7話ー④ 7カ国の決断
上位七カ国による会議は、長時間に及んでいた。
幾度となく意見がぶつかり合い、互いの思惑が交錯する。
しかし――。
議論は、ようやく一つの結論へと向かおうとしていた。
円卓の中央には、新たにまとめられた決議案が置かれている。
その内容を、代表の一人が読み上げる。
『第一項』
『上位七カ国は、聖族国家連合の戦争に対し、最低一個軍団を派兵するものとする』
室内に静かな緊張が走る。
『一個軍団……』
消極派の代表が呟いた。
『最低でも、それだけは出せということか』
『そうだ』
『では、第二項へ』
書面へ目を落とす。
『最低規模である一個軍団の派兵に留める国家は、その代わりとして――』
一拍。
『五個軍団が三年間、継続して戦闘可能となるだけの兵糧、武器、装備、医療物資、輸送費、戦費その他必要経費を負担する』
消極派の表情が険しくなる。
『……随分と重いな』
『当然だろう』
積極派の代表が即座に返した。
『一個軍団だけを前線へ送り、自国の戦力を温存するのであれば、その分を後方から支える』
『それが今回の取り決めだ』
『しかし、五個軍団を三年間……』
『戦争が三年で終わる保証などない』
『だからこそ、最低限の基準を設ける』
イーリギス王国の代表が静かに口を開いた。
『我々は、すでに戦場にいる』
『戦争とは、兵だけで戦うものではない』
『兵糧が尽きれば戦えない』
『武器がなければ戦えない』
『負傷者を治療できなければ戦線は維持できない』
『そして何より――』
男は円卓を見渡した。
『戦費が尽きれば、国家そのものが戦争を続けられなくなる』
誰も反論できなかった。
『この条件ならば、前線へ大軍を送らずとも戦争には貢献できる』
『最低限の派兵と、十分な後方支援』
『それが消極派の求めていた形でもあるはずだ』
消極派の代表が腕を組む。
『……なるほど』
そして、決議案の最後の項目へ目を向けた。
『では、第三項は?』
別の代表が読み上げる。
『派兵規模が増加した場合、後方支援における負担割合は、それに応じて軽減されるものとする』
一瞬。
円卓に沈黙が落ちた。
やがて――。
『つまり』
消極派の代表が確認する。
『一個軍団ならば、五個軍団を三年間維持できるだけの支援を負担する』
『しかし、二個軍団を出せば、その支援負担は減る』
『三個軍団なら、さらに減る』
『その通り』
『……なるほど』
男は椅子へ深く腰を預けた。
『兵を出せば出すほど、後方負担が軽くなるわけか』
『戦場で貢献するほど、自国の負担を抑えられる』
『そういうことだ』
積極派の代表が笑った。
『これならば、誰も損をしない』
『いや』
イーリギス王国の代表が静かに言う。
『損はする』
全員の視線が集まる。
『戦争である以上、誰も無傷では済まない』
『兵を出せば、兵が死ぬ』
『金を出せば、国庫が減る』
『物資を出せば、自国の備蓄が減る』
『だが――』
男は一度言葉を切った。
『何もしなければ、戦後に何も得られない』
『それどころか、勝者から置き去りにされる』
円卓にいる全員が、その言葉の意味を理解していた。
戦争とは、勝敗だけではない。
戦後に誰が発言権を持つのか。
誰が利益を得るのか。
誰が世界の秩序を決めるのか。
そのための戦いでもある。
やがて、一人の代表が口を開いた。
『……我が国は、この条件を受け入れよう』
続いて、別の代表も頷く。
『我が国も異論はない』
そして――。
『我が国も同意する』
一人。
また一人。
上位七カ国の代表たちが、次々と賛同を示していく。
最後に残ったのは、イーリギス王国だった。
男は決議案へ目を落とし――。
静かに頷いた。
『イーリギス王国も同意する』
その瞬間。
上位七カ国すべての合意が成立した。
聖族国家連合の戦争は、新たな段階へ入る。
最低一個軍団。
それが、上位七カ国に課された最低限の戦力だった。
そして――。
会議が終わるより早く、動き始める国があった。
積極派三カ国。
彼らは迷わなかった。
『一個軍団を編成せよ』
『目的地は――』
一人の代表が答える。
『イーリギス王国』
すでに魔族との戦線を抱える国。
そこへ、三カ国から一個軍団ずつ。
合計三個軍団が送られることとなった。
出陣の準備が始まる。
各国で軍旗が掲げられ、兵士たちが集められていく。
武器が運び出される。
馬車が街道を埋め尽くす。
兵糧が積み込まれ、軍需物資が次々と前線へ向けて送り出される。
これまで戦場から遠く離れていた国々が――。
ついに、その軍勢を動かし始めた。
そして、その先に待っているのは。
魔族。
八冥王。
そして、魔皇ヴァンキッシュ。
イーリギス王国へ集結し始める新たな軍勢。
魔族側もまた、次なる戦いへ備えている。
一つの戦線が動けば、別の戦線も動く。
一つの国家が兵を送れば、それに呼応するように別の国家も動き出す。
もはや、この戦争を止めることは容易ではない。
聖族と魔族。
その二つの勢力の戦いは――。
世界中の国家を巻き込みながら、さらなる混迷の渦へと飲み込まれようとしていた
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