第14話 それは間違いです
「ここまでくればもういいでしょう」
ディーヴァくんのその言葉に。
私は頷き、高度を下げる。
ぐんぐん地上が近づいてくる。
そこは草原だった。
そしてふたり地上に降り立って。
私たちは神の鎧を解除した。
瞬く間に鎧は外れ、虚空に消えていく。
神の世界に還ったのだ。
私は
「……これからどうするの?」
そう、ディーヴァくんに訊ねる。
私たちは戦場から直接飛行状態で脱走した。
荷物は私たちの兵舎の部屋に置きっぱなしだ。
(無一文……)
そこが気になった。
どうするんだろうか?
ひょっとして2人で何かやって稼ぐのだろうか?
そう思ったのだけど
「普通に最寄りの街に立ち寄って、必要装備を整えたら、真っ直ぐにまずカダフス山を目指しますが?」
何か問題があるのか?
そういう目で私の言葉に返して来た。
懐から革袋を取り出して、中から宝石を数個取り出しながら
(えっ)
ちょっと驚いた。
「ひょっとしてあの状況で、予め財布を持って出ていってたの……?」
「ええ、まあ」
当初から、戦死による行方不明を装って戦場から脱走するルートを想定していたので、財産のほとんどを宝石に変えて携帯していました……
そんなことを、彼は別に普通のことのように口にする。
(すごい)
私は本気で彼のその用意周到さに舌を巻いた。
子供だけど、彼はすごく頼りになる。
成長したら多分、間違いなく一流の男性になる逸材だ。
私も皇后を目指していなければ、彼が大人になったとき。
彼に夢中になる娘の1人になっていたかもしれない。
「さすがだね」
「お褒めに与り光栄です」
私の賞賛の言葉を彼は軽く微笑んで受け止めた。
それを見て私は……
「それに引き換え……私は」
つい、愚痴るように
「あの土壇場で、あの蛮族の男性を仕留めることに迷って、危うく反撃を受けてしまうところだった」
あのときの失態を口にした。
「私ね、あの蛮族の男性の言い分に少し同情してしまったんだ」
言いながら、自分に対する情けなさがより募っていく。
そして
「皇后を目指していたのに……情けないよ」
私は皇太子妃内定を剥奪された女だ。
それは陰謀の結果だったかもしれない。
けど……
こうしてみると、妥当だったのかもしれないと思えてくる。
私は皇后になるには不適格な人物だった。
そんな私を排除するため、やり方は汚かったかもしれないが、目的は正しかったのかもしれない……
そんな、自虐的なことを考えた。
そのときだった
「それは違いますよアスカさん」
ディーヴァくんが鋭く私の口にしたことを否定したんだ。
一瞬、意味が分からなかった。
「えっ」
彼は真剣な目を私に向けて
さらにこんなことを続けた。
「最終的に辿り着く結果が同じだったとしても、その過程で敵に対する情が全く無い考えしか存在していないのは変でしょう」
私に向かって、まるで説教でもするように。
「もしそれが是なら、争いが起きたとき結論は常に殲滅以外無くなります。だからアスカさんはそれでいいんです」
彼は目で言っていた。
お前は思い違いをしていると。
「例え最終的に選択されず否定されるとしても、反対意見が存在することを否定するのは間違いです」
とても真剣な目だった。
彼は「自分で自分を否定するな」と言ってくれている。
それに私は何も言えなかった。
けれど……
私にそう言った後。
話は終わったとばかりに
「さあ、最寄りの街はこちらです」
そう言って、この草原を先導するディーヴァくんの背中が。
私にはとても大きく見えた……




