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地獄世界のヘルヴェルト  作者: 生獣屋 芽怠
第一章 優しい非日常
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異常事態

 流れる様に景色が過ぎて行く。ギリギリと何かで締め付けられる様な痛みが胸の奥で発生していた。この痛みは恐怖なのか、はたまた疑心なのか。

 大切な人が居なくなった。

 嫌、本当にその人は存在したのだろうか。俺は今まで幻を見ていたのか?

 そんな馬鹿な、違う! 皆川真は確かにいたんだ。今だって彼女の事を覚えてるじゃないか。でも……。


 顔が思い出せないのは何故だ?


 訳が分からない。頭の中がグチャグチャで、何も考えられなくなり行く宛も無く彼女の家を飛び出していた。全速力で走る。俺は何がしたい? 走って何が変わる? 分からないままただ走っていた。まるで現実を受け入れたくなくて逃げているみたいに。

 息が荒くなり始め、全身から汗が雨でずぶ濡れになったかの様に服が湿る。

 どれだけ走ったろうか。息が切れる、もう走れない。電柱に手をかけ息を整えた、汗が全身から噴出す。額から流れてくる汗がちょうど良く目に伝ってまるで涙の様に目からこぼれた。


「くそ……何がなんだか……」


「あれ? 佐波くんじゃない?」


 後ろから突然の声へ振り向く。女が立っていた。俺はその人を知っていた。学校で同じクラスの女子でまこちゃんの親友だ、名前を野口愛花(のぐちあいか)、彼女は不思議そうに俺を見ている。


「……野口か、どうしたんだこんなところで」


「あのね、どうしたんだって言うのは私のセリフなんだけど? 全身汗まみれで、一応心配してるんだけど?」


「そうだよな。済まないな……な、なぁ、突然なんだが……皆川真って奴を知ってるか?」


「え? ミナガワマコト? 誰その人。友達?」


 彼女もまこちゃんを覚えて無いのか、まこちゃんと野口は一番の親友で仲が良かったはずなのに。その彼女がまこちゃんを覚えて無いって事は、本当に皆川真なんていなかったって言うのかよ。


「佐波くん? あなた本当に大丈夫? 顔色がどんどん悪くなって行くわよ?」


「だ、大丈夫だ。ちょっと目眩がするだけだ。こんなの直ぐに治る。心配させたな……野口、お前はこれからどこに行くんだ?」


 とにかく話を変えよう、まこちゃんがいないって言われたくない。


「気になる~? 実はね、今から人を殺そうとしてるの! ナイフとかで、お腹を裂いて内蔵を取り出して……」


「は?」


「あはは! 何真顔になってるのよ! 冗談に決まってるでしょ? 佐波くんって意外に怖がり? 私はこれから彼氏のところに行くだけよ? ふふ、佐波くんの今の顔おかしかったな~、あはは!」


 からかわれたか。笑いながら彼女は去って行った。

 そんな事より本当に誰も覚えて無いのか? くそ、訳が分からない。


「ルベスーー! いないのかぁ! ルベスーー!」


 大声でルベスを呼ぶが返事が無い。いつもあいつは神出鬼没だ、こんな時に近くにいないなんて。

 とにかくまこちゃんを知っていたはずの人達に手当たり次第に彼女の事を訊いて行くんだ、まだ信じて無い、まこちゃんがいないなんて。

 ずっと走り回りまこちゃんを知っていたはずの人達に彼女の事を尋ねた。

 だが、反ってくる答えはみんな同じだった。


 皆川真って誰?


 どうして覚えて無い、何故だ、何故なんだ。

 もう空は黒一色に染まり三日月が俺をあざ笑っている口に見えてうっとうしい。

 俺はある公園のベンチで力無く座り、空を眺めていた。ここは初めてまこちゃんと会った場所だ。小さい頃の記憶が今だって覚えているのに……。

 思い出の中にいるまこちゃんの顔は消しゴムで消されたかの様に真っ白で曇っている。顔を思い出せないなんて。


「ちくしょう、ちくしょう……何で誰も覚えて無い……何で……顔を思い出せないんだぁ!」


 拳をそのままベンチに叩き付ける。鈍い音が公園に響く。どうしようも無い苛立ちを拳に乗せたのだが、こんな事をしたって状況は変わらない。


「まこちゃん……まこと」


 視線をずっと下に。立ち上がる気力すら無い。このまま朝になっても良いとさえ思えていた。

 そんな時ふと気がついた、月明りで周りは明るく、ちょうど目の前の地面に影がある。俺の影とは別にもう一つ単体で影が。だが、影だけがぽつんとあるのだが、それを影たらしめているものが見当たらない。

 まさか、空か?

 そう思い空を見上げる。すると何かが浮いていた。それがゆっくりと近付いて来る。


「にゅ~、やっとみつけたぁ!」


 空に、三日月を背にそこにいたのは地獄世界の姫君。背中からコウモリの様な漆黒の翼を広げたネリスが舞い降りた。

 漆黒だが、天使と思えるほど美しい景色だった。


「さがしたよおにいたん! わたちいっぱい、いっぱいニンゲンカイをさがしたんだよぉ?」


「……ずっと探してくれてたのか?」


「うん! おにいたんだいじょうぶだよ! きっとおかあさまがなんとかしてくれるよ!」


 月明りで分からなかったが良くネリスを見ると、目が赤くなっていた。どうやら泣きながら探していたみたいだ。

 俺は何をやっているんだ、ネリスは初めて人間界に来たんだ、知っている人間は俺しかいない。いきなりいなくなったら心細くて泣き出すのは当たり前だ。ネリスはまだ子供なんだから。

 自分の事だけでネリスを考えて無かったんだ。


「ごめんネリス、一人にしてごめん」


 優しく頭を撫でてやる。


「にゅ……もういいよ。だってあえたんだもん」


 今俺の周りで何が起きているのか分からない。何故まこちゃんがいなくなったのか、それに何で顔を思い出せないのか。

 分からない事ばかりだ。だが、もしかしたらスミスやルベスが何かを知っているかもしれない。今は帰るしかない、あいつらが、もしかしたら部屋に来ているかもしれない。


「……帰るか、ネリス」


「うん。かえろ~」


 夜道を二人で並んで歩く。いつも見慣れた道なのにどうしてだろう、別の世界みたいに見えてしまう。

 それはまこちゃんがいないからなのか。それとも本当に違う世界だからなのか。


「おにいたん、だいじょうぶ?」


「え? あ、ああ、大丈夫だ。大丈夫……」


 自分に言い聞かせる様に繰り返し呟く。

 くそ、せめて何が起きているのかが分かっていれば対処法があるはずなのに。

 マンションまでの道がやたらと長く感じてしまう。ここから辺なら近いのだが。そうだな、今の心境は心が欠けた様な、ぽっかりと穴が開いた様な。

 そんなむなしい心。


「あれ~? おにいたんのへや、あかりがついてるよ?」


「何?」


 マンションを見上げると人が住んでいないはずの一室から光が漏れている。それは俺の部屋からだ、出て行く時は電気は切ったはず。


「まさか、ルベスかスミスが来たのか?」


「おかあさまかなぁ! はやくいこうよ!」


 そうだ。早く行って誰がいるのかを確認するんだ。一気に駆け抜ける、こんな時は十階建てが憎らしい。いつかエレベーターを増設してやるぞ。

 早く行きたいが階段がきつい。今日ずっと走り回っていたから体力が無い。直ぐにばて始める。ちくしょう、頑張れ俺の身体。

 やっとの思いで辿り着く。スミスかルベスか、どちらでも良い、とにかく今の状況を打破出来る者がいる事を願う。

 そう信じ、ドアノブを回転させる。

 部屋に入り中へ。そこに誰かがいて、そいつはベッドに座ってこっち見つめている。


「あら、ようやく帰って来たのね、こんばんは佐波くん」


「……誰だお前は」


 見知らない女性がそこにいた。ショートの黒髪、サングラスをかけている。上には真っ白のシャツに下は短く黒色のミニスカート。それから見える黒いストッキングが色気を醸し出している。

 見た目から二十代後半くらいだろうか。大人の色っぽさを奏でさせている。


「誰かって? ん~そうだな、私の事は謎の美人で、男をムラムラさせてしまう罪なお姉さんと呼んで」


「長いし意味が分からない。……て言うか誰なんだお前! 人の部屋で何やってる! それに何で名前を知っていやがる! 答えろ!」


「もぅ、いっぺんに訊かないでよね? いくら美人で美人な私でも答えられないってば」


 何者なんだこいつは。


「ま、とにかくね、佐波くんあなた命を狙われてるって知ってるかしら?」


「はあ? いきなり何を言ってるんだ、俺が命を狙われてる? 訳が分からない。……おい、俺は今冗談に付き合っている暇は無いんだ。警察は呼ばないから出て行けよ」


 何者なんかどうでもいい。こんな女なんかに付き合ってられるか。くそ、ルベスとスミスがいないなんて。俺はどうしたら良いんだ。


「おにいたんだいじょうぶ? げんきだしてよ」


「ふふっ、可愛い女の子ね。……そう、私の話は聞く気は無いんだね?」


「そうだよ。早く出て行け!」


 怒鳴りつけてやると潔く立上がり歩き出す。

 擦れ違う瞬間、女は言葉を漏らし、俺に渡す。


「佐波くん、もしかして焦って無い? 絶対そう。……だって、“誰も皆川真を覚えて無いのだから”」


「……今、何て言った?」


「さてと、もう一度言うわね? 私の話を聞く気は無い?」


 こいつ今まこちゃんの事を言ったぞ。誰も覚えて無かったのに、何でこいつは。

 話を聞いた方が良さそうだ。何が起きているのか、この女は何者なのか、そして、何で俺が命を狙われているのかを。


「……分かった、話を聞こう」


「ふふっ、素直でよろしい。さて、どこから話そうかな。取りあえず私の名前は……」


 女の名を告げる刹那、この空間が固まったかの様に異様な気配が漂う。体の芯から凍るかのような異常さ。

 サングラスの女は眉をひそめ、舌打ちをした。


「ち、見つかっちゃったか。佐波くん、逃げるわよ! 敵に見つかった!」


 敵? なんだよそれは。とにかく異常事態らしい。

 急いでネリスを抱っこし、サングラスの女と部屋を駆け出す。


「屋上に急いで!」


「はぁ? 逃げるなら下だろう。屋上に逃げ場何かないぞ!」


「良いから来て。私に考えがあるんだから」


 屋上へ急ぐ。何がなんなのか分からないままただ付いて行くしか出来ない。本当に怪しい女だが、今まこちゃんの事を知っているのはこいつだけだ。

 嫌だと言っても付いて行ってやる。


「にゅ~、おにいたん、このたてものにへんなのがいるよ~?」


「変なの? どんなのなんだ?」


「にゅぅ~、どうやらニンゲンじゃないみたい」


 人間じゃない? まさか地獄の住人? だがそんな気配はない。地獄の住人が近くにいたのなら分かる、ルベスに力を借りる時に分かる様にしてもらったんだ。


「おい! 一体何が来たんだ!」


「……敵は人ならざる者」


「人ならざる……まさか地獄の住人か?」


「地獄の住人? なにそれ」


 知らないだと? じゃあ人ならざる者ってなんだ? その疑問を抱えたまま屋上に到着、そこに人ならざる者が立っていた。

 闇夜の世界にそいつは異端だと主張している様に。

 影で全身が見えないのだが形は人間だ。だが、目の部分が赤く光っている。本能が危険だと信号を放っている。こいつは人間じゃない、逃げろと。

 奴の目を見るだけで体が震え、汗が噴出す。


「な、なんだよあいつは」


「あれが敵よ」


 月明りが照らし出し、赤い目の奴を暴く。姿を暴かれた奴はゆっくりと歩き出して来る。堀深い顔立ちにオールバックの髪に真っ黒なコートを纏っている男。見た目から三十代前半くらいだと思う。だが、奴の眼球はどぶの様にどす黒く、真ん中が真っ赤に光っている。

 目だけを見ても人間じゃないと分かる、奴は俺達を見つめてから口を開く。


「我から逃げられると思ったのか?」


「そうね、私はそう思ったけど?」


 サングラスの女と奴とは顔見知りみたいだが、一体何者なんだ。


「しかしこの場所は妙だ。一度空間に亀裂が入ったのだろう。修復してあるみたいだが、さて、どこに開いたのか」


 このマンションは一度ゲートが開き、そこから地獄の住人達があふれ出した場所だ。

 それを見破るなんて、見た目だけの奴では無いって訳か。


「さて、そいつを無に帰そうか」


 奴は俺を睨む。くそ、意味が分からないまま殺されてたまるか。


「お前、何で俺を狙っていやがるんだ!」


「小さな芽は刈り取る。どんなに矮小としていようと」


「小さな芽? 訳が分からない。答えになってないぞ!」


 そう問い掛けたが聞く耳を持っていなかった。男は地面に片手を向けた途端、地面から何かが生まれた。人の形をした影、うっすらと透けているが確かに実体がある。

 それが六体出現する。


「行け、我が人形」


 影が俺達を標的に行動開始。


「ち、佐波くん達は私の後ろに隠れて!」


「いや、こんなの平気だ。結晶の碧発動」


 瞳が青に変わる。手の平に視覚出来るほどの冷気を纏わせる。冷気を固め、氷の結晶を作る。形を針の様に尖らせ影へと放った。

 滑る様に影に進み、影を貫く。だが、抜けただけだ。


「くそ、ならこれで!」


 冷気を全身へ拡大させ、複数の氷の刃を作りそれを次々発射。しかし影に当たるも突き抜ける。なら、こうしたらどうだ?

 影を氷の刃で囲み、一気に収縮。巨大な氷の結晶が生まれた。

 どうやら全身を固められたら動けない様だ。


「にゅ~! おにいたん、かっこいい!」


「さ、佐波くん、この力は一体?」


「説明は後だ。さあ、次はお前だ!」


「……ほぅ、人間風情にしては面白い」


 影はなんとかした。さて、次は奴だけなんだが、体が震える。目の前にいるものは異端だと本能が語りかけて、それが体を震えさす。

 今まで何体もの地獄の住人と戦って来たんだ、怖いものは平気なはずだった。なのに奴はなんだ、地獄の住人と戦って来た恐怖を凌駕するなんて。


「どれ、遊んでみるか」


 一瞬だ。いきなり消えたと思ったが、直ぐに視覚が何かで覆われ闇に。奴が目の前に立っていた、距離はミリ単位だろうか。

 目の前に奴が俺を見下す。


「ふむ、この程度に反応出来ないのか。期待外れだ」


 後ろに飛び距離を取る。なんだ今のは、まるで瞬間移動じゃないか。くそ、今ので理解してしまった。奴と俺の差が、絶望的に違うのだと。

 俺は奴に勝てない。


「くっ、俺を舐めるな!」


 結晶を飛ばす。次々と休み無く。だが、何故か奴に当たる前に弾け飛ぶ。

 まるで見えない壁があるかの様に拒む。


「くそ、なんだこいつは!」


「おにいたんにげて!」


 ネリスの叫びが響く。その直後手の届く位置に奴がいたんだ。

 また見えなかった、気がつかなかった。


「さて、悪足掻きは終りか?」


「悪……足掻きだと?」


「ふむ、我はただ動いただけでこの有様。本当に矮小な。興がさめた。もう無になるがいい」


 右腕がまるでスローモーションの様にゆっくりと動き、俺の顔を掴もうとしている。

 何をしている、逃げろ、逃げろよ俺。動け、動け、動け!


「足掻きは無意味。おとなしく運命を受け入れろ」


「させないわ!」


 瞬時、サングラスの女が俺の前に。早い、動きが見えなかった。


「また我の邪魔をするか。お前はこの矮小を滅した後でと考えていたのだが。まあいい、順番が変わっただけの話」


「佐波くん、ちょっとだけ待っててね?」


「お、おい!」


 サングラスの女は男目掛けて走る。あいつがどんな奴かなんて知らない。初めて会ったんだ、素性も分からないのに何で俺を助けようとする?

 ただ……あの女を見ていると何故か懐かしい様な、温かい感情に包まれる。

 まさか、俺はあいつを知っている?

 走る彼女の後ろ姿をただ見ている事しか出来ないのか? そう考えていたらある事に気が付く、彼女の体を何かが覆っている。

 真っ黒の霧みたいなもの、何かの細かい粒子が彼女の周りを守る結界の様に纏りついている。


「シュバルツミストを出したか」


「当たり前よ。あんたに勝つにはこれしか無いもん」


「さぁ、集まってミスト達」


 右手を前に突き出し、黒い粒子を集めて行く。黒色が更に塗りつぶされ、手が完全に見えないほど高濃度の粒子。

 黒は形を変え、長い剣へと変わる。粒子を集めて剣を作ったんだ、変幻自在の武器って訳か。

 だが、黒い粒子は一体何なんだ?


「はぁ!」


 縦に黒い刃を振り下ろす。しかし避けられた。でも、彼女の顔に余裕がある、避けられ空を切っていた剣の切っ先がグンと伸びた。

 蛇の様に奴を襲う。


「小賢しい」


 幾度と襲う黒蛇を躱して行く男だが、徐々に避け切れなくなり始める。等々右肩を直撃、血が吹き出る。


「やるな。さすがだと言いたいがこの程度で勝てるとでも?」


「まだとっておきがあるわよ!」


 ちょっと待て、なんだあれは。男から吹き出る血を愕然と見つめる。

 黒だ。血がどす黒い。人間の血じゃ無い。


「にゅ! くろいち。くろい……ち。まさか……でも」


 突然ネリスが奴の黒い血を見て驚きだした。

 見る限り何かを知っている様な感じを受ける。


「どうしたんだネリス、何か分かったのか?」


「もしかしたらわたち、あいつのしょうたいわかるかも。でも、じしんない」


「何! 教えてくれネリス、奴は何なんだ? 憶測でも良いから頼む」


 奴が何なのか知りたい。サングラスの女と顔見知りでもあるらしいから、もしかしたらまこちゃんの事が分かるかもしれない。

 俺の真剣な眼差しにネリスはどうやら教えてくれるらしい。


「にゅ、まちがってるかもしれないけど……いい?」


「ああ、教えてくれ」


「にゅにゅ、わかったよ。おとうさまにきいたことがあるの。くろいちをもったいきもの……なまえはたしか、あくま」


 悪魔だって? そんなものが本当にいるのか?

 いや待て、地獄の住人がいるんだ、悪魔だって居る可能性はあるだろう。


「あくまはね、じごくじゃなくて、マカイってところにいるんだって。マカイはじごくとはちがうせかいなんだよ」


「つまりもう一つの世界って事か。でも、何で人間界に悪魔がいるんだ?」


 分からない。悪魔とサングラスの彼女は顔見知り、ますます謎が深まる。

 彼女のあの力と関係があるのか。そしてまこちゃんの事。


「ちくしょう。訳が分からない」


「佐波くん、この戦いが終ったら話してあげるわ。皆川真に何が起きたのか。あいつは何をしようとしているのか。そして、佐波くんを狙う理由を。だからちょっと待っててね。お姉さん勝っちゃうから」


 こちらを向いて彼女がニコリと笑う。


「お前が我に勝つ? 本気で言っているのか?」


「当たり前よ。私は佐波くんを守る!」


 黒い粒子が槍状へとなり、何本もの黒き槍が空中に精製されて行く。

 槍は空を漂い男を囲み、矛先全て男を睨む。


「どう? これを躱せるかしら? 今のあなたなら難しいでしょ?」


「ふん。攻撃もしないうちにもう勝者の言葉か? やるなら早くしろ」


「そうね、やってやるわ!」


 まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄だ。一気に男を四方から襲う。マシンガンの様な音が男を追い込む。


「今だ! 佐波くん、子供、私に掴まりなさい!」


「え?」


 サングラスの女は俺達に駆け寄り手を差し延べる。これに掴まるべきか、否か。

 もう答えは決まっていた。

 彼女の手を掴む。


「私があなたを守るから」


「あんたは一体……」


 黒い翼が彼女の腰の辺りから出て来た。これはさっきの黒い粒子で作った様だ。浮遊感が全身に這う、気が付けばもう空中。町が小さな模型の様に見えて来る。


「あの男はどうするんだ! 逃げて来たけどさ、良いのか?!」


「あいつはあんな攻撃じゃ死なないわ。さっきの攻撃は逃げるきっかけが欲しかったのよ。……さてと、どこに行こうか? 佐波くんが良く行く場所はもう駄目だろうね。奴の仲間が先回りしているわ」


「な! 奴に仲間がいるのか! ……くそ、本当に訳が分からん。あんたは誰だ!」


「秘密。ふふっ、謎めいたお姉さんは魅力的でしょ? ま、私の事は……マギサと呼んで」


 マギサ。それがサングラスの女の名前。聞き覚えが無いが、どうしても彼女に会った事がある気がしてしまう。これからどうなるのかは分からないが、どんな事があっても俺はまこちゃんを探す。

 闇夜の三日月を見つめながら、俺達は飛翔して行く。

 謎を抱えながら。


 

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