第10話 4体の魔族の名
ざわざわしていた集会所で。
ざわめきが止まる。
そして正面の壇上に人が上がって来た。
それは立派な軍服を着た年配男性で
この辺境防衛隊の隊長だった。
隊長は声を張り上げた。
「昨日の晩に帝国軍司令部から令達があった」
隊長の表情は厳しい。
その令達があまり喜ばしいものではないことが見て取れる。
隊長は続けた。
その令達は……
「皆も知っての通りの、300年に1度の災厄……魔族の襲来が確認されたとのことだ」
その言葉に周囲の兵士たちにどよめきが走る。
「現在確認されている被害は3つ」
そして隊長は語った。
現在帝国内で確認されている魔族の被害を。
それは……
「ルーイエに魔族クトゥルー。海の上に要塞を作り、船を沈め女を攫っているそうだ」
魔族クトゥルー。
水の魔族と言われている存在で、その姿は水棲生物とよく似ているらしい。
「カダフス山付近に魔族ハスター。周辺地域の街レンヒルで深刻な疫病を撒き散らしているらしい」
魔族ハスター。
これは風の魔族と言われてて。
その姿はとても悍ましいとしか伝わっていない。
「ルブア砂漠に魔族アザトース。コイツは遺跡の守備隊を全滅させた」
魔族アザトース。
4魔族のリーダーと伝えられている。
その姿は全く伝わっていない。
そのとき兵士たちから疑問の声が飛んだ。
「魔族ナイアーラトテップはいないんですか!?」
そう。
魔族は全部で4体いる。
最後の1体が魔族ナイアーラトテップで。
この魔族も姿形は不明。
ただし。
一番理解しがたい行動をとるという。
例えば
他の魔族の出現を教えたり、策謀の存在を伝えてきたり。
そのくせ、情報をもとに討伐に出た人間の軍隊を自らの手で壊滅させたり。
眷属を作って暴れ回らせたり。
わけがわからないのだ。
気まぐれに人を殺し、人に助力をする。
ひょっとしたら魔族の出現を帝国に伝えたのも、この魔族かもしれない。
そうでないと魔族アザトースの出現を帝国側が知るのは無理がある気がするし。
けれども
「そちらはまだ確認されていない。だからこそ、帝国全土に警戒が発令されたんだ。どこに出現するかわからんからな」
隊長はナイアーラトテップの出現はまだ不明だ。
そう言い切った。
それは魔族出現の情報源が魔族自身だと都合が悪いからか。
それとも本当にまだ出現が確認されていないのか。
私には分からない。
だけど
「……カダフス山、ルーイエ、そしてルブア砂漠……ここから近い順はこれですね」
私の後ろでディーヴァくんが、魔族3体の討伐のために回っていく順番を小さな声で口にして
それを聞いて
(この集会が終わったら、どうやって軍を脱走するか考えないといけないね)
そう私が振り返り、ディーヴァくんの目を見て視線でそれとなく伝えようと考えたときだった。
「隊長大変です!」
その場に別の兵士が駆け込んで来た。
その兵士は大きく焦り、余裕のない表情で。
こう言った。
「この街に蛮族が攻め込んできました!」
衝撃の事実。
一大事だ。
その言葉にその場が乱れる。
あり得ないことだからだ。
「何だと!? 街の守備隊は何をやっている!?」
そう、守備隊を突破して蛮族が街の中に入り込んで来るなんて。
だが、しかし。
それが何故なのか、すぐに分かることになった。
それは……
「それが……その……ば、蛮族は……」
その兵士は青褪めた表情で
こう、言ったのだ。
「魔族の眷属です!」




