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稲沢除雪隊〜黒い獣〜  作者: 只野屍
第四章 変化
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24/33

第五話 ここだけの話

 前の晩は、久しぶりに雪が降らなかった。


 日付が変わっても夏樹からの電話はなく、連日のように夜中から道路へ出ていた者たちは、久しぶりに朝まで眠ることができた。


 もっとも、夜中の除雪がなかったからといって、昼間の仕事までなくなるわけではない。路肩には雪が積み上がり、交差点の見通しも悪くなっている。ロータリーで飛ばす場所もあれば、ダンプで雪捨て場へ運び出さなければならない場所も残っていた。


 その日の仕事は、前日から夏樹が少し割り振りを変えていた。


 午後になると、稲沢地区の重機車庫の前へ次々と車が入ってきた。


 直営だけではない。楢山建設のダブルキャブ、そのほかの業者の軽トラックやバン、乗用車が駐車場を埋めていく。


 車庫の中では、場所を空けるために何台かのローダーが外へ出されていた。空いたコンクリートの床に折り畳み椅子を並べ、休憩室からも椅子を運び込む。それでも足りず、壁際に立つ者もいた。


 三十人を超えた。


 最後の何人かが入ると、大きなシャッターが下ろされた。


「なんか悪い相談でも始まりそうだな」


 後ろの方から声がした。


「いい相談ならシャッター閉めねえべ」


 笑いが起きた。


 だが、何のために集められたのかは、ほとんどの者が分かっていた。


 黒いやつ。


 いつからか、それだけで通じるようになっていた。


 夏樹が前に立った。


「急に集まってもらって、すみません。仕事ある人もいるんで、そんな長くするつもりはないです。ただ、同じ稲沢地区で除雪してて、もう何人もあれに遭ってます。会社ごとに話が止まってると危ないんで、一回みんなで話した方がいいと思って集まってもらいました」


「市には言ったの?」


「今日のこれは言ってません。市にはそれぞれ報告上がってますし、警察にも行ってます。ただ、今日は現場の人間同士で話したいんです。ここで聞いたことも、わざわざ外で喋らないでもらえればと思います」


「警察、まだ熊って言ってんのか?」


「熊または大型獣、ですね」


「便利だな、大型獣って」


「何でも入るべ」


 また笑いが起きた。


 夏樹も少し笑ってから、集まった顔を見渡した。


「まず、実際に遭った人の話を聞きたいです。どこで、どうなったか。場所はみんなこの辺分かってるんで、大体でいいです」


 最初は誰も口を開かなかった。


 やがて楢山建設の男が、腕を組んだまま言った。


「うちの小さいローダー、横のガラス割られたことあったべ」


「ああ、あれな」


「最初の頃だべ」


「乗ってたやつ、今日来てねえの?」


「もういねえよ。クビになった」


 何人かは知っていたらしく、特に驚かなかった。


「本人から聞いた話だと、横に黒いやつが来て、キャビンを何回か叩かれた。んで、横のガラス割られた。その頃はまだ熊じゃねえかって話だったけどな」


「熊がローダーのキャビン狙うか?」


「狙ったかどうかまでは分がらねえよ。ただ、割られたのは本当だ」


「中まで入ってきたの?」


「そこまではいってねえ。逃げたから」


 別の男が声を上げた。


「俺ん時は後ろだった」


 何人かがそちらを振り返った。


 男の額には、まだ傷の跡が残っていた。


「ああ、おめだったな」


「後ろからいきなりドンってやられてよ。何だと思ってるうちに、また来た。振り向いてもよく分がらねえし、またドンって来るし」


「後ろ、へこんだんだっけ?」


「べっこりよ」


「ローダーも押されたの?」


「違う違う。俺が動かしたの」


 男は苦い顔で笑った。


「びっくりして前さ出したんだ。したら前がスロープだったの忘れてて、そのまま落ちた」


「ああ、それでか」


「落ちた拍子に身体持ってかれて、顔からフロントガラスよ。鼻折って、額も切った」


「何針だっけ?」


「五針」


「痛えな」


「痛えなんてもんでねえよ。鼻血と額の血で顔じゅう血だらけになって、黒いやつどころでねぐなった」


 何人かが苦笑した。


 男は自分の額を指でなぞった。


「ローダー押されたんでねえぞ。そこは間違えんなよ。俺が驚いて前さ出して落ちたんだ。ただ、後ろの鉄板はへこんだ。何回も叩かれてな」


 そこから、ぽつぽつと声が上がり始めた。


 道路の真ん中にいた。バックしたらついてきた。ライトを当てても顔が分からなかった。近くに来ると、獣臭さに腐ったような臭いが混じっていた。


「毛は?」


「分がんねえ」


「黒いから見えねえってこと?」


「そうじゃねえんだよな」


 その言葉には何人かが頷いた。


「ライト当てても、そこだけ真っ黒なんだよ」


「俺もそうだった」


「影みてえな?」


「影とも違う」


「辰雄さん」


 夏樹が呼んだ。


「一回、辰雄さんの話してもらっていいですか」


「俺のはもう知ってるべ」


「知らない人もいますから」


 辰雄は嫌そうに頭を掻いた。


「公民館の裏だ。雪置き場でローダー回したら、出口の方にいた」


「どのくらいの大きさ?」


「そん時は……熊よりでかかったかな。よく分がらねえ」


「逃げなかったの?」


「逃げるとこねえんだもの」


 辰雄は腕を組み直した。


「出口一個しかねえし、そこにあいついるし。オラおっかねぇから、最初はどうすっかなって思ってたんだ」


「したら向こうがこっち見てんだよ」


「目あった?」


「目なんかねえって。んでも、こっち見てるのは分がるんだ」


「それで?」


「腹立ってきてよ」


「なんで?」


「知らねえよ。怖くて逃げられねえと腹立つべ」


 何人かが笑った。


「向こうから来たから排土板落とした。一回やって、それでも動いたから、また上げて落とした。あとは何回やったか覚えてねえ」


「死んだ?」


「それが分がんねえんだよ」


「消えたってやつ?」


「そうだ。黒い煙みてえになって、そのまま消えた」


「ほんとに?」


 辰雄の顔が険しくなった。


「嘘ついてどうすんだよ」


「いや、そういう意味でねえって。煙になって消えるってのがよ」


「俺だって知らねえよ。目の前でそうなったんだもの」


「死体は?」


「ねえ」


「血は?」


「ねえ。毛も肉も何にもねえ。臭いだけ残った」


 少し離れたところにいた譲が口を開いた。


「辰雄さんの言ってること、本当だと思いますよ。俺も見たんで」


 視線が集まった。


「この前のニーナナのやつか」


「そうです」


 譲は壁から背を離した。


「田んぼの道の突き当たりで出ました。雪壁の前にいたんですけど、こっち来たんで排土板当ててみたんです」


「逃げなかったの?」


「辰雄さんがやったって聞いてたんで」


「怖くなかった?」


「怖いっていうより、どのくらい力あるのか分かんなかったんで、最初はゆっくり当てました」


「どうだった?」


「普通に押せました」


「ニーナナで?」


「はい」


「押し返してこなかった?」


「そんな感じじゃなかったです。こっちの方が全然強いです」


「じゃあ、車へこませるくらい力あっても、ローダー相手じゃ駄目なのか」


「少なくとも俺の270なら余裕ありました」


「どこまで押した?」


「そのまま雪ごと押して、突き当たりの雪壁までです。ただ、押しつけようとしたら排土板に腕掛けて上がってきました」


「上がってきた?」


「はい。こっちに」


 譲が自分の胸元を指した。


「立ったら二メートルくらいあったと思います。排土板の上から胸より上が出て、腕掛けて上がってきたんで」


「キャビン狙ったのか?」


「分かんないです。でも、そのまま来られたらキャビンでした」


 楢山建設の男が黙って聞いていた。


「それでどうした?」


「排土板上げて、振って落としました。落ちたところをそのまま押さえました」


「それで死んだ?」


「その時はまだ動いてました」


「そこに俺が行った」


 智也が言った。


「無線聞いてたから」


「呼ばれたんじゃねえの?」


「呼ばれてねえ。近かったから行っただけ」


 譲が笑った。


「この人、来てから一回降りてきたんですよ」


「それ言わなくていいべ」


「降りたのかよ」


「馬鹿でねえの?」


 車庫の中がどっと沸いた。


「いや、譲が押さえてたんだもの」


「それでも降りねえべ普通」


「見たかったんだよ」


「何をよ」


「顔とか」


「顔あった?」


「なかった」


 さらに笑いが起きた。


 智也も笑いながら首を振った。


「近くで見ても同じだ。目も鼻も口も分がらねえ。毛も分がらねえ。ただ真っ黒。頭みてえな形はあるんだけどよ」


「触った?」


「触るわけねえべ」


「降りるくらいだから触るかと思って」


「そこまで馬鹿でねえよ」


「大して変わらねえべ」


「うるせえ」


 笑いが収まるのを待って、智也は続けた。


「それで俺は、譲がニーナナで押さえてる所を、俺のニヒャクで横から潰した。俺の方からは排土板で見えなかったけど、譲が見てた」


 譲が頷いた。


「俺の方からは頭と腕が見えてました。最初まだ動いてたんですけど、しばらくしたら頭の方から崩れ始めて」


「崩れる?」


「黒い煙みたいになっていくんです。辰雄さんが言ってたのと同じです」


「だべ」


「頭がなくなって、腕もなくなって、そのまま見えてるところ全部消えました。最後まで押さえてたんですけど、全部消えた瞬間、排土板がドンって落ちました」


「前輪浮くくらい押してたんだっけ?」


「少しですけどね。消えたら支えてるものなくなったみたいになって、そのまま落ちました」


「智也さんは見えなかったの?」


「見えねえよ。俺は横から押してたから排土板の裏しか見えねえもの。無線でどうなったって聞いてた」


「で、どけたら?」


「何にもねえ」


 智也は両手を広げた。


「潰れた雪だけ。血もねえ、肉もねえ、毛もねえ。くせえだけ」


「臭いすごかったな」


「俺のもだ」


 辰雄が言った。


「雪押して帰っても取れねえんだもの」


「だからあの日、車庫くさかったのか」


「俺のせいにすんな」


 笑いが起きた。


 笑いが収まると、車庫の中がまた静かになった。


「結局、何なんだ?」


 誰かが言った。


 誰も答えなかった。


「生き物なのか?」


「足跡つくんだから生き物でねえの?」


「生き物が煙になって消えるか?」


「知らねえよ」


「二回やったんだべ?」


「二回だな」


「じゃあ殺せるってことか」


 辰雄が首を振った。


「それも分がらねえ。死体ねえんだぞ。殺したって言っていいのか?」


 今度は誰も何も言わなかった。


 夏樹が口を開いた。


「何なのかは、今ここで考えても答え出ないと思います。ただ、重機で押せるのは分かった。譲のニーナナならかなり余裕がある」


「八トンは?」


 後ろから声が飛んだ。


 譲が答えた。


「力だけなら八トンでもいけるんじゃないですか。俺のニーナナじゃ全然相手にならなかったんで」


「じゃあ出たら潰していいの?」


「追っかける必要はないです」


 夏樹が言った。


「逃げられるなら逃げてください。向こうが退がったなら追わない。逃げ道塞がれたとか、向こうから来たとか、どうにもならない時に重機で押せるなら押す。それでいいと思います」


「潰せるときは潰す。逃げるときは逃げろってことだな」


「そうです。あと、絶対に降りないでください」


 夏樹が智也を見た。


「何で俺見るのよ」


「一番言わなきゃ駄目だからです」


「一回だけだべ」


「一回でも駄目です」


「分がったよ」


「ほんとに?」


「分がったって」


「次やったら助けに行きませんからね」


「それは来いよ」


 車庫の中に笑い声が響いた。


 その後も、話はしばらく続いた。


 どの路線だったか。どれくらい追ってきたか。どんな臭いだったか。大きさはどのくらいだったか。


 同じものを見ているはずなのに、最初の頃の目撃と最近の目撃では大きさが違っている。


「やっぱりでかくなってねえか?」


「俺が見た時、二メートルなんかなかったぞ」


「俺ん時もだ」


「同じやつなのか?」


「それすら分がらねえべ」


     *


 一台の軽トラックが重機車庫の前を通り過ぎた。


 運転していた後藤慎吾が、バックミラーへ目をやった。


「勇」


「はい?」


「今の何だ?」


 助手席の佐藤勇が振り返った。


「ずいぶん車いますね」


 後藤は速度を落とした。


 重機車庫の前には二十台を超える車が停まっていた。軽トラック、軽バン、乗用車。その中には楢山建設のダブルキャブもある。


 車庫の前には、普段なら中に入っているローダーまで何台か出されていた。


 それなのに、大きなシャッターは全部閉まっている。


「楢山いるな」


「いますね」


「あれ、小野寺さんの車でねえか」


 勇もそちらを見る。


「そうですね。向こうの白い軽トラ、伊藤さんじゃないですか」


「ああ、伊藤だな」


「会社ばらばらですね」


「除雪の連中だべ」


 後藤は車庫を通り過ぎてから、少し先で軽トラックを停めた。


「なんかやってんな」


「打ち合わせじゃないですか?」


「こんな人数で?」


 後藤はバックミラーを見た。


「ちょっと見てくるか」


「関係ない集まりだったら邪魔ですよ」


「聞くだけだ」


 二人は車を降り、車庫まで戻った。


 後藤が人用の出入口まで行き、ドアノブに手を掛けた。


「――黒いやつ、あれ熊じゃねえべ」


 中から聞こえた声に、後藤の手が止まった。


 勇と顔を見合わせる。


「……黒いやつだってよ」


「みたいですね」


 後藤はドアを開けた。


 中にいた何人かが振り返った。


「あれ?」


「後藤さん?」


 夏樹も入口を見る。


「どうしたんです?」


「いや、前通ったら車いっぱい停まってるから、何してんのかと思ってよ」


 後藤は中へ入りながら、集まっている顔を見渡した。


「今、黒いやつって聞こえたけど。あれの話してんのか?」


「そうです」


「俺らも聞いていいか?」


「どうぞ」


 勇も後藤に続いて中へ入った。


 夏樹が、それまでに出た話を簡単に伝えた。


 辰雄が一度。譲と智也が一度。


 重機で黒いものを押し潰した。


 二度とも死体は残らず、黒い煙のように崩れて消えた。


 後藤は途中から口を挟まなくなった。


「二回ともか?」


「はい」


「何にも残らねえ?」


「何にも」


「血も?」


「ないです」


「毛も?」


「ないです」


「臭いだけ?」


「そうです」


 後藤は腕を組んだ。


「訳分がんねえな」


「俺らも分かんないですよ」


 その時、楢山建設の男が言った。


「そういや俺、昼間に見たって話は聞いたことねえな」


 後藤がそちらを見た。


「昼?」


「うん。俺が聞いてるの、全部夜だ」


「俺も二時過ぎだったな」


「俺は三時半」


「楢山の最初のも夜中だべ」


「そうだな」


 次々に声が上がった。


「俺、一時過ぎ」


「智也さんは?」


「三時くらいだった」


「祐介も夜中だべ?」


「夜中です」


「浩志は?」


「俺も夜中」


「新聞屋が見たのも朝刊配ってる時だべ」


「ティックトックの連中も四時頃でねかった?」


「そうだな」


 後藤の表情が変わった。


「ちょっと待で。昼に見だやつ、本当に一人もいねえのか?」


 三十人を超える男たちが互いの顔を見た。


 誰もいなかった。


「聞いたことあるやつは?」


 それにも声は上がらない。


 後藤は勇を見た。


「勇。おめ、昼回って何か見だか?」


「見てません」


「俺もねえ」


「でも、昼に出ないって決まったわけじゃないですよ」


「そうだけどよ」


 後藤はそれ以上言わなかった。


 しばらくして、集まった男たちへ目を向ける。


「猟師ってのは夜間の発砲は一発で免許剥奪でコレだ」


 そう言うと、後藤は両腕を前へ出し、左右の手首を揃えた。


 何人かが笑った。


「だがら、夜中に変な音聞いても関知するな。知らねふりせ」


「なんだそれ」


 誰かが笑いながら言った。


 後藤も口元には笑みを浮かべていた。


 だが、その目を見て、続きを言う者はいなかった。


 さっきまで残っていた笑いも、いつの間にか消えていた。


 後藤は何事もなかったように腕を組んだ。


 それ以上、その話に触れる者はいなかった。


 しばらくして、夏樹が集まりを終わらせた。


 大きなシャッターが上がった。


 冷たい空気と冬の白い光が流れ込み、外へ出していたローダーの姿が現れた。


 椅子を片づける者、会社へ戻る者、途中だった仕事へ戻る者。それまで車庫を埋めていた男たちが、次々に外へ出ていった。


 後藤と勇も軽トラックへ戻った。


 もともと二人は、このあと稲沢地区をひと回りするつもりだった。


 後藤が運転席に乗り、勇が助手席へ乗り込んだ。ドアが閉まり、エンジンがかかる。


 軽トラックが車庫を離れた。


 しばらく走ってから、勇が口を開いた。


「慎吾さん」


「ん?」


「夜中に銃持って出ないでくださいよ」


「何の話よ」


「さっきの話ですよ」


「何が?」


「分かってるでしょう」


 後藤は前を見たまま笑った。


「夜間発砲したら免許なくなって手錠だとか、変な音聞いても知らねふりしろとか。あんな顔して言われたら分かりますよ」


「考えすぎだ」


「慎吾さんだから言ってるんです」


「俺を何だと思ってんだ」


「そういうことやりそうな人です」


「ひでえな」


 後藤は笑った。


 雪壁に挟まれた道をしばらく走ったところで、不意に言った。


「勇」


「はい?」


「俺、用事あるの思い出した」


「え?」


「今日の見回り中止だ」


 勇が横を向いた。


「……用事ですか?」


「ああ」


「何の?」


「用事は用事だ」


「さっきまで何も言ってなかったじゃないですか」


「今思い出したんだもの」


「今日、こっち回って山際見て、それから上の方まで行くって言ってたでしょう」


「行がね」


 後藤はウインカーを出した。


「今日は解散」


 曲がった先は、勇を送る方角だった。


 勇はしばらく黙っていた。


「慎吾さん」


「なんだよ」


「昼はいないって思ったんでしょう」


 後藤は答えなかった。


「だから見回りやめるんですよね」


「三十人以上いたな」


「いましたね」


「あいつら、毎晩みてえに稲沢地区じゅう走ってる連中だ。その中で昼に見たやつ、一人もいねえ」


「だからって、絶対出ないとは限らないですよ」


「俺らだって昼、何日探したよ」


 勇は少し考えた。


「……見てませんね」


「だべ」


「でも、それと用事は別でしょう」


「用事もある」


「何のですか?」


「忘れた」


 勇が呆れたように後藤を見る。


「やっぱり用事じゃないじゃないですか」


「細けえな」


 後藤は笑った。


 勇はシートへ背中を預けた。


 しばらくして、もう一度横目で後藤を見る。


「夜中に銃持って出ないでくださいよ」


「しつけえな」


「それだけは言っておきます」


「はいはい」


 後藤はそれ以上、何も言わなかった。


 その日を境に、後藤慎吾は昼間のパトロールへ出なくなった。

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