気に食わない点だけは気の合う双子です。

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