第2話 堕ちた元皇太子妃内定者、少年と出会う
次の日。
青空の下私は……
(一番安い軍用馬車……)
私は屋根のない最安価の軍用馬車の座席に座り、揺られていた。
殿下に長く美しい髪と言われた髪を、兵士らしく短く切り。
あの宮殿での夜会で着ていたドレスを脱ぎ捨て。
下級兵士が身につける革鎧姿で。
そこに私の愛用武器である大鎌を肩に担いでいる。
(……思えばこの武器の習熟に関しても、皇太子妃教育の一環だったなぁ)
この国で伝説的な皇后が大鎌を愛用武器にしていたので。
大鎌を愛用武器として習熟すれば、皇太子妃選定で加点されると。
そう教えられたから、修練したのだ。
普通の武器として、大鎌は主流ではない。
武器としての利点があまりにも少ないのだ。
大鎌は武器として振り回しにくく、その刃で引き切る以外はやれることが引っ掛けること、そして柄の部分で打ち据えることくらいしかない。
槍のように距離を取ったり。
戦斧のように盾として使ったり、重さで叩き切ることもできないのだ。
だが私は加点して貰えるならと努力して
大鎌で普通に戦場に立てるほどの実力を手に入れた。
でも、それももう意味がない。
(もうすべて終わりだ……)
皇太子妃としての未来はもう私には無いからだ。
父上は多分、土壇場で家を守ることを優先したんだろう。
私の家は、7代目皇帝が皇太子時代に「国家転覆を企んだ逆賊を討つ手助けをしたこと」で大貴族に取り立てていただいた家。
自分の代で潰すのは許されないと思ったんだろう。
あのときはショックでそこまで気が回らなかったけど、今なら理解できる。
父上は悪くない。
全ては私に濡れ衣を着せた誰かのせいだ。
誰がそうしたのか、全く分からないけれど。
……誰だろう?
他の皇太子妃候補だった娘だろうか?
皇太子妃選定の内幕なんて誰も分からないはずだから、可能性としては低いと思うけど。
でも、それ以外なんて……
「お姉さん」
そのとき。
この馬車のもうひとりの乗客が私に声を掛けて来た。
それは10才くらいの少年で。
腰には長剣を吊り下げている。
そして私と同様、革の鎧を身に着けている。
実は馬車に乗るとき、同乗者がそんな少年だったのでちょっと気になったが。
自分に降り掛かったこの理不尽に打ちのめされていたので、すぐに気にしなくなった。
声を掛けられたので視線を向けると。
その少年はかなり整った容貌で。
髪の色は黒で。
……どことなく、殿下を彷彿とさせる気品がある気がした。
とてもこんな下級兵士の鎧を身につけなければいけない身分に思えないような。
彼は私に
「すごく表情が暗いですね。……何か辛いことがあったんですか?」
そんなことを言って来たのだった。
「なるほど。お姉さんは濡れ衣を着せられたせいで家を追い出されたんですか」
少年はディーヴァという名前で。
歌姫って、男の子の名前なのに変だなとは思ったけど。
傷つけるかもしれないと思って私はそこは指摘せず。
そのまま私は彼の善意に甘えて胸の内を話した。
そして彼は黙って私の話を聞いてくれた。
無論、事実をありのまま話すわけにはいかないから、殿下の話とウィスフィール家のことは伏せる形で私は話をしたけど。
「酷いですね」
ディーヴァくんは私の話を真剣に聞いてくれて。
同情してくれた。
私は
「……気遣ってくれてありがとう。でもね、きっと向こうも色々あるのよ」
そんな彼の気遣いに笑顔を作って
「私の信頼ってものが、薄っぺらかっただけの話かもしれないしさ」
そう、自虐的なことを言って話を終えようとした。
だけど
「そんなことありませんよ!」
ディーヴァくんが突然大きな声を出した。
「アスカさんは努力家で、優しく立派な女性です。そんな女性を疑う方が悪いに決まってます!」
私はそのディーヴァくんの様子にちょっとギョッとした。
だけど
その目は真剣で、本気で怒ってくれているように見えた。
「あなたは悪くない!」
……気持ちはすごく嬉しかった。
昨日から今まで、周りが敵ばかりな気持ちだったから。
だから
「ありがとう」
私は彼に礼を言った。
ディーヴァくんは
「……いえ。純粋に腹が立っただけです。こちらこそすみません」
私に対して、そう言って頭を下げてくれた。
その仕草は、何故だか酷く大人びて見えた。
(これから頑張ろう)
もう終わりだなんて思うには早すぎる。
もしかしたら、戦場で成り上がれば濡れ衣が晴らされることだって……
そう、私が思ったときだった。
私たちを乗せた馬車の前に。
10人以上の鎧兜で武装した男たちが現れたのだ。




