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7話ー⑧ 北方大戦

北方戦線。

聖族軍と魔族軍が激突してから、すでに幾度となく戦線が押し引きを繰り返していた。

その中でも、ひと際激しい戦いを繰り広げている部隊があった。

イーリギス王国軍。

上位七カ国の一つに数えられる強国。

その先頭には、王国が誇る四人の猛者が立っていた。

聖騎士――ラスゴーグ。

聖騎士――バガーミンム。

そして聖法術士――

蒼穹のヴァプルーリ。

紅穹のリーズ。

四人の存在が、戦場の空気そのものを変えていた。

『押し込めぇぇぇ!!』

ラスゴーグの咆哮が響く。

その巨体が一歩踏み出すたび、大地が震える。

手にした大剣を振り抜く。

ズドォォン!!

直撃した魔族兵が吹き飛ぶ。

一人ではない。

その一撃によって、周囲の兵士までまとめて弾き飛ばされた。

『まだだ!!』

ラスゴーグは止まらない。

大剣を振り上げ、そのまま地面へ叩きつける。

ドガァァァン!!

地面が砕け、土砂が舞い上がる。

魔族兵たちが足を止める。

『な、なんだこいつ……!!』

『これがイーリギスの聖騎士か!!』

ラスゴーグ。

その二つ名は――。

『剛腕剛鉄』

その名の通り、圧倒的な腕力と尋常ではない防御力を誇る聖騎士だった。

魔族兵が数人がかりで斬りかかっても、その巨体は揺るがない。

剣を受ける。

槍を受ける。

魔法の余波さえ真正面から耐える。

そして――。

『邪魔だ!!』

一振り。

また一振り。

魔族兵が次々と薙ぎ倒されていく。

そのすぐ隣では、もう一人の聖騎士が戦っていた。

バガーミンム。

巨大な身体を持ちながら、その動きは驚くほど静かだった。

敵の攻撃を見極める。

半歩避ける。

そして――。

拳を叩き込む。

ドゴォッ!!

魔族兵の身体が宙へ舞う。

『ぐぁっ!!』

続けて二人。

三人。

四人。

まるで岩を砕くかのように、魔族兵を一人ずつ粉砕していく。

その顔には、ほとんど表情がない。

冷静。

冷徹。

まるで戦場にいることすら忘れているかのようだった。

だが――。

その瞳だけは違った。

静かに燃えている。

血が滾っている。

バガーミンムは戦場を見渡した。

『……まだだ』

低く呟く。

『まだ足りぬ』

倒した敵の数ではない。

戦況でもない。

彼が探しているのは――。

一人の魔族。

八冥王、第七席。

コアード。

『……どこだ』

バガーミンムの瞳が鋭くなる。

拳を握り締める。

『どこにいる……』

その声には、抑えきれない闘争心が滲んでいた。

だが、焦りはない。

敵兵を一人。

また一人。

確実に倒しながら、戦場の奥へ進んでいく。

コアードを探すために。

一方――。

戦場の後方では、二人の聖法術士が戦場を見下ろしていた。

蒼穹のヴァプルーリ。

紅穹のリーズ。

二人は並んで立ち、魔族軍の動きを冷静に観察している。

『右側、魔族の増援が入ります』

リーズが告げる。

ヴァプルーリは静かに頷いた。

『ならば、こちらも合わせましょう』

二人が同時に杖を掲げる。

周囲の魔力が一気に膨れ上がった。

『蒼穹――』

ヴァプルーリの頭上に、青白い魔法陣が展開する。

『天より穿て』

次の瞬間。

無数の光が空から降り注いだ。

ズガガガガガガガッ!!

地面が次々と爆ぜる。

魔族兵たちが散開する。

『うわぁぁぁ!!』

『魔法だ!!』

『散れ!!』

だが――。

逃げた先にも、魔法陣が展開される。

リーズが杖を振る。

『紅蓮――』

赤い魔法陣が戦場を覆う。

『焼き尽くせ』

ゴォォォォォ!!

紅い炎が地面を走り、魔族軍の進路を塞ぐ。

二人の魔法は、単純に敵を倒すだけではない。

敵軍の動きを制限し、味方の危機を救い、戦場そのものを作り変えていく。

『左翼が押されています』

リーズが言う。

『では、そちらへ』

ヴァプルーリが即座に答える。

二人は攻撃対象を切り替えた。

迫っていた魔族軍へ広範囲の魔法を放つ。

その隙に、後退していたイーリギス兵が態勢を立て直す。

『助かったぞ!!』

『まだ戦えます!!』

『ならば前へ!!』

再びイーリギス軍が進む。

ヴァプルーリとリーズは魔族軍の動きを警戒しながら、味方の戦線を支えていく。

そして――。

二人の視線が、一人の魔族へ向いた。

ヴェゼル。

八冥王、第六席。

戦場の流れを見極め、的確な指示を飛ばしている。

『……あの女』

リーズが呟く。

『ええ』

ヴァプルーリも頷く。

『魔法を放つだけの者ではありませんね』

『戦場全体を見ています』

『ならば、あの女の動きには注意しましょう』

二人はヴェゼルを警戒しながら、再び魔法を放つ。

戦場の至るところで爆発が起こる。

聖族軍が進む。

魔族軍が押し返す。

再び聖族軍が前へ出る。

その中心で――。

四人の猛者が、それぞれの戦いを繰り広げていた。

ラスゴーグは眼前の敵を薙ぎ倒し。

ヴァプルーリとリーズは広範囲の魔法で戦場を制圧する。

そしてバガーミンムは――。

ただ一人を探していた。

『……コアード』

その名を、静かに口にする。

周囲の魔族兵を次々と倒しながら、さらに奥へ進む。

『どこだ』

その瞳に宿る闘志が、少しずつ強くなる。

一方――。

戦場の反対側。

ラスゴーグもまた、敵陣の奥へと進んでいた。

そして。

ふと、その足が止まる。

『……ん?』

遠くに、一人の魔族が見えた。

周囲の兵士たちとは明らかに違う。

静かに立っている。

その存在だけで、周囲の空気が変わっている。

ラスゴーグは目を細めた。

『あれは……』

魔族軍の一角。

その男は、淡々と戦場を見ていた。

ジセンニティ。

ラスゴーグは口元を僅かに吊り上げる。

『……見つけたぞ』

大剣を握り直す。

『貴様からだ』

ラスゴーグは、一歩踏み出した。

そして――。

ジセンニティへ向かって、真っ直ぐに進み始めた。

戦場の喧騒の中。

二人の距離が、ゆっくりと縮まっていく。

その先に待つ戦いが、北方戦線の戦況を大きく揺るがすことになる。

だが――。

それは、次の瞬間から始まる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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