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2話ー④ 北方戦線

北方戦線――。

魔国アーストン北方領。

レヴァンテ魔将の館を後にした三人は、それぞれ率いる軍勢とともに前線へと向かっていた。

やがて視界が開ける。

眼前には、北方を横断する大河。

その対岸には、幾千、幾万もの軍旗が風になびいていた。

聖族国家連合軍――。

大小様々な紋章を掲げた軍勢が、長大な戦列を築いている。

一方、魔族軍もまた川を隔てるように布陣を完了していた。

兵たちは槍を地へ突き立て、騎兵は静かに愛馬をなだめる。

後方では魔法部隊が詠唱の準備を整え、いつでも一斉魔法を放てるよう魔力を練り上げていた。

戦場には、不気味なほどの静寂だけが漂う。

ヴェゼルは馬上から戦場全体を見渡し、小さく微笑んだ。

『……見事ですね。』

隣を進むレヴァンテが口を開く。

『何がでしょう。』

『敵の布陣です。』

ヴェゼルは扇子を静かに開いた。

『敵兵力、およそ五万。

左翼一万、右翼一万。

中央に二万。

さらに本陣には遊撃として一万を温存しています。』

レヴァンテは目を細める。

『斥候の報告と一致しております。』

『ええ。』

ヴェゼルは静かに頷く。

『魔皇様の読みどおりです。』

その一言に、コアードが僅かに視線を向けた。

『……読みどおり?』

『はい。』

ヴェゼルは戦場から目を離さない。

『敵は兵力で勝る以上、自ら攻めてきます。

守りを固めた我らへ焦って攻勢を仕掛ける。

魔皇様は最初からそこまで読んでおられました。』

その声音には、深い敬意が滲んでいた。

『あのお方の先見は、我らの及ぶところではありません。』

レヴァンテも静かに頷く。

『まさしく魔皇にございますな。』

その時、一騎の斥候が土煙を巻き上げながら駆け込んできた。

『報告します!』

馬を降りることもなく声を張る。

『敵軍布陣に変更なし!

中央軍に名のある将が集中しております!』

ヴェゼルは静かに問い返す。

『確認できた名は。』

『イーリギス戦士団長ロンダン。

聖戦士二名。

聖法術士二名。

いずれも中央軍にございます!』

ヴェゼルは小さく笑みを浮かべた。

『なるほど。

敵も勝負どころを理解していますね。』

レヴァンテは視線をコアードへ向ける。

『中央には敵最強戦力が集まっています。』

コアードは短く答えた。

『問題ない。』

『……敵は名将ばかりですぞ。』

『だからだ。』

それ以上、言葉は続かない。

だが、その一言だけで十分だった。

敵最強を相手にすることこそ、自らの役目。

コアードの瞳には、一切の迷いはなかった。

ヴェゼルはそんな姿を見て、静かに笑う。

『やはり中央はあなたしかおりません。』

扇子を閉じる。

『敵の切り札には、こちらの切り札を。

中央戦線はコアード殿にお任せします。』

『ああ。』

短い返事。

しかし、その声には絶対の自信が宿っていた。

レヴァンテは深く息を吐く。

『では私は総大将として全軍を指揮いたします。』

『お願いいたします。』

ヴェゼルは空を見上げた。

灰色の雲がゆっくりと流れ、冷たい北風が戦旗を大きく揺らす。

両軍はなお動かない。

互いに機を窺い、ただ開戦の合図だけを待っていた。

静寂の中、張り詰めた空気だけが戦場を支配している。

その頃――。

川の対岸、聖族国家連合本陣でもまた、一つの決断が下されようとしていた

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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