第29話 野営にて
レンヒルの街を出て。
これからルーイエの街を目指して鎧の力で長距離飛ばねばならない。
長時間鎧を着装するのはそれなりに疲れるので、今日は休むことになった。
レンヒルの街では色々やったから、野営だ。
そこで
「見事な舞でしたよ」
一緒の焚火を囲んでいるとき。
ディーヴァくんにいきなり褒められた。
「えっ、ありがとう」
ちょっと対応に困ったけど、一応お礼を言う。
褒められたわけだし。
私はこそばゆいものを感じたので、焚火で焼いていた角ウサギの肉を裏返しながらそう返す。
角ウサギは荒野を住処にする一般的な魔物で。
普通のウサギより攻撃性は高いけど、味は良い。
結構どこででも生きているので、こういう場所では定番の獲物なんだよね。
「舞と武芸は皇后教育で一番重要視される項目だから……」
舞が舞えないと貴族社会では軽く見られる。
だから皇后であるならば、貴族でも上位の舞の実力で無ければいけない。
あと、皇后は皇帝の一番傍にいる最後の護衛なので。
武芸の実力は最もよく見られる部分だった。
その結果、今がある。
「見事な技でした……ハスターを仕留めたときの一撃も」
ディーヴァくんの言葉に、あのときの場面が脳裏に蘇る。
マーファシア皇后陵の大広間で戦ったときのことが思い出された。
「でもあれはディーヴァくんのサポートが」
あのときハスターに勝てたのは、打ち合わせ無しで連携が成功したからだ。
私はディーヴァくんに何も言わなかった。
呼び掛けただけだ。
でも彼は私が何をしようとしているのかを察して、見事にそれを果たしてくれた。
私が氷塊をハスターに投げつけるのに合わせて、氷の魔法を使用してくれたんだ。
そんな私の言葉に
「あんなの、アスカさんの動きを見たら理解できますよ」
そう言って返してくれたディーヴァくんは……
なんだか、照れているように思えた。
(何だか可愛いな)
そう思った。
そのときふと
(ディーヴァくんは国のサポートを受けられる立場にある)
そのことを思う。
彼は初めて私と会ったとき
あなたを探していました。
……そう言った。
ということは……
(ディーヴァくんは私が皇太子妃内定者だったと最初から知っていたんだろうか……?)
そんなことを思った。
なので
「ディーヴァくんさ……鎧の継承者ってこの国と関係が深いんだよね……?」
私は焼けていく角ウサギの肉の具合を確かめる仕草を続けつつ、訊ねる。
「ひょっとして最初から私のことを皇太子妃内定取り消し者だって知っていたの……?」
その問いを口にしたとき。
ディーヴァくんの身体が少し震えた気がした。
その仕草に私は彼の答えを予想して。
その後の彼の答えが
「……ええ。その通りです。最初から知っていました」
それを正直に答えてくれたものだったとき。
私は
「……そうなんだ」
そう返し。
続けて
「安心して。別に怒って無いから」
そう言った。
……別にこれは嘘じゃない。
本心だ。
私の中に何か公言できないような「神の鎧の適正」があり。
それを国の情報を目を通していた誰かに見つけられ、私を迎えに来た。
最初から私の事情を全て知っていたことを私に言わなかったのは、私の不信を買うからだろう。
仕方ない。
……実際に魔族の侵攻がはじまって、その被害を目にして嫌というほど分かったから。
魔族の侵攻はもう起きないようにしないと、ということを。
そのためだったら、多少隠し事があったとしても許されると思う。
……いや。
私だけは、許すべきだと思った。
何故って……
「ねえ、知ってる? この国の皇太子殿下がどんな方か……?」
そんな私の言葉にディーヴァくんは目を向けて。
「皇太子殿下……ですか?」
そう返してくれて。
私は頷いて
「殿下は……」
私は語り出した。
大切な昔の思い出を。
デイバール殿下との思い出を、だ……




