第9話 魔族が出現したらしい
兵士になって数日。
その日。
私が目覚めたのは鳥の囀りに気づいたからだ。
「ん……」
私が自分の寝台から起き上がると、隣のディーヴァくんの寝床は既に空になっていた。
布団も綺麗に畳まれている。
そして
「起きてくださいアスカさん……朝の点呼20分前です」
ディーヴァくんはすでに着替え終えていた。
私の寝台の傍で、すでに革鎧を着て腰に長剣を吊るした姿で立っている。
隙が無い。
「……分かったわ」
(今日も年下に起床で先を越された……)
私は決して寝坊をしているつもりはないのに。
私は彼より先に起きたことが無い。
彼より年上であるのに……
私は少し複雑なものを感じながら
後ろを向いて、その場で寝巻代わりの薄手の上下を着替えようとすると
背後でバタン、と音がした。
……ディーヴァくんが部屋の外に出たんだ。
毎朝だ。
(気を遣ってるのかな……私が服を脱ぐから)
とことん紳士。
あの年齢で。
本当にどういう教育を受けて来たのか。
私はそう思わざるを得なかった。
……ひょっとしたら。
この国にはあるのかもしれない。
将来神の鎧を継承するために、徹底して超一流の英才教育を子供に与える一族。
そういった感じのものが。
だとしたら、私は彼を「すごいすごい」と能天気に感嘆すべきではないのかもしれない。
何故って、それは異常であるからだ。
そしてその異常は……全ては神の鎧の継承のためだとしたら。
私はそんなことをしなくていい社会を作るため、魔族の完全討伐を成し遂げないといけないと思う。
本来、子供はそんな気を遣えなくて当然ではないだろうか?
子供の人生が踏みつけにされている。
私はそんなことをディーヴァくんの振る舞いに感じて
手早く着替えた。
ドアの外で待ってくれている相棒を待たせるわけにはいかない。
そして革鎧を装着し、愛用武器の大鎌を持って
「よし」
鏡の前でその姿を確認した後。
お待たせ、と言いつつ外に出た。
そのとき。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!
突然。
砦の早鐘が鳴り響いたんだ。
いきなりだ。
朝の点呼どころじゃ無い話になった。
この鐘が鳴ったときには中央集会所という屋外の広場に集まるようにという指示を事前に受けていたので。
私たち2人はその場に急行した。
するとその場には数多くの兵士がすでに集まっていて。
私たちはその後ろに並んだ。
「一体何があったんだろう……?」
ここに来るまでに、火事の気配、敵襲の気配は感じられなかった。
なのにこれは一体どういうことなのだろう?
「ディーヴァくん」
「何ですか?」
すぐ後ろに並んでいる私の相棒に話し掛ける。
「……これ、どう思う?」
彼の意見を求めるために。
すると彼は
「ひょっとしたら、重大な発表があるのかもしれませんね」
そんなことを言う。
その重大な発表とは……?
それを言葉にしようとしたとき。
「魔族が出現したらしいですよ……噂ですけどね」
突如。
私たちの隣の列に並んでいる男が会話に割り込んで来たのだ。
それはやたら軽薄な顔をした肌の浅黒い、背の高い男で。
銀髪長髪の男だった。
私たちよりは軽装なので。
ひょっとしたら彼の兵種は魔法兵なのかもしれない。
私は突然私たちの会話に割り込んで来たその男に
「えっと、あなたは?」
そう訊ねると
男はにこやかに笑って
「ナイアルと言います。赤毛のお嬢さん。凛々しい少年の人」
恭しい感じで頭を下げて来た。
そして彼は笑顔のまま
「噂ですけど……魔族が出現したそうです。海の街ルーイエと……カダフス山付近、そしてルブア砂漠に」
そんなことを教えてくれた。
「海の街ルーイエと……カダフス山付近、そしてルブア砂漠……!」
思わず復唱してしまう。
海の街ルーイエは海産物が大量に獲れる重要な街で。
航路の要衝でもある。
カダフス山は歴代の皇帝と皇后の墳墓がある重要な地域。
そしてルブア砂漠は人は住んではいないけれど、砂漠中央に古代遺跡が存在する場所……。
そんな場所に魔族が出現したのかもしれないのか……
(それが確かなら、軍を脱走することを早速考えないと)
早くも決断のときが迫ってきているのかもしれない……!




