2話ー① 北方戦線
聖族国家連合。
それは、三十を超える聖族諸国が結成した軍事・政治同盟である。
周囲を見渡せば、魔族、妖族、獣族、賢族、小人族はいずれも一つの国家として統一されている。
対して聖族だけは、多くの国へ分かれ、長きにわたり互いに争いを繰り返してきた。
しかし、他種族という共通の脅威を前に、内輪で剣を交える愚かさを捨てることを決断する。
こうして各国は利害を超えて手を結び、外敵へ対抗するための組織――『聖族国家連合』を設立したのである。
その聖族国家連合と国境を接する魔国アーストン北方領。
この地を治めるのは、北方領主にして魔将レヴァンテ。
北方に点在する諸領を束ねる寄親であり、聖族国家連合との最前線を担う、魔国北方防衛の要であった。
レヴァンテの館へと続く街道を、第六席ヴェゼルと第七席コアードは軍勢を率いて進んでいた。
道中、街道沿いの兵や領民たちは、思わず視線をヴェゼルへ向ける。
その美貌は、戦場に立つ魔族とは思えぬほど優雅で、人々の目を奪っていた。
『また見られていますね。』
ヴェゼルは周囲の視線に気付くと、小さく微笑んだ。
『……当然だ。』
『何がです?』
『お前ほど美しい者は見たことがない。』
突然の言葉に、ヴェゼルはくすりと笑う。
『突然ですね。』
『だから敵は油断する。』
『ふふっ。それで命を落とした者も少なくありません。美女に狙われるなら、本望でしょう。』
ヴェゼルは悪戯っぽく笑みを浮かべた。
コアードは鼻で小さく笑う。
『その顔だけで敵将を隙だらけにしたこともある。』
『それも立派な戦術ですよ。武だけが戦ではありませんから。』
『……俺は武しか知らん。』
『だからこそ、私はあなたを信頼しています。あなたが敵を斬り、私は戦場を支配する。それで十分でしょう?』
コアードは短く頷いた。
『ああ。』
言葉は少ない。
だが、その一言だけで二人の間に揺るぎない信頼があることは、誰の目にも明らかだった。
やがて、一行の前方に北方領主レヴァンテ魔将の館が姿を現す。
来たるべき聖族国家連合との戦いに向け、北方戦線は静かに動き始めていた
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