幕間 3人のご褒美
魔皇城バルルモラ――。
玉座の間。
静かな空気の中、三人の側近がヴァンキッシュの前に並んでいた。
ヴァンテージ、ヴィラージュ、ラピート。
三人は揃って片膝をつき、頭を垂れている。
やがてヴァンキッシュが静かに口を開いた。
『報告を。』
ヴァンテージが顔を上げる。
『はっ。』
『先日、聖族による襲撃を受けた中間都市へ到着後、現地の領主および守備隊から情報を収集しました。』
『その結果、都市西部の旧倉庫街に聖族の襲撃部隊が潜伏していることを確認。』
『我々三名でこれを制圧し、襲撃部隊を討伐いたしました。』
ヴァンキッシュは静かに頷く。
『被害は?』
『住民への被害は最小限に抑えられました。』
『都市の警備体制も再編し、今後同様の襲撃が発生した際の対応について、領主へ指示しております。』
『よくやった。』
短い言葉。
それだけだった。
だが、三人にとっては十分だった。
ヴァンキッシュが玉座から立ち上がる。
『今回の任務は、三人の働きによって迅速に終結した。』
『それぞれに褒美を与えよう。』
ラピートの目が輝く。
『まぁ! 褒美ですってぇ♪』
ヴァンテージが小声で制する。
『ラピートさん、まだ話の途中ですよ。』
『分かってるわよぉ。』
ヴィラージュは微笑みながら二人を見ていた。
ヴァンキッシュはまず、三人へ金貨の入った袋を渡す。
『まずは金銭を与える。』
『それぞれ、受け取るがいい。』
三人は頭を下げる。
『ありがとうございます。』
『ありがたく頂戴いたします。』
『あらぁ! 太っ腹ねぇ♪』
ラピートだけは嬉しそうに袋を持ち上げる。
『重いわぁ♪』
『……それは金貨が入っているからでしょう。』
ヴァンテージが呆れたように言う。
『分かってるわよぉ♪』
ヴァンキッシュはそんな二人を気にする様子もなく続けた。
『そして、三人には交代で数日の休暇を与える。』
『戦場が広がる中、貴重な人員ではあるが――』
『休むこともまた、務めの一つだ。』
三人の表情が変わった。
ヴァンテージが深く頭を下げる。
『ありがとうございます、魔皇様。』
ヴィラージュも微笑む。
『ありがたく頂戴いたします。』
ラピートは両手を広げる。
『休暇ですってぇ!?』
『最高じゃなぁい!!』
『……声が大きいですよ。』
『だって嬉しいんだものぉ♪』
玉座の間に小さな笑いが起こる。
そしてヴァンキッシュは三人を順に見た。
『最後に、一人ずつ願いを聞こう。』
『今すぐ叶えられるものでなくとも構わぬ。』
『私が一度だけ、望みを聞き届けよう。』
三人は驚いた。
ヴァンテージが顔を上げる。
『……私たち一人ずつ、でしょうか?』
『そうだ。』
しばしの沈黙。
最初に口を開いたのはヴィラージュだった。
『では……私からお願いしてもよろしいでしょうか?』
『申せ。』
ヴィラージュは少し考えた後、静かに微笑む。
『私に、より強力な武器を一つ。』
『今使っているものでも不満はありません。』
『ですが、今後さらに強大な敵と戦うことを考えれば、もう一段階上の力が必要だと感じています。』
ヴァンキッシュは頷いた。
『よかろう。』
『お前に相応しい武器を用意させる。』
『ありがとうございます、魔皇様。』
ヴィラージュは深々と頭を下げた。
次にヴァンキッシュの視線がラピートへ向く。
『ラピート。』
『はいはぁい♪』
『お前は何を望む?』
ラピートは少し考えた。
『そうねぇ……。』
そして、にっこりと笑う。
『アタシに、数人の部下をつけてほしいわ。』
ヴァンテージが少し意外そうな顔をする。
『部下ですか?』
『そうよぉ。』
ラピートは胸を張る。
『今回みたいに急な任務があった時、アタシ一人じゃ手が回らないこともあるでしょう?』
『それに、若い子たちを鍛えてあげたいのよ。』
『強くして、立派な魔族兵にしてあげるわぁ♪』
ヴァンキッシュはしばしラピートを見つめる。
『よかろう。』
『お前が選び、育てることを許す。』
『やったぁ!!』
ラピートは思わず拳を握った。
『ありがとうございます、魔皇様ぁ!!』
『大切に育てるわねぇ♪』
ヴァンテージが微笑む。
『ラピートさんなら、良い部下が育ちそうですね。』
『もちろんよぉ!』
『厳しくするときは厳しく、優しくするときは優しく!』
『それに――』
ラピートはニヤリと笑う。
『アタシより大きな子が来たら嬉しいわぁ♪』
『……それは難しいかもしれませんね。』
ヴィラージュがくすりと笑った。
そして最後に、ヴァンキッシュはヴァンテージを見る。
『ヴァンテージ。』
『はい。』
『お前の望みは?』
ヴァンテージは少し考えた。
そして、静かに答える。
『……今は、まだございません。』
ヴァンキッシュが僅かに眉を動かす。
『使わぬのか?』
『はい。』
ヴァンテージは微笑む。
『いつか、本当に必要な時が来たならば――』
『その時に、魔皇様へお願いしたいと思います。』
ヴァンキッシュはしばし沈黙した。
やがて。
『よかろう。』
『その願いを、いつでも聞き届けると約束しよう。』
『ありがとうございます。』
ヴァンテージは深く頭を下げる。
三人の側近。
それぞれの望みは違う。
より強い武器を望む者。
部下を望む者。
そして、未来のために願いを残す者。
ヴァンキッシュは三人を見渡した。
『では、これにて下がれ。』
『休暇を楽しむがいい。』
『はっ!!』
三人は揃って頭を下げる。
玉座の間を出ていく。
廊下へ出た瞬間――。
ラピートが大きく息を吐いた。
『あぁ~! 緊張したわぁ!』
『でも、最高のご褒美をもらっちゃった♪』
ヴァンテージが笑う。
『部下を持つの、楽しみですね。』
『ええ。』
ヴィラージュも微笑んだ。
『私も新しい武器が楽しみです。』
『そしてヴァンテージは――』
ラピートがニヤニヤしながら顔を覗き込む。
『いつかのお願いを残した、と。』
『……はい。』
『一体、何をお願いするつもりなのぉ?』
ヴァンテージは少しだけ考え――。
『それは、その時が来てからのお楽しみです。』
『まぁ、気になるわぁ!』
三人の声が廊下へ響く。
戦場では、今も多くの兵士たちが命を懸けて戦っている。
その一方で。
魔皇城バルルモラには、今日も束の間の穏やかな時間が流れていた。
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