第24話 皇后の覚悟と出会ってしまった者
「さあ、アスカさん。マーファシアの大鎌を」
ディーヴァくんに促される。
一瞬、私が取っていいのかと思ったけど
(これが大鎌である以上、使うのは私)
(そして神器を簡単に手渡すような真似は許されない……)
そこに思い当たる。
神器はとても尊いものだ。
簡単に他者に渡していいものじゃない。
だったら最初に手を伸ばすのは私でなければならない……!
私は唾を飲み込み、これまで愛用して来た大鎌をその場に置いて。
その手を神器へと伸ばす。
そして大鎌の柄に触れたとき
イメージが流れ込んで来た。
それは長く艶やかな黒髪と緑色の瞳を持った美しい女性。
その美しさはただ美しいだけじゃなく、気品があった。
その女性はこの鎌を持ち、ひとり嘆き悲しんでいた。
その女性は涙を流しながら
こう言っていた。
「陛下。どうして私を追放して下さらなかったのですか……!」
(えっ?)
何、今の?
私は自分が今見たイメージが理解できなかった。
あの女性は……
マーファシア様だろうか……?
そしてそのマーファシア様の強い思いがこの鎌に宿っていて、触れた私に流れ込んで来た……?
「どうしたんですか?」
そこに。
ディーヴァくんが私の様子を訝しく思ったのか。
そんな言葉を掛けて来た。
私は
「この神器を手にしたとき、イメージが流れ込んで来たの!」
少し興奮で上擦った声で、自分が見たイメージを口にする。
ディーヴァくんは真剣な顔で聞いてくれて。
そしてこう言った。
「マーファシア様は救えなかった民に責任を感じてらっしゃったってことですかね……?」
「……だから追放して欲しかったってこと?」
「おそらく」
真剣な顔で頷くディーヴァくん。
私はその答えに少し納得しかねるものを感じ
「でもそんなの」
別に国難レベルの疫病が蔓延したのはマーファシア様のせいじゃないはずで。
救えなかった民が出たからと、追放処分にされるのが妥当だなんて……
そう思った私に
「……昔は君主に徳が無いと、神が災厄を起こすと今より強く信じられていたんですよ。マーファシア様がご責任を感じても別におかしくありません」
ディーヴァくんのその言葉。
そのとき。
私は思い出した。
皇后教育の基礎中の基礎。
皇后の心構えの言葉だ。
そのとき私はこう教えられた。
王がいるのは民のためである。
王ならばまず第一に民を愛さねばならぬ。
后はその王を支えし者。
努々、己が王に最も愛されようなどと思うな。
(それはこういうことなんだ)
私は皇后の覚悟っていうものが分かっていなかったかもしれない。
自分の未熟さを突きつけられて、胸が重くなる。
私は一生懸命皇后を目指して色々頑張って来たつもりだった。
でも、マーファシア様の悲しみをすぐに理解できないなんて……
(私は……全然ダメだ)
悔しさと情けなさで私がマーファシアの大鎌を強く握りしめた。
そのとき
突然。
この玄室の外から轟くような音がした。
(大広間……?)
大広間で何かが暴れている。
それにはすぐ思い当たる。
(ゴーレム!)
ゴーレムが戦っている。
ということは、外から誰かが侵入したということ。
それはつまり……
(敵)
私たちの思考はすぐにそこに辿り着く。
私たちは頷き合い、駆け出した。
そして……
大広間が近づくにつれ、大きな音は小さくなっていき。
私たちがそこに飛び込んだとき。
ばらばらになったゴーレムの残骸と、その中心に立つ金髪の少女。
少女は髪と同じ金色に輝くドレスを見に纏っていて、身体についた埃を払うように手を動かしていた。
そしてその少女は
こちらに目を向けてくる。
その瞳の色は金色――
「あなたは誰!? ここは皇族以外立ち入り禁止の皇后陵よ!」
私は己を奮い立たせる意味も込めて、強い言葉を叩きつける。
なんとなくわかっていた。
この少女が人間ではないことを。
少女は私の言葉を聞き、唇を歪める。
探していたものがようやく見つかった、そう言いたげな顔で。
そしてこう言った。
「……ヌシらが此度の神の鎧の継承者か? ナイアーラトテップに教えられ駆けつけたのだが、間に合ったようで何よりじゃ」
(やはり)
予想通りだった。
この少女は――
身構える私たちを前にして、少女は名乗る。
その名は――
「我が名はハスター! 300年ぶりにまたこの世界に舞い戻って来てやったぞ! 神の鎧の継承者ども!」




