第3話 神の鎧
周囲は森で。
彼らはそこに隠れていたらしい。
御者がただならぬ雰囲気を感じて馬を走らせようとしたが
その前に弓が自分を狙っていることに気づき
悲鳴を上げて御者台に伏せた。
(……盗賊?)
目の前で起こっていることに戸惑いを覚えつつ
私は
「何のつもり!? この馬車は兵員輸送車よ!?」
自分に注目させるために立ち上がり、そう言い放った。
すると男たちは
「お前が公爵令嬢か」
「ついてこい」
私を見て、下卑た笑い声を立てながらそんなことを言って来た。
(こいつら、私の事知ってるの!?)
そこに動揺したけれど。
公爵令嬢。
今の私には縁のない肩書だ。
私は
「……もう公爵令嬢では無いわ。家を追い出されたからね」
口にするのが辛かったけど、男たちを帰らせるためにそう返した。
だが
「嘘吐け」
「こっちは全部分かってんだよ」
それは全く何の意味も齎さなかった。
男たちは私が公爵令嬢の地位を失っていないと思い込んでいる。
私のこの姿を目にしても。
(だったらもう……)
私は馬車を降りた。
席を立つ前に
「伏せてて。すぐ終わらせるから」
そう、ディーヴァくんに小さく言ってから。
「ぐへへへ。素直じゃねえか」
男たちの1人が私を舐め回すように見ながらそう言って。
「さあ、来るんだ」
そう言って近づいて来た。
そこで私は
大鎌を振るった。
一閃だ。
それで男がこっちに伸ばしていた手から指が飛んだ。
「ギャアアアアア!」
悲鳴。
(こっちは伊達に皇后教育受けて無いのよ)
でなければ、戦場に派遣されるわけがない。
兵士として活用できるからそういう懲罰になったんだ。
続けて私は威嚇のつもりで
「爆ぜる火炎よ!」
左手を向け
火の精霊に呼び掛けて、編んだ術式を開放する。
……私は火の精霊魔法が得意だった。
これで将来は爆炎の皇后と名乗ろうなんて、密かに夢を見ていた。
そして私の左手から火球が撃ち出され、この男たちに私の実力を見せつけて……
……
「……あれ?」
私は編んだ術式を精霊が一向に読み取ろうとしないことを不審に思い、思わずそうマヌケな声を出してしまった。
そんな私の様子に。
私に指を飛ばされた男は脂汗を流しつつ
「無駄だ! 今この場所は精霊の活動を抑え込む結界を張ってんだよ!」
「ここではお前はただの女なんだバカめ!」
そう、大声でまくし立ててきた。
(精霊の活動を抑え込む結界……!?)
そんな大掛かりな魔法を使うなんて。
ただの盗賊とは思えない。
一体どういうことなの……?
わけがわからなかった。
けど……
(だったら大鎌だけでやるしかない)
ここから逃げることはあり得なかった。
逃げたら御者の人とディーヴァくんがどうなるか分からない。
そして投降することは絶対に嫌だった。
それをするくらいなら、自分の命を絶った方がマシだ。
こんな奴らに連れて行かれたら、どうせろくなことにならないのは決まってる。
だったら……
(10人超……やってやるわ)
私は大鎌を構える。
大丈夫だ。
5~6人倒せば、向こうは逃げるはず。
たった5回程度勝つだけ。
私はやれる……!
そう思ったとき。
「生意気な女め! 思い知らせてやる!」
「何が公爵令嬢だぁ!? お高くとまってんじゃねえぞ!」
指を飛ばされた男と。
その後ろにいたもう1人が。
懐から薬瓶を取り出して
それを一気に飲み干した。
その瞬間
その2人の男が胸を掻き毟るような動きをして
その身体が巨大化。
鎧や衣服を弾け散らしながら大きくなっていく。
私の血の気が引いていく。
時間にして数秒後。
そこに2体の怪物が出現していた。
(これって魔人化薬……)
噂で聞いたことがあった。
人の要素を持つ魔物に変身することを可能にする違法薬物があると。
それは身体に恐ろしい負担を掛ける代わりに、数分間魔物の力を手に入れて、思う存分その力を振るえるようになるらしい。
2人の男は紫色の毛皮を持つ牛頭人身の怪物……ミノタウロスに変身していた。
『オオオオ! スゲエ!』
『コノチカラナラ!』
2体のミノタウロスは高揚して、興奮のままの叫びをあげていた。
ミノタウロス……
熟練の戦士が数人で倒す魔物……それが2体……!
『シネエ!』
変身で興奮したミノタウロスはドスドスと私に突撃してきて。
拳を打ち下ろして来る。
その拳は波動を伴ってる気がした。
私はそれを地を蹴り避け。
狙いを外したその拳が地面にクレーターを作る様を見て戦慄し
(当たったら終わりだ)
そう評価したとき。
「うわああああ!」
男性の叫び声がした。
ハッとして視線を向けると。
御者の人とディーヴァくんたちに向かっていく、もう1体のミノタウロス。
怯える御者の人を守る形で
ディーヴァくんが厳しい目をミノタウロスに向けている。
私の血が凍った。
私のせいで、無関係の2人が死ぬ……!
それは絶対に避けなければいけないこと……
「やめてっ!」
その人たちは関係ない、そう私が叫ぼうとしたとき。
ディーヴァくんが剣を抜き。
「着装!」
その頭上にその剣の切っ先で大きな円を描いた。
その円は光の軌跡を残し。
次の瞬間
そこから白く輝くものが飛び出して来て。
瞬く間にディーヴァくんを覆い尽くした。
それは……
鎧だった。
白い鎧。
兜の意匠は雄ライオン。
ただし、牛のような角が生えていて。
背中には鷲のような翼が生えている。
(あれって……)
私にはそれに心当たりがあった。
それは伝説の存在で
神の鎧……というものだった。




