第29話:城下町デート②
【続ユーリス】
(町デートだ!)
アデルと共に町に行く権利を得たのだと思うと、ユーリスの足取りも軽くなる。
貴族街を抜けると、王都を東西に分ける市場通りに辿り着く。鍛冶や服飾、工芸品といった職人の店や、食材や加工食品を扱う店、気軽に立ち寄れる軽食の露店など、様々な店舗が立ち並び、どこも活気で溢れていた。国の中心というだけあって、王国各地だけでなく、異国からの珍しい品も多数見受けられる。
女性が好む装飾品や小物の店もありそうで、ユーリスは金色の瞳を猛禽類のように大きく見開いて周辺を見渡した。
(いいプレゼントはないだろうか⁉)
「人が多いな。はぐれるなよ、アデル」
「その時は一人で駐屯所に戻るので平気ですよ」
「堂々と俺を置いていく宣言……?」
人の往来の激しい場所なので、手を繋ごう――ユーリスがそう提案する隙も与えず、アデルは両の拳をしっかりと握りしめ、ずんずんと市場を歩いて行く。来慣れているというのも本当らしく、本当にユーリスを置いていきそうな勢いだった。
精肉店にて。
「わぁ! 香辛羊のお肉! 騎士団の保存食にぴったり!」
青果店にて。
「なんてハリのある蒼月ベリー……狙撃部隊の視力アップにいいかも!」
金物屋にて。
「鉄のフライパンを新調したかったのよね。毎日の鉄分摂取に役立つはず!」
頭の中は、王国騎士団と彼らに振る舞う料理のことでいっぱいらしく、アデルは瞳を爛々と輝かせながら買い物を進めていく。両手が荷物でいっぱいだというのに動きは羽が生えているかのように軽く、次から次へと店を訪ねていく。
「待て! 俺が荷物を持つから、一旦止まってくれ!」
「あ、ユーリス様! すみません、楽しくてすっかり忘れてました……」
「わす……⁉」
「推し活につい夢中になってしまって。ユーリス様もありませんか? バルドゥル団長と一緒にいると、他事なんて頭から抜けてしまう……みたいな」
「ない! ……最近は!」
ユーリスが激しく否定するも、アデルは「ご謙遜を~」と口元に弧を描くばかり。いくら何を言おうとも、誤解がいっこうに解ける気配がない。どうやら、口ではなく態度で示す必要があるらしいぞと、ユーリスは「むぐぐ」と拳を握りしめた。
(よし! ならば、ビシッといいプレゼントを贈って――)
「では、帰りましょうか」
「なに⁉」
アデルがくるりと踵を返したので、ユーリスは全身が滑り落ちそうになってしまった。先ほどまでのわくわくとした空気感を一切失ったアデルの足は、すでに駐屯所の方角を向いている。帰る気満々だ。
「もう戻るのか⁉ せっかく町に来たんだ! 君は、何か欲しいものはないのか? たとえば新しいドレスなんか……」
「しばらくパーティやサロンに行く予定がないので、いりません」
「お、俺が誘うかもしれないだろう⁉」
「あははっ! ユーリス様って、ご冗談をおっしゃるんですね」
(ぐはッ!)
無垢な笑顔で笑い飛ばされ、ユーリスは顔面を殴打された心地になった。だが、簡単には引き下がるわけにはいかない。
「じゃあ、ゆ、指輪……とか。ほら、男除けにもなるし……!」
「料理の邪魔です」
「ならば香水は!?」
「料理人に香りものはご法度ですから」
「花はどうだ⁉」
「昨日、綺麗な食用花を買ったところなので」
(食べるやつ……? 分からない……アデルが好きなものを、俺は何も知らない……)
話がまったく色気のある方向に行かないどころか、食堂の中から飛び出しもしない。ユーリスは、あっという間に残弾切れとなってしまった。会話を切らさぬようにと口を開くが、自分の無知さを突きつけられて言葉が続かない。
「私のことはいいんです。ユーリス様こそ、お心のままにショッピングしてみてはいかがです?」
連れの困り果てた様子を見かねてか、アデルは諭すような口調になった。柔らかに細められる目に見つめられると、ユーリスの胸は意図せずトクンと音を立てた。
(そうか……アデルに欲しいものを尋ねるんじゃなくて、俺がアデルに贈りたいもの心に従って選べということか)
アデルのピンクブロンドを結わえる黒のリボンに抱いた嫉妬心と悔しさが、じくじくと胸に蘇る。
負けたくない。彼女をより美しく可憐に飾るのは自分でありたい。そう願った感情は、ユーリスだけのものだ。
「アクセサリーを…………」
「いいですね!」
赤らんだ顔で声を絞り出したユーリスを、アデルは親指をぐっと突き立てて褒める。選択が合格ということだろうか。
心のままにとは言われたものの、やはり彼女が喜ぶことが最優先だ。好きな物の中からい合いそうな品を選んでやれたらいいなと、ユーリスがそわそわと落ち着かない。
そして、アデルがおすすめの店に案内してくれたのだが――。
「ここならぴったりのアクセサリーが見つかるはずです。……なぜなら、推し活アイテム専門店だから!」
(なぜ……⁉)




