第16話 ワンプの恐怖
「ワンプ……!」
私はその眷属の名前は一応知っていた。
その能力があまりにも悍ましいので、記憶に残りやすかったのだ。
その見た目は。
顔と胴体は子豚に似ているが、脚は蜘蛛のように長く。
足先はヤモリか蛙に似ている。
ただし、その脚の数は9本。
耳は蝙蝠に似ていて、そして目が無いという姿。
その見た目の悍ましさも印象に残りやすいが、それよりも。
その牙に、噛み付いた相手に深刻な病を感染させる能力があるんだ。
その病が……
今、この場で苦しんでいる人々が感染している病なんだろう。
「治らないんですか?」
私がそう訊ねると、私たちの応対をしている眼鏡の巫女は頷き
「快癒祈祷でも進行を遅らせるのが精一杯です。そして治療薬も存在しません……」
眼鏡の巫女さん曰く、ワンプに噛まれて感染する病は「白骨病」と言われるもので。
病が完全に進行して全身が緑色になると、身体の肉の部分が全て悪臭を放ちながらドロドロに腐敗し、後に白骨だけが残るというものらしい。
快癒祈祷で進行を食い止めても3日。
祈祷無しなら1時間で命を落とすとのことだった。
女性の中には、この病に感染したと判明した直後、最期の悲惨さを恐れて自分で命を絶った人も居たそうで。
その恐ろしさが否応なく伝わって来た。
(絶対に倒さないと)
当然私はそう思い
「ワンプの手掛かりは掴めているんですか?」
そう食い気味に訊ねる。
だけど
その巫女は首を左右に振り
「ワンプは昼も夜も関係なく、突然現れ突然消えるんです」
悔しそうな表情でそう口にした。
……つまり
(ワンプになる眷属はこの街の住人ってこと?)
そういうことなのか。
突然現れ突然消えるってことは。
「あの」
私はさらに情報を訊こうとしたけど
眼鏡の巫女さんは
「すみません。忙しいのでこれ以上は」
私たちに頭を下げ、去って行った……。
私たちは他に話を訊けそうな人間は居ないかと見回したが
(……いない)
パッと見、話を訊ける余裕がある人間が皆無に見えた。
(どうしよう……?)
助けを求めるようにディーヴァくんを見ると
彼は
「取り敢えず外に出ましょう。邪魔みたいですし」
そう言って私に先行するように、背中を向けて歩き出した。
「昼も夜も関係無しに、というのが気になりますね」
外に出て。
ほとんど通行人を見かけない道を歩きつつ。
ディーヴァくんがその見解を述べる。
「それはつまり、何故夜だけじゃないのか? ってこと?」
「そうですね」
ディーヴァくんは難しい顔で頷く。
そこに関しては同感だ。
何故って夜に襲撃を掛けた方が絶対に効率がいいはずなんだ。
何故ならワンプには目が無いからだ。
つまり、外界の認識に視覚が不要ってことだ。
だったら夜に家に押し込んで家人を噛みまくればいいはずだよね。
それなのに、活動を夜だけに限定せず、昼にまで活動をしている。
これは……
「僕は時間帯を限定することで、特定を恐れているということじゃないかと思うんですが」
ディーヴァくんが自分の見解を述べた。
私はそれを聞き
「えっとそれはつまり……夜だけ行方が分からなくなる人間が怪しいと思われるのが怖いとか?」
その内容を嚙み砕いて確認。
ディーヴァくんは
「そうですね」
それを肯定した。
いやでも、それって
「夜に行方がはっきりしてる人の方が珍しくない? 皆寝てるんだよ?」
気にするところじゃないでしょ。
私はそう思うんだけど。
だけどディーヴァくんは頭を振って
「それでも、ですよ」
やや力説した。
自分が思う「何故襲撃を夜だけに絞らないのか?」問題について。
それは……
「誤魔化したい方は、そうは思わないはずです。自分だと特定されかねない要素は可能な限り潰したくなるはずです……例えその要素が、取るに足らないものだったとしてもね」
人間心理として、僅かな可能性でも潰したい。
だからこその昼夜問わずの襲撃なのではないかと。
だけどそんなディーヴァくんの意見は
「んんー、それはちょっと違いますねぇ。着眼点は褒めて差し上げたいですが」
突如。否定された。
いつの間にか私たちの傍に立っていたひとりの男性によって。
その男性は……
背が高く浅黒い肌をした、魔法使い風の衣装を着た男。
銀髪の長髪で、その顔は軽薄の一言。
口元に張り付いた笑みを浮かべている。
私は、いや私たちは
その男を見たことがあった。
確か名前は……
「ナイアル」
「あら、覚えていて下さったんですね? 美しき赤毛のお嬢さん」
私に名前を呼ばれてその銀髪の男ナイアルは
笑みを浮かべた顔のまま軽く一礼をした。




