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7話ー② 聖族の戦略

聖族国家連合――南方戦線。

聖族側から見れば南方。

その先には、魔族領が広がっている。

国境を挟んだ向こう側では、魔族軍が橋頭堡を築き、いつでも戦える態勢を維持していた。

聖族軍もまた、南方の国境付近へ兵を配置している。

しかし――。

両軍とも、今すぐ大規模な戦闘を始められる状況ではなかった。

聖族側の司令部。

一室に集められた高官たちは、南方一帯の地図を囲んでいた。

『……現状では、攻勢に出るのは難しいでしょう』

一人の高官が口を開く。

『我々の兵力では、魔族の防衛線を突破するには不足しています』

『魔族側も大きく動いてはいませんが、橋頭堡を失うつもりはないようですな』

『こちらが兵を増やせば、向こうも増やす』

『こちらが動かなければ、向こうも動かない』

誰かが小さく息を吐いた。

『膠着ですな』

地図の上に置かれた駒。

その数は決して少なくない。

しかし、魔族へ攻勢を仕掛けるには十分とは言えなかった。

『ならば、増援を呼びましょう』

一人の高官が言った。

『どこから?』

『南方戦線に近い国々からです』

指先が地図上を滑る。

『前線に近い国家ならば、兵を動かす距離も短い』

『我々が要請すれば、ある程度の兵力を送ってくるでしょう』

『しかし、簡単に兵を出してくれるでしょうか』

その問いに、室内が静かになる。

聖族国家連合には、複数の国家が参加している。

そして、その国々がすべて同じ考えを持っているわけではない。

魔族を敵とすることには、多くの国が賛同している。

魔族が世界にとって脅威であるという認識も共有されている。

だが――。

戦争への関わり方には、大きな差があった。

『特に問題なのは、上位七カ国です』

高官の一人が言った。

『あの七カ国の中に、明確な反戦派はいません』

『ええ』

『魔族との戦争そのものには、皆が賛成している』

『ならば問題はないのでは?』

『……そう簡単ではありません』

高官が苦笑する。

『賛成していることと、兵を出すことは別です』

その言葉に、何人かが頷いた。

『三カ国』

『彼らは特にそうです』

『戦争には賛成する』

『魔族が敗れることも望んでいる』

『しかし、自国の兵を前線へ出すことには消極的』

『戦争によって得られる利益には興味がある』

『だが、自国民が血を流すことは避けたい』

一人の高官が皮肉気に笑った。

『随分と都合のよい話ですな』

『ですが、彼らにとっては合理的なのでしょう』

『魔族が敗れれば、戦後の利益を得られる』

『ならば、自分たちは安全な場所にいたほうがいい』

室内に、冷たい沈黙が落ちる。

やがて一人の高官が口を開いた。

『……それを許すおつもりですか?』

『まさか』

即答だった。

『ならば、どうやって引きずり出す?』

高官はしばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと笑う。

『餌を与えればよい』

『餌……?』

『戦後の利益です』

その言葉に、全員の視線が集まる。

『魔族が敗れた後、どの国がどれだけの利益を得るか』

『それを、戦争への貢献度によって決めるのです』

『兵を出した国には、それに見合った利益を』

『物資を提供した国にも、相応の見返りを』

『だが――』

男の声が低くなる。

『何もしなかった国には、それ相応の扱いをする』

『……戦後の分配から外す、と?』

『完全に外す必要はありません』

『ただし、積極的に戦った国々よりも、得られるものを少なくする』

別の高官が腕を組む。

『なるほど』

『自分たちだけ安全な場所にいて、戦後の利益だけを求める』

『そんな都合のよい立場を許さないということですな』

『ええ』

高官は頷いた。

『戦争に参加する理由を、こちらから与えるのです』

『命令する必要はありません』

『彼ら自身が、自国の利益のために兵を出したくなる状況を作ればよい』

誰かが感心したように呟いた。

『外交ですな』

『その通り』

聖族は、軍事力だけで世界を動かそうとしているのではない。

各国の思惑。

利益。

恐怖。

欲望。

それらを利用し、国家そのものを動かそうとしていた。

しかし――。

その前に、目下の問題がある。

南方戦線の兵力不足。

『まずは、前線付近の国家へ増援を求めましょう』

高官が地図を指差す。

『ここからです』

『この国々ならば、兵を送ることは可能でしょう』

『ただし、ただ「兵を出せ」と頼むだけでは動きません』

『分かっています』

『我々から条件を提示する』

『資金』

『物資』

『交易』

『そして戦後の利益』

次々と交渉材料が挙げられていく。

『彼らが欲しいものを与える』

『その代わりに、兵を求める』

『そして、その交渉を成功させた後――』

高官の視線が上位七カ国の名が記された資料へ移る。

『次は、あの三カ国です』

『利益だけを求める者たちを、戦場へ引きずり出す』

『兵を出させる』

『少なくとも、物資と資金だけでも出させる』

『戦争への関与を深めさせる』

別の高官が頷いた。

『そうすれば、上位七カ国全体の戦力も増える』

『そして魔族へ与える圧力も増す』

『その通りです』

会議室の空気が徐々に熱を帯びていく。

『南方戦線を膠着させてはならない』

『魔族に時間を与えれば、彼らは戦力を整える』

『ならば、こちらが先に動く』

『増援を集め、戦力を整え――』

一人の高官が、魔族領を示す駒を見つめた。

『次は、我々から攻める』

その言葉に、全員が静かに頷いた。

『では、使者を』

『すぐに派遣しましょう』

『前線付近の国家へ増援要請を』

『そして上位七カ国への交渉も同時に進める』

『特に三カ国には、戦後の利益について明確に伝えよ』

『戦争に参加することが、自国にとって最も得になると理解させるのです』

次々と指示が飛び交う。

書状が作られ、使者が選ばれていく。

南方戦線には、まだ大軍は集まっていない。

しかし――。

戦場へ向かう兵士たちより先に、外交官たちが動き始めた。

剣を抜く前に。

槍を構える前に。

聖族は、国家を動かす。

南方戦線の戦況を変えるために。

そして――。

魔族を取り囲む輪を、さらに一つ増やすために。

聖族の外交戦が、静かに始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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