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7話ー③ 上位7カ国

聖族。

それは、人間という種族そのものを指す総称である。

そして世界各地に存在する人間の国家。

それらを束ねる巨大な枠組みが、聖族国家連合だった。

国家間の利害を調整し、共同戦線を構築するために組織された聖族国家連合。

さらに、その上に存在するのが――。

聖族国家連合評議会。

各国の代表が集まり、連合全体に関わる重大な決定を下す最高意思決定機関である。

その評議会から、ある要請が届けられた。

南方戦線――。

魔族との国境に展開する前線司令部からの正式な要請。

現有戦力では、大規模な攻勢に出ることは難しい。

魔族の防衛線を突破するには、さらなる兵力が必要。

そこで評議会が目をつけたのが――。

上位七カ国だった。

聖族国家連合の中でも、突出した国力を誇る七つの国家。

その軍事力。

経済力。

政治的影響力。

いずれも他国とは比較にならない。

そして今、その七カ国の代表が一堂に会していた。

円卓。

その中央には、南方戦線の地図。

その脇には、前線司令部から届けられた要請書が置かれている。

『――南方戦線より、増援要請です』

評議会の使者が読み上げる。

『魔族は西方で獣族との戦闘を終えたものの、依然として戦力を保持しております』

『現在の戦力では決定的な攻勢を仕掛けることが困難』

『よって、上位七カ国からの兵力提供を求める――』

読み上げが終わる。

しばしの沈黙。

やがて、一人が口を開いた。

『……つまり、我々に兵を出せと』

『前線司令部からの正式な要請です』

『それは分かっている』

男は椅子に深く腰掛ける。

『しかし、なぜ我々が?』

その言葉に、別の代表が反応する。

『魔族との戦争だからでしょう』

『それが理由になると?』

『我々は聖族国家連合の一員です』

『だから?』

『ならば、連合の戦争に協力するのは当然では?』

『当然という言葉で、自国の兵を死地へ送るつもりか?』

空気が張り詰める。

一人の代表が静かに笑った。

『我々は戦争に反対しているわけではない』

『魔族を倒すことにも異論はない』

『ただ――』

指を組む。

『なぜ、我々が前線へ兵を出す必要があるのかと聞いている』

『他国が戦えばいい』

『魔族が敗れれば、それで我々も恩恵を受けられる』

『戦後の利益は、当然我々にも配分されるのでしょう?』

その言葉に、別の代表が眉をひそめた。

『……随分と都合のよい考えだ』

『合理的と言ってほしい』

『自国の兵を失わず、戦後の利益だけを得る』

『それの何が悪い?』

『悪いに決まっている!』

強い声が響いた。

円卓の一角。

イーリギス王国の代表だった。

すでに自国軍を魔族との戦争へ投入している男である。

『我が国は、すでに魔族と戦っている』

『兵を送り、血を流している』

『戦争というものを、机上の計算だけで語るな』

消極派の一人が冷静に返す。

『では問おう』

『イーリギス王国は、何のために戦っている?』

『魔族を倒すためだ』

『ならば、貴国が戦えばいい』

『……何?』

『我々まで戦う必要があるのか?』

一瞬、イーリギス王国の代表の目が鋭くなる。

しかし、すぐに口元を緩めた。

『なるほど』

『そういう考えか』

『ええ』

『ならば、もう一つ聞こう』

男は静かに身を乗り出した。

『もし魔族が我々を破ったら?』

『その時は――』

『その時は何だ?』

『聖族国家連合全体で戦えばいい』

『その時には、もう遅いかもしれんぞ』

沈黙。

その言葉を遮るように、別の代表が口を挟んだ。

『魔族は確かに強い』

『しかし、我々全体の戦力を考えれば、最終的には勝てる』

『ならばなおさら、自国の兵を温存すべきでしょう』

『戦争が長引けば、最後に残るのは兵力の多い国だ』

『我々はそのために温存している』

『それを戦略と呼ぶ』

『戦略ではない』

別の代表が静かに言った。

『ただの傍観だ』

『何とでも言えばいい』

『勝てばいいのだから』

再び議論が激しくなる。

『では、三カ国は一切派兵しないというのか?』

『そうは言っていない』

『必要な物資なら提供する』

『資金も出そう』

『武器も供給できる』

『だが、兵だけは別だ』

『自国民を前線へ送るつもりはない』

『戦争に必要なものを提供しているのだから、それで十分だろう』

積極派の一人が吐き捨てるように言う。

『戦争の利益は欲しい』

『だが、戦争の犠牲は負いたくない』

『それでは虫が良すぎる』

『何が悪い?』

『国家とは、自国の利益を追求するものだ』

『その通り』

『ならば――』

イーリギス王国の代表が静かに口を開いた。

『我々も、自国の利益を考えて行動すればいい』

消極派の三人が顔を上げる。

『戦後の利益配分を、戦争への貢献度で決めればいい』

『……』

『兵を出した国』

『物資を出した国』

『資金を出した国』

『それぞれに応じて、戦後の利益を配分する』

『そして、何もしなかった国には――』

そこで言葉を止める。

別の積極派が続けた。

『相応の取り分しか与えない』

消極派の表情が変わる。

『それは脅しか?』

『違う』

イーリギス王国の代表は淡々と答えた。

『当然の話だ』

『自国の兵を戦場へ送り、血を流した国と』

『安全な場所に兵を置いたまま、戦後の利益だけを受け取る国』

『同じ扱いにする必要があるのか?』

反論が止まる。

だが、消極派も黙ってはいなかった。

『戦争に勝てる保証は?』

『魔族が勝つ可能性だってある』

『その場合、我々が兵を失う意味は?』

『だからこそ戦うのだ』

『魔族を勝たせないために』

『それでも我々は――』

『いや』

一人の代表が口を挟む。

これまで黙っていた男だった。

『話が少し違う』

全員がそちらを見る。

『我々が考えるべきなのは、派兵するか否かだけではない』

『では何だ?』

『どこまで派兵すれば、自国の利益と安全を両立できるかだ』

沈黙。

『三カ国が完全に兵を出さないという選択肢は、確かに合理的だ』

『しかし、戦争が進み、戦後の秩序が決まった時』

『我々だけが何もしていなかったとなれば――』

『発言力を失う』

『その通り』

『ならば、少数でも兵を出す』

『自国の犠牲を抑えながら、戦争へ関与したという実績を作る』

『それならば、戦後の利益も確保できる』

消極派の代表たちが互いに顔を見合わせる。

それは、彼らにとって悪くない提案だった。

イーリギス王国の代表は、その様子を静かに眺めていた。

『……ようやく話が現実的になってきたな』

誰かが笑う。

『我々は別に魔族を助けたいわけではない』

『もちろんだ』

『聖族国家連合が勝利することを望んでいる』

『ならば――』

イーリギス王国の代表が立ち上がる。

『その勝利の席に座るための最低限の責任は果たせ』

誰も言い返さなかった。

だが、まだ正式な決定は出ていない。

三カ国がどこまで兵を出すのか。

どれだけの物資を提供するのか。

そして、戦後に何を求めるのか。

すべてはこれからだった。

ただ一つ。

この円卓で明らかになったことがある。

魔族との戦争は――。

もはや聖族だけの戦争ではない。

世界の頂点に立つ七つの国家。

その思惑さえも巻き込みながら、戦争は少しずつ、その規模を広げ始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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