第18話 ワンプの正体
「えっ、いきなり何を言ってるんですか? 正気ですか?」
本気で意味が分からない。
サミー巫女頭はそう言いたげな顔で私たちの言葉を否定して来る。
「私が忙しくしているということは、私が仕事を作ってるとでも言いたいのですか?」
「ええ、そうですけど」
私はその剣幕を無視し、平然とそう返す。
サミー巫女頭の目がつり上がる。
「私は仕事を増やすようなヘマはしてませんよ! 聞き捨てなりませんね! 神に仕える身ですが、耐えられない侮辱です! 取り消して下さい!」
サミー巫女頭は声を荒げた。
巫女の態度とは思えないほどだ。
まあ、こちらもそうなるほどの無礼なことを言ってるんだけど。
いきなりやって来て、お前がここの仕事を増やしている、なんて。
でも、私はその態度がボロを出さないための演技に思えた。
わざと酷く怒って見せることで威圧して押し切り、疑惑を跳ね除けよう、という。
私たちはあのナイアルのヒントを2人で話し合った。
どういう意味かと。
それは……
昼にあって夜に無いもの。
寝てる相手を襲っても悲鳴が聞けない。
この2つについて。
私たちは話し合った結果
昼に襲わないと悲鳴を聞けないから昼に襲ってる。
そういう風に解釈した。
つまり……
寝てる人間にワンプが噛みついても、それで犠牲者が目覚めるとは限らない。
眠りが深い人間であるなら、噛み付いた痛み程度では目覚めない可能性は十分にある。
で、ワンプ変身者はそれが不満なのだ、と。
つまり……
ワンプの目的は犠牲者を殺すことではなく、犠牲者が死の恐怖に怯え、泣き喚く瞬間を見ることなのだと。
そこから考えた。
ワンプに変身する眷属化した人間が、何故そこまでこの街の人間を苦しめたい……もっと言えば「憎んでいる」のかと。
そしてあのナイアルのヒントの出し方。
あれは私たちの前にすでに正解が転がっているんだぞと。
そういう嘲笑う意志がある気がした。
サミー巫女頭は言っていた。
この神殿では懺悔や説法を受け入れていると。
まあそれ自体は神殿なら別に普通ではあるのだけど。
人生に迷ったり、悩んだりしたとき。
罪を悔いて告白したいとき。
神殿を訪れ、聖職者たちに人生のヒントを貰ったり、己の罪の懺悔を受け入れてもらう。
この世界で、ずっと神殿が担って来た仕事だ。
でも……
懺悔。
これに関しては正直、前から薄っすらと思っていた。
他人が犯した罪を聞き続けていたら、いつしか人間に嫌悪感を持ったりしないのか? と……
「あなた、この神殿の懺悔の仕事を1人で受け持っていたらしいですね」
ディーヴァくんが強い口調で言う。
真っ直ぐにサミー巫女頭を見つめながら
「他の巫女に聞きましたよ。あなたが全部の懺悔の仕事を引き受けていたと」
一応確認を取ったんだ。
懺悔の仕事を担当している人間は限られているのかと。
その質問で返って来たのはサミー巫女頭の名前。
そういうことだった。
サミー巫女頭はディーヴァくんの言葉にさらに怒りを深める。
「しょうがないでしょう! 信者の皆さんの懺悔を聞く仕事はとても負担の大きい仕事です! 言わばヒトの闇を引き受けるんです! 並の人間では務まらないのです!」
それはそうかもしれない。
簡単に他人に任せられない種類の重い仕事。
そこは理解できる。
だけど私は
「そのせいで闇に染まっていたら世話ありませんね」
敢えてそこに一言入れた。
その言葉で
「闇ってなんですか!? それで私がわざと仕事をミスして仕事を増やしているとでも!? 私はそんなことはしていないです! 違うというならその証拠を……!」
私に指を突きつけて、激怒の様子を見せるサミー巫女頭。
その様子は本気で怒っているように見えた。
もし違ったなら、この先面倒なことになる。
だけど、しかし。
「……さっきから、仕事を増やすことを『ミス』って決めつけてますけど、どうしてですか?」
私はそれを考えないことにした。
違っていたら、自分たちが罪人になるだけ。
ここで重要なのは……眷属ワンプを見つけることだ……!
私の言葉に
「えっ」
巫女頭は顔を引き攣らせる。
私はそれを見逃さなかった。
だから
「あなた、眷属ワンプのことを知ってましたよね? ならば眷属が魔族に服従した人間のことであることも知っているはずです」
畳み掛けた。
「だったら、そっちの可能性を先に考えるのが普通ではないですか? 何故仕事のヘマであることを前提に言い返してるんですか?」
私の言葉は断定的だ。
でも、今はどうでもいい。
サミー巫女頭は真っ青になっていた。
もし確定したら死罪を免れない疑惑だから。
違う場合はとんでもない言いがかり。
反応としては不自然では無いけれど……
疑惑の晴れる反応でもない。
だから
「私が眷属だとでも言いたいんですか!?」
サミー巫女頭の悲鳴のような言葉に
「違うんですか? 興奮して紋章が額に出てますよ?」
そう有無を言わせぬ口調で言い
私のその言葉に
「言いがかりです! 額に紋章など出るものですか!」
彼女からそんな言葉が返って来たとき。
私は
「……何故、変身するときに紋章が出ることを知ってるんですか?」
「え」
その致命的なサミー巫女頭のミスを指摘した。
ちなみに私がさっき指摘したことは真っ赤な嘘。
彼女の額に紋章なんて出ていない。
だけど……
「……私も眷属と戦ってはじめて知ったんですが……変身するときに眷属は身体に刻まれた紋章が輝くんですよね……」
私はあのときまで紋章のことを知らなかった。眷属化した人間が眷属に変身するとき、身体に刻まれた紋章が輝くなんて。
そういうものがあるなんて知らなかった。
だけどこの巫女頭はそれを知っていて。
「あなたの反応からすると、紋章って出したり消したりが自由自在だけど、変身時は出さざるを得ない……そんな感じでしょうか?」
さらに、私の知らない事すらも知っていた。
どうやら紋章の有無は判別方法にはならないらしい。
自らの意志で消したり出したりできるから。
だけど
「あなた、額には紋章なんて出ないと言いましたよね? 普通鏡を見ませんか? 額を気にしたりしませんか? 何故全否定なんです?」
そう。
それは致命的なんだよ。
この状況で「額に紋章が出ている」と言うことを指摘されたなら、何とか確認しようとするはずだ。紋章というのが言葉の綾の可能性もあるのだから。
だけどこの女性はしなかった。
……つまり。
自分の額に紋章など出るはずがないということを知っていたということだ。
何故なら、出る部分は別の部分だから。
他には出ないことを知っているから。
その指摘は
彼女を一瞬で無表情にし。
続けて
彼女は肩を震わせながら
「ち……」
怒りの形相を浮かべ
「ちきしょおおおおおおおお!」
サミー巫女頭は……
喉が裂けんばかりの叫びとともに。
その右手をこちらに向け。
その手の中に紋章を浮かび上がらせ。
その紋章を輝かせて。
一瞬後、巫女頭の姿のその輪郭が歪み
彼女は異形の怪物に変身する。
そして同時に
ぴぎいいいいいいいい!
その場に耳障りな吼え声が響き渡り。
人々の悲鳴と混乱が巻き起こった。




