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「一緒に来たまえ」

「きみの容疑は晴れたよ。もう、心配しなくていい」


 室長と出会って何日目だったか、だしぬけにそう言われた。時刻は夕方に近かったと記憶している。今思えば、国主と室長がなにかしらの駆け引きをし終わったところだったのだろう。

 俺は、ぽかんとしていたと思う。助けてとは言ったが、そんなに簡単にいくとは思っていなかった。

 室長は、続けてこう言った。

「うちに来ないかね?」

 どうしてあの時まったく拒絶しなかったのか、警戒もしなかったのか、今になってもよく分からない。


 俺は室長に手を引かれ、マーテル家に居候の身となった。室長と手を握り合って歩いたのは、後にも先にもあの一度だけだったが。

 学校もマーテル家の近くに転校となり、俺はユーリィ家とはまったく関わらなくなった。


 あの頃、仲介人養成学校は準備中だったが、やがて正式に開校することが決定した。室長はずっと、彷徨える魂の役に立ちたいと考えていたのだ。それまでは、彷徨える魂はマタルになにか危害を及ぼした場合にのみマタルの警察機構が排除していた。それでは駄目だ、ちゃんとした機関を作ろうと立ち上がったのがマーテル家だ。室長が何故学校に拘っているのか、はっきりとした理由は知らない。室長にもまた、事情があるのだろう。

 開校に際し、むろんのこと、彼は地球への出向を決めた。


 置いて行かれるのだと思った。別に平気だと言い聞かせた。

 なのに室長は言った。

「一緒に来たまえ」


 もう、助けは必要としていない。俺は大人になって、室長などいなくても平気なはずだった。俺の室長に対する思いは、刷り込みにも近いということを自覚していた。

 甘える気は無かった。

 それなのに俺は、ただはいとうなずいていた。


 あの時断っていたら、俺は今頃なにをしていただろう。

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