2話ー③ 北方戦線
客間には北方一帯の地図が広げられ、三人は静かに卓を囲んでいた。
レヴァンテが国境線を指し示す。
『現在、聖族国家連合はこの一帯へ兵を集結させております。大きな動きこそありませんが、いつ侵攻してきても不思議ではありません。』
ヴェゼルは地図へ目を落としながら口を開く。
『前線の指揮は、現在どなたが執っているのですか。』
『副官のルドウィック魔准将でございます。』
レヴァンテは迷いなく答えた。
『私が前線を離れられるのも、あの男がいるからです。』
『それほど信頼されているのですね。』
『ええ。若い将ではありますが、兵の動かし方、戦況判断、退き際の見極め……どれを取っても優秀です。兵からの信望も厚く、私の右腕と呼ぶに相応しい男でございます。』
コアードが腕を組む。
『……強いのか。』
レヴァンテは小さく笑った。
『武だけなら私には及びません。しかし、将としての器は私以上かもしれません。』
その言葉にヴェゼルは興味深そうに目を細めた。
『現場を任せられる指揮官がいるというのは、大きな強みですね。』
『だからこそ、私はお二人を迎えに参りました。前線はルドウィックに任せ、この館で情報を整理し、軍議を行うことが最善と判断したのです。』
『理にかなっています。』
ヴェゼルは静かに頷く。
『戦場は刻一刻と姿を変えます。しかし、焦って前線へ赴いても正しい判断はできません。まずは情報を共有し、敵を知ることが先決です。』
レヴァンテは北方一帯の地図をさらに広げた。
『こちらが現在判明している敵軍の布陣です。斥候隊の報告を基に毎日更新しております。』
ヴェゼルは指先で地図をなぞる。
『……兵力はこちらが劣勢。しかし、敵は兵を広く展開し過ぎていますね。補給線も長い。』
『私も同じ見立てです。』
『ならば正面から受ける必要はありません。』
ヴェゼルは微笑んだ。
『敵が動き出す前に、こちらから布石を打ちましょう。』
コアードが静かに口を開く。
『斬ればいい場所を教えろ。』
『ふふっ、頼もしいですね。もちろん、その役目はあなたにお願いします。』
レヴァンテは二人を見渡し、深く頷いた。
『魔皇様がお二人を北方へ遣わされた理由が、よく分かりました。』
ヴェゼルは扇子を閉じる。
『では、策はまとまりました。』
部屋に静寂が落ちる。
『我々が率いてきた軍勢を予定どおり展開しましょう。敵には、こちらが守りを固めているだけと思わせます。』
『その間に、前線のルドウィック殿とも合流ですね。』
『ええ。実際の戦場をこの目で見て、最後の仕上げと参りましょう。』
レヴァンテは力強く立ち上がった。
『直ちに各部隊へ伝令を送ります。』
北方の静寂は、終わりを告げようとしていた。
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