2話ー② 北方戦線
レヴァンテ魔将の館は、北方領の中心に静かに佇んでいた。
豪奢な装飾はなく、王侯貴族の館とは程遠い。しかし、隅々まで手入れが行き届き、訪れる客人を迎えるには十分すぎるほどの風格を備えている。
『……実に、あの方らしい館ですね。』
ヴェゼルが柔らかな笑みを浮かべる。
『無駄がない。』
コアードは短く呟いた。
門が開くと、一人の壮年の魔族が数名の部下を従えて歩み寄る。
歴戦を物語る傷跡が刻まれた鎧。その腰には使い込まれた長剣が下げられていた。
北方領主にして魔将――レヴァンテである。
レヴァンテは二人の前で深く頭を下げた。
『第六席ヴェゼル様、第七席コアード様。遠路はるばる北方領までお越しいただき、誠にありがとうございます。』
『出迎えに感謝します、レヴァンテ殿。』
ヴェゼルは穏やかに微笑み返す。
『北方の守り、ご苦労。』
コアードも短く言葉を添えた。
『ありがたきお言葉。魔皇様よりお二人がお越しになると伺い、この日を心待ちにしておりました。』
『北方の状況は報告書で拝見しています。しかし、現場の空気は実際に来なければ分かりません。今日は率直なお話を聞かせてください。』
『もちろんでございます。どうぞ中へ。』
三人は館へと足を踏み入れる。
館内もまた質素だった。
壁には絵画ではなく北方一帯の地図が掲げられ、槍や剣が整然と並ぶ。華美な調度品はほとんど見当たらない。
客間へ案内されると、温かな茶が運ばれた。
レヴァンテは卓上に地図を広げる。
『現在、聖族国家連合は国境沿いへ兵を集結させています。確認できているだけでも、およそ五万。さらに増援が来る可能性もございます。』
『やはり動いていますか。』
ヴェゼルは静かに地図へ目を落とした。
『こちらの備えは。』
『北方諸領の兵を集結させ、各砦の補強も完了しております。しかし、兵数では劣勢です。』
コアードが腕を組む。
『敵は強いか。』
『精鋭も多いでしょう。しかし、我らも退くつもりはございません。』
『それで十分だ。』
短い言葉だった。
だが、その一言だけで部屋の空気が引き締まる。
ヴェゼルは小さく笑みを浮かべた。
『あなたらしいですね、コアード。』
『戦は、敵を斬れば終わる。』
『ええ。しかし、敵将へ剣が届くまでの道は、私が作りましょう。』
レヴァンテは二人を見比べ、静かに頷いた。
『なるほど……。武と知。その両輪が揃えば、この北方戦線も心強い。』
ヴェゼルは扇子を静かに閉じる。
『では、現状は理解しました。ここからは来たるべき戦いに備え、具体的な策を詰めましょう。』
レヴァンテは地図の中央へ手を置いた。
『承知いたしました。それでは――軍議を始めます。』
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