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6話ー⑧ 増援

魔国アーストン。

魔皇城バルルモラ。

ヴァンキッシュから西方戦線への増援命令が下されてから、程なくして――。

一軍が城門前へ集結していた。

整然と並ぶ魔族兵。

その数は三万。

誰一人として私語をする者はいない。

ただ静かに、己の武器を携え、出陣の時を待っている。

その先頭に立つ男。

八冥王第八席――トレイルエクス。

黒衣を纏い無表情のまま軍勢を見渡していた

やがて彼は、一歩前へ出る。

『……諸君』

低く、よく通る声が響く。

三万の兵士たちが一斉に顔を上げた。

『西方では、今も我らが同胞が戦っている』

兵士たちは黙って聞いている。

『獣族は大軍をもって、我らの橋頭堡を奪おうとしている』

『センチュリー様とヴィルフェイエ様が前線を支えている』

トレイルエクスは一度言葉を切る。

『だが、二人だけに戦わせるわけにはいかぬ』

その瞬間。

兵士たちの表情が変わった。

『我らは今より西方へ向かう』

『目的は一つ』

トレイルエクスが拳を握る。

『同胞を救い、橋頭堡を守る』

静寂。

そして――。

『我らが遅れれば、戦線は崩れる』

『一刻の猶予もない』

トレイルエクスは軍勢を見渡した。

『ならば――』

『全速力で向かう』

その言葉に、兵士たちが一斉に武器を掲げる。

『おおおおおおおっ!!』

雄叫びが魔国の城壁を震わせた。

トレイルエクスは振り返る。

『出るぞ』

『西方へ』

『進め!!』

一万の魔族軍が、一斉に動き始めた。

――西方戦線。

戦場では、未だ獣族軍の猛攻が続いていた。

『押し返せ!!』

『中央を守れ!!』

魔族兵たちが必死に戦う。

しかし、疲労は限界に近づいていた。

センチュリーが敵を吹き飛ばす。

ヴィルフェイエが指揮を執る。

それでも、獣族軍の波は止まらない。

『……まだ来ますか』

センチュリーが呟く。

ヴィルフェイエも周囲を見渡す。

『ええ』

『どうやら、まだまだ終わる気はないようですね』

その時だった。

遠くから、魔族兵の一人が駆けてくる。

『ご報告します!!』

『何事です?』

『後方より――』

伝令兵は息を切らしながら叫ぶ。

『援軍です!!』

センチュリーの眉が僅かに動く。

『……援軍?』

『はい!!』

『三万規模の魔族軍が、こちらへ向かっております!!』

ヴィルフェイエが目を細める。

『まあ……』

そして、どこか楽しそうに笑った。

『魔皇様もお人が悪い』

センチュリーが横目で見る。

『何がです?』

『私たちだけで戦わせてくださると思っていたのに』

『最後には、きちんと切り札を用意してくださっていたようです』

センチュリーは小さく笑う。

『切り札、ですか』

その直後――。

遠くから、大地を踏み鳴らす音が響いてきた。

ズン。

ズン。

ズン。

その音は次第に大きくなっていく。

魔族軍の旗が見えた。

先頭を走る兵士たち。

その中央に、一人の男がいる。

『……あれは』

センチュリーが目を細める。

ヴィルフェイエが微笑む。

『第八席――』

『トレイルエクス』

やがて援軍が橋頭堡へ到着する。

トレイルエクスは馬から降りると、二人のもとへ歩み寄った。

『……遅くなった』

センチュリーは腕を組む。

『十分です』

ヴィルフェイエが微笑む。

『ええ。絶妙なところへ来てくださいました』

トレイルエクスは周囲を見渡す。

倒れた兵士。

破壊された防柵。

土煙の向こうから押し寄せる獣族軍。

そして、疲弊した魔族兵。

『……かなり押されているな』

『ええ』

センチュリーが答える。

『敵の数が多すぎる』

ヴィルフェイエも続ける。

『こちらが一つ潰せば、向こうから二つ出てくる』

トレイルエクスは静かに頷く。

『ならば、やることは一つだ』

『戦線を押し戻す』

センチュリーが拳を握る。

『同感です』

ヴィルフェイエが微笑んだ。

『では、参りましょう』

三人が戦場へ視線を向ける。

トレイルエクスが軍勢へ向かって手を上げた。

『全軍――』

『前へ』

『おおおおおおおっ!!』

三万の魔族兵が、一斉に戦場へ突入する。

その瞬間だった。

魔族軍の戦線が、一気に動いた。

『援軍だ!!』

『魔族の援軍が来たぞ!!』

『押し返せ!!』

疲弊していた兵士たちの表情に、再び力が戻る。

新たに加わった三万の兵士たちが、獣族軍へと突撃する。

『うおおおおおおっ!!』

両軍が激突する。

先ほどまで押されていた魔族軍が、逆に獣族軍を押し返し始めた。

『敵の右翼が崩れた!!』

『追い込め!!』

『中央も押し返せ!!』

魔族軍が前進する。

獣族兵が次々と倒れていく。

その中をトレイルエクスが進む。

無駄な動きは一切ない。

ただ前へ進み、立ちはだかる敵を一人ずつ確実に倒していく。

その姿を見た獣族兵たちに動揺が走る。

『また……魔族の強者が……!!』

『怯むな!!』

獣族軍の指揮官たちが必死に叫ぶ。

『数はこちらが上だ!!』

『押し返せ!!』

獣族軍も踏み止まる。

一度崩れかけた隊列を立て直し、次々と兵を投入する。

『前へ!!』

『ここで退くな!!』

獣族兵たちが再び前進する。

魔族軍も止まらない。

獣族軍も退かない。

両軍が激しくぶつかり合う。

やがて――。

戦線が止まった。

魔族軍が押していた。

獣族軍も押し返していた。

どちらも決定的な突破口を作れない。

センチュリーが戦場を見渡す。

『……止まりましたね』

ヴィルフェイエが頷く。

『ええ』

トレイルエクスも静かに前方を見る。

『五分、か』

魔族軍は、援軍によって再び戦線を立て直した。

獣族軍も、持てる戦力を投入して踏み止まった。

朝から続く激戦。

その戦場に――。

束の間の膠着が訪れた。

だが。

誰もが分かっていた。

これは終わりではない。

獣族軍は、まだ大量の兵力を残している。

そして魔族軍もまた――。

ここからが、本当の戦いになることを理解していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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