第8話 食事中に
ふたりとも面接が終わり、兵士としてはかなりの厚遇が約束され。
昼食がまだだったので兵舎の食堂で食事を取っていた。
兵舎の食事は肉と野菜スープとパン。
味は飛び切り良くはなかったが、不味くはなかった。
「ディーヴァくんも精霊魔法使えたんだね」
パンを千切りつつ口に運びながらそう彼に言うと
彼は
「一応、幼少期から訓練は積んで来たので」
そんなことを肉をナイフとフォークで切り分けながら返して来る。
私は
(へえ)
彼が食事する様を見て、彼が洗練された一流の教育を受けて来たことを察し
同時に
(多分、相当高レベルの英才教育なんだろうな)
なんとなくそう思った。
食事の仕方には育ちが出るし、そんな彼が口にする
幼少期からの訓練。
それがただの訓練じゃ無いのは予想できた。
まぁ
(……幼少期って……今も子供なのに)
その言葉には違和感があったが、他に適当な言葉が思いつかなかっただけなんだろう。
私はあまり深く考えなかった。
そのまま私は食事を続けようと思い、パンを飲み込んで、水の入ったコップに手を伸ばした。
そのとき。
「なぁ、あのさ。これは噂なんだけどさ」
突然だった。
「都で、皇太子妃が浮気をして、放逐されたってさ」
「マジか? 偉いお貴族サマなのに股はユルユルだったってことか?」
隣のテーブルからそんな会話が聞こえて来たのだ。
私の手が止まる。
まさかもう噂になってるなんて。
聞くまい、と思った。
でも意識すればするほど、聞いてしまう。
「まあ、あくまで噂だから。……吹聴すんなよ? 皇室不敬罪でしょっぴかれたらアレだし」
「いやいやいや、皇室不敬罪は無いだろ~そのお姫様放逐されてるんだろ? 皇室関係無いじゃん」
隣のテーブルの男たちは、隣のテーブルにその放逐された本人がいることに気づいていない。
そして好き勝手なことを楽し気に言っていた。
「しかし馬鹿だよなぁ。●●●に狂って皇太子妃の地位を棒に振るなんて」
「もし本当なら●●●の方が価値あったんだろ。多分●●●が生き甲斐なんだ」
あまりにも屈辱的な言葉の数々。
一部意味が分からない言葉もあったけど、なんとなく相当下劣で侮辱的なことを言われていることだけは察せた。
自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。
あのときのことを思い出す。
あのときの……
やってもいない不貞をやったと言われ。
汚いものを見る目で見下されたあの日のことを。
耐えられなかった。
仮に復帰できたとしても、もう私は夜会に出ることはできないかもしれない……!
ぶるぶると手が震える。
そこに
「……どうしたんですか?」
ディーヴァくんの食事の手が止まった。
私の様子に気づいてくれたんだ。
私は
自分の事情を彼に話そうとした。
彼は私が元公爵令嬢なのは知っているが、私が家を追い出された理由については知らない。
私が話していないからだ。
だけどそれをこの場では言えない。
他人に聞かれるとマズい話でもあるからだ。
だから私の口は動かなかった。
そんな私に
「……ひょっとしてここじゃ言えないんですか?」
ディーヴァくんはそう言ってくれて。
私が頷くと彼は
「分かりました」
食事の手を再開しながら
「部屋で聞きます」
そう言ってくれた。
そのとき私は
何故だか胸がキュンとするのを感じた。
食事を終えて私たちは私たちの2人部屋に戻り。
そこで私は全てを話した。
自分が元皇太子妃内定者だったこと。
そしてやってもいない不貞の濡れ衣を着せられたこと。
自分は疑われかねないことを何ひとつとしてやってこなかったこと。
だから私は陥れられたんだということを。
全て聞きディーヴァくんは
「……そうですか」
私の話を真剣に聞いてくれて
こう言ってくれた。
「ものすごく辛かったのは理解できます。死にたくなるほどの屈辱だったことも」
その言葉には私に対する同情だけじゃない。
怒りもあったように感じた。
彼は怒ってくれている。
私を陥れた正体不明の誰かを。
そして
「……皇太子殿下もあなたを信じなかったんですね。酷過ぎますよ」
眉根を寄せ、不快そうな表情で。
彼はこう言ってくれた。
「あなたがそんなことをするはずがないって、僕でも分かるのに」
その言葉を聞いたとき。
私は一筋の涙が目から零れたのに気が付いた。




