第27話:砲弾柿のポタージュ
【ユーリス】
ユーリスはアデルと朝食を摂れることに浮かれた。食堂のカウンター席に腰掛けたが、正直そわそわが止まらない。
けれど、アデルはまったく気が付かない様子だった。
「ユーリス様、昨日はかなりお酒を飲まれたのでは? お顔が白いですし、目にも充血が見られます。楽しかったのですね、歓迎会」
アデルはやや歪な形の朱色のスープボウルを保冷庫から取り出し、ご機嫌に調理台に並べている。まさか、ユーリスが自業自得の悲恋でやけ酒をし、泣いていたとは微塵も思っていない様子である。
「お酒は飲み過ぎると体内に湿熱が溜まり、体の毒になります。この《砲弾柿のポタージュ》は、そんな症状をじんわり回復させてくれる特製スープなんですよ!」
「ほうだんがき?」
「北の辺境の名産品です。皮が砲弾のように重くて固く、頭の上に降って来たら“死”確定……という柿で」
「物騒すぎないか?」
「ですが、中身はとろとろで甘いんです! せっかくなので、綺麗にくり抜いて外身を器に……って、すみません、無駄話を。『食べれたら何でもいいから早く飯をくれ』って感じですよね」
(それは、俺の真似なのか?)
楽しそうに料理語りをしていたというのに、最後は声を低くして眉根を寄せたアデル。冗談めいた口調ではあったが、鏡を突きつけられたような気持ちになったユーリスの胸は、酷く締め付けられた。
(アデルが黙って淡々と食事の支度を進めているのは、今までの俺のせいだ。俺が彼女を肯定してこなかったから……)
「俺は『何でもいい』なんて思ってない! アデルがどんな想いで料理を作ってくれているのか……これからはもっと知りたい!」
カウンターに身を乗り出し、ユーリスは力強く告げた。
自分にとってアデルが『特別』であることを知ってほしかった。生まれ変わろうとしている自分を見てほしかった。
アデルはオープンキッチンの中で、丸い瞳をいつもよりも丸くして、パチパチと目を瞬かせていた。
「ユーリス様……」
ほんのりと薄桃色に染まった頬をアデルは両手で挟み、喜色の滲むうっとりとした声を漏らす。
ユーリスとアデルはしばし無言で見つめ合い――。
「いやぁ~、二日酔いメニューが体に沁みるねぇ! おじさん、生き返っちゃう!」
カウンターテーブルの真ん中で、グレゴが美味そうにスープをすすっている。
彼の左隣にいるアデルが「グレゴさん、めちゃくちゃ飲んでましたもんね!」と朗らかに笑う。グレゴの右隣でがっくりと肩を落としているユーリスに気づく様子はない。
(料理長……いたのかぁ……ッ)
まぁ、そりゃあいるか。料理長だから。
このスープだって、ユーリス個人のためではなく、騎士団員みんなの肝臓を労わるために作られたものに違いない。
膨らんだ期待が箱推しの箱でぺしゃんこになるまでボコボコに殴打された気分になり、ユーリスは「ぐぬぬ」と低く呻いた。
砲弾柿のゴツゴツとした器を満たす琥珀色のスープにちぎったバゲットを沈める。湯気とともに立ち上る甘い香りは、落ち込むユーリスを包み込むかのように深く優しい。ぽってりとした雫を口に入れれば、その温かな甘みと温度が空っぽの胃へと滑り落ち、じんわりと内側から熱を広げてくれた。
(なんだかほっこりする……美味し――)
「美味しいなぁ! さっすがアデル嬢ちゃん! あ、っていうか、そのリボン! 似合ってるよ~。使ってくれてありがとねぇ」
「!!??」
グレゴの何気ない台詞が、ユーリスの脳天に轟雷を落とした。
敵は騎士だけにあらず。
気軽に料理の感想を述べ、さりげなく容姿を褒め、いつの間にかプレゼントまで。
(料理長まで、俺の“推し抜け”を阻むというのかーーーッ!?)




