第28話:城下町デート①
◆◆◆【ユーリス】
(満身創痍とはこのことか)
結局また、アデルに料理の感想を伝えることができないまま、ユーリスは貴重な朝食時間を終えた。
おかげさまですっかり酒焼けした内臓は復活したが、アデルとグレゴの仲が良さそうな様を見せつけられ、別の胃痛が発生している。
あのリボンはなんなのだろう。黒字に金糸の刺繍が施された品で、高級品ではなさそうだが、アデルのピンクブロンドの美しさを上品に引き立てていた。グレゴからの親愛のプレゼントなのだろうか。
以前、サミュが言っていた。
「婚約者に贈り物はマストだ。好きな物を買ってあげたら喜ばれるよね……。え? プレゼントしたことがない? 誕生日は? 聖夜祭は? デート……は、ろくにしてないんだったね、コノ女泣かせの恋愛音痴ヤロウ」
かなり口汚く罵られた記憶が蘇り、ユーリスはこのままでは駄目だと自らを叱咤した。
(俺は変わるんだ! 俺だって、アデルにプレゼントの一つや二つくらい!)
メラメラと闘志を燃やし、爆速で事務仕事を終わらせると、ユーリスは再び食堂へと繰り出したのだった。
「アデル、どこへ行く⁉」
「どこって……町に買い出しですけど?」
ハァハァ……と、肩で大きく息をするユーリスをアデルは不思議そうな目で見つめ返す。
込み合うランチタイムでは、新人騎士たちに揉まれてまともに話しかけることすら叶わず、ユーリスがようやくアデルに接触できたのは駐屯所の外だった。
「一人でか?」
「これが案外大丈夫なんですよ。重たい食材は、契約農家さんや商人さんから届くようにしましたから」
「いや、荷物が多い重いという話じゃない。貴族令嬢が護衛を付けずに一人歩きしているのが問題なんだ!」
(危ないことに巻き込まれかねない。アデルはこんなに可愛いのだから……!)
照れで本音が喉で詰まってしまったユーリスの言葉を聞いたアデルは、「そうはおっしゃいますけど」と不満そうに唇を尖らせた。
「私、以前からよく一人で行動してますよ? ユーリス様に差し入れを持って行っていた時もそうでしたし」
「ぐ……、そうかもしれんが、今は……」
「それに『バルドゥル団長の守るこの町ほど、安全な町はない』と、おっしゃっていたのはユーリス様です。王国騎士団がいるからこそ、女性でものびのびと一人歩きができる……! あぁ、なんて素晴らしい……! 王国騎士団に感謝を……!」
「~~~~ッ!」
ユーリスはアデルの新緑色の瞳の輝きに目を開けていられない。
たしかに王国騎士団、とりわけ王都を守る黒鷲隊の働きと抑止力には目を見張るものがあり、ユーリスもそのことを誇っている。けれど、それと婚約者としての感情は別物だ。
「俺も行く! 今日だけでなく、これからも」
「えぇっ? 毎回お呼び立てするなんてできませんよぅ。ユーリス様にはバルドゥル団長をお支えするという、尊い推し活があるじゃないですか!」
「俺は君の婚約者だぞ? 優先して当然――」
「あーあー聞こえません!」
アデルは突然両耳を手で覆い、声を上げながらぎゅっと目をつぶった。
駐屯所の入口付近にいた騎士たちに奇異なる視線を向けられ、ユーリスは思わずおろおろしてしまう。ユーリスがアデルをいじめたかのように見えている気がしてたまらない。
「アデル、皆が見て……」
「解釈違いです。ユーリス副団長はそんなと絶対に言いません! 婚約者<<<<<<バルドゥル団長ですから! そうやって騎士団は円滑に回っているんです!」
いや、そんなことはない。
ユーリスがそう言っても、耳を塞ぐアデルには届いていない様子だった。ふんすふんすと鼻息荒く歩き出した彼女をユーリスは慌てて追いかける。
「おいおい! 俺はいつもバルドゥル様にべったりなわけじゃなくて……」
「何をおっしゃいますか。あなたはあの方のおそばでこそ、眩く輝く存在なのです!」
「ぐッ」
地味に傷つく。バルドゥルのそばにいない自分に輝きはないというのかと、ユーリスは抉られた胸を押さえながらよろめいた。
「ま……待ってくれ! 俺が君の外出に同行するのは、バルドゥル団長の命令なんだ!」
「え? 団長命令?」
苦し紛れにこちらもバルドゥルの名を出すと、アデルはぴたりと足を止めた。彼女が振り返るとリボンで結われた髪も一緒に揺れ、ふわりと石鹸の香りがした。
「そうだ。料理人は王国騎士団の一員。仲間に負担をかけ過ぎるなという配慮だ、うん!」
「団長のご指示なら仕方ありませんね。次はぜひ、グレゴ料理長の買い物にも同行して差し上げてくださいね」
「あ……あぁ……」
ユーリスは苦笑いを浮かべながら、心の中でバルドゥルに詫び、婚約者に好意を受け取ってもらえない無力さを嘆いたのだった。




